第16話 想ってくれる人を好きになれていれば(ラスト)
定は卒業式を迎える。
歌姫に対する偽告白のせいで、高校卒業まで彼女を作れなかった。大きな失敗は一度でアウトになることを、今回の失敗から学んだ。これからは同じ轍を踏まないようにしよう。
偽告白を発案した男も、一人ぼっちのままだった。偽告白の発案者として、女たちから徹底的に避けられていた。
定のところに、学校一の美人が近づいてくる。
「定、一緒に写真を撮ろう」
歌姫はスマホを手にしており、写真を撮る気満々だった。
「わかった。一緒に写真を撮る」
定は普段通り、歌姫は満面の笑みを浮かべている。二人の間には、明らかな温度差があった。
歌姫は写真を撮ったあと、頭を深く下げた。
「命を助けてくれて、本当にありがとう。守ってくれた体を、一生大切にしていくね」
いいことはすぐに忘れて、嫌なことはずっと覚えている。命を助けたことについては、あてはまっていなかった。
「歌姫さん、いい人生を築けるといいね」
歌姫は小さな声で返事する。
「そうだね・・・・・・」
歌姫の瞳から、大粒の涙がこぼれた。
「定とはなればなれになるのは、すっごく寂しいよ」
「歌姫さん・・・・・・」
歌姫は透明の液体を、左腕で拭った。
「私と交際しよう。一緒に生活しよう。二人で支え合っていこう」
告白というよりは、将来のプロポーズさながら。彼女は命を助けた男と、将来を共にする覚悟を持っている。
定は一息吐いたあと、
「ごめん・・・・・・」
と小さく呟く。恋愛感情すら持っていない状況で、将来を共にするのは考えられなかった。
歌姫はショックを受ける様子を見せなかった。
「そうだよね。私は重すぎるよね」
「そんなことはないけど、心に嘘はつくのは難しい」
学校一の美人を好きになれれば、それなりにハッピーな生活を送れる。それを理解していても、彼女に対する恋は芽生えなかった。
「5年、10年であっても、私は待っているよ。興味を持ったら、連絡を入れてね」
歌姫は一枚の紙を差し出す。電話番号、ラインのアドレスなどが記されていると思われる。
「ああ、約束する」
定は一枚の紙を受け取り、鞄の中にしまう。そのあと、空にゆっくりと視線を送った。とぎれとぎれになっている雲は、自分を好きになったことがある女の子をかすかに感じさせるものだった。100パーセントの恋心と断ち切ったはずなのに、自分だけは大切にしてもらえるのではないか。そのようなことを頭の中で、思い浮かべていた。
好意を持ってくれている学校一の美人に、偽告白をしました のんびり @a0dogy69
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