落ちこぼれ少年、すっぽんぽんのフルチン冒険者になる。
服が燃え上がり、完全に裸となった俺。突き刺さる視線の元を辿ると、俺のそれを凝視するカペラがいた。
「レグル様……。ゴブリンよりも小さい……。」
「うるせぇ!まずは俺の心配をしろよ!」
身体中が熱くなるのを感じる。きっと耳まで真っ赤だろう。そんな俺を見て笑うのを必死に堪えるカペラは我慢できずに声に出して笑いはじめる。
「よし、カペラ。そこで待ってろ。今ぶっ飛ばしてやる。」
俺は恥ずかしさを隠すためにもカペラの元に駆け寄ろうとする。しかし、そう上手くは行かない。
「フガァァ!!」
自分が忘れられていたことに怒るかのように走り向かってくるジェネラル。そういえば今は戦闘中だった。だが、先程とは違い、俺はまるで危機感を感じない。恥ずかしさとあまりの死の気配に脳が麻痺したのだろうか。
そんなことを考えるうちにジェネラルはすぐそこまで迫っていた。上から振り下ろされる剣を前にして世界がスローになる。視界の端でカペラが何かを叫んでいる。
「レグル様、危ない!!」
危ない、そう言われて気づくが俺はやはりこの状況でも危機感をまるで覚えることができない。この攻撃を脅威と感じていないのだ。
「フゴォォォ!」
ようやく俺の元まで辿り着いたジェネラルは上段から力強く剣を振り下ろす。そこには俺を殺すという確固たる意志が見えた気がした。だが、あまりにも遅い。ジェネラルの剣を正面から迎え打ち、鍔迫り合いの形に持っていく。しばらくその状態が続いたところで俺は気づく。ジェネラルが明らかに弱くなっているのだ。
「どうした?体力切れか?」
「フゴォフゴォ!」
もちろん会話になるとは思っていないが思わず俺はそう尋ねてしまう。そのくらい余裕があったのだ。だが、もうすぐで日が完全に暮れてしまう。そろそろ帰らなきゃいけないな。
「ふっ!」
瞬きの間に三度の剣閃が走る。ウェブレン流では基礎の型だが、相変わらず剣を持つ右手が疲れるな。
「フゴォォォ……。」
先ほどまではまるで通らなかった刃も簡単に通り身体を引き裂かれたジェネラルはその場に倒れ伏す。なんの抵抗もできなかったようだ。
「レグル様、無事ですか!?」
「あぁ、意外となんとかなるもんだな。」
最後のゴブリンを爆殺したカペラがこちらにやってくる。一体カペラはいくつの魔法を覚えたのだろうか?そんなことを疑問に感じつつあたり一体を見渡す。
「かなりの量のゴブリンを殺したな。」
「そうですね、六十体はいそうです。」
「じゃあ、魔石を回収してから帰ろうか。」
「いや、まずは服を着てください。」
そういえば裸だったな。俺はカペラの空間収納の魔法で服を出してもらって着る。それから俺達は魔石の回収を始める。もうすぐで日が暮れてしまうこともあり、急いで行う。無言で行うのも飽きるので会話をしながらだ。
「良くジェネラルに勝てましたね。」
「そうなんだよ。なんでか途中からジェネラルが弱くなったんだよな。」
「弱くなった?私からはそんな風に見えませんでしたよ。むしろ、レグル様が強くなったように見えました。」
なるほど、俺が強くなったか。確かにひとつ俺に変化があったことがある。俺はその変化がカペラにもわかるように見せる。
レグル(15歳)
レベルなし
ステータス
恥 851
スキル【羞恥神】
「恥のステータスの上昇ですか。これが関係しているということですね?」
「あぁ、そういうことだ。カペラに裸を見られてから俺のステータスが上がった。ジェネラルが弱く感じたのはそれからだ。」
「なるほど…。」
それからカペラは何かを考え始めて黙り込んでしまった。俺もそれに合わせて黙々と魔石を回収する。
それからしばらくしてなんとか日が沈む前に全ての魔石を回収し終えた俺達は冒険者ギルドに来ていた。受付嬢のレイさんはまだいたようだ。
「遅かったわね。死んじゃったかと思って心配してたのよ。」
「ご心配おかけしました。ちょっとゴブリンの群れに遭遇しちゃいまして、頑張って倒してきたところです。」
「それは災難だったわね。まあ冒険者なら何回かは体験することよ。魔石はあっちのカウンターで買い取ってくれるわ。」
レイさんに言われた通りにカウンターに向かい、俺達は担当の人に声をかける。随分と年老いた男だ。
「魔石売却かの?どれ、見してみい。」
「はい、お願いします。」
「ほう、かなりの量だの。おお!ゴブリンジェネラルの魔石まであるか!頑張ったようじゃのう。」
随分と喋る爺さんだ。だが、魔石を見る目はあるようだ。耄碌してなさそうで何よりである。
「ゴブリンはDランクの魔物じゃからひとつあたり銀貨1枚だの。ジェネラルはBランクじゃから銀貨50枚じゃ。ゴブリン62体、ジェネラル1体で銀貨112枚じゃ。受け取れい。」
ふむ、なにもわからん。魔物にもランクがあるのも初耳だし、俺はお小遣いを貰ったこともないからお金の価値もわからない。分かることは、カペラが何も言わないなら妥当な買取なのだろうということだけだ。
お金をもらった俺達はそのまま歩いて宿へと向かう。その間にカペラに聞いたお金の価値と魔物のランクを聞いてみた。それを俺なりにまとめたらこうなる。
同価値のもの
・金貨1枚
・銀貨1000枚
・銅貨10万枚
食パンが一個で銀貨1枚のようだ。カペラの月収は金貨2枚だったらしい。食費と居住費は屋敷もちだったらしいから十分すぎる収入だったという。そんな所を捨ててきてくれたのだから感謝しかない。次に魔物のランクだ。魔物はEランクからSランクまでがあるようだ。冒険者ランクは魔物のランクを元に作られているらしい。
大体の強さ
Eランク 素手でも大人なら勝てる
Dランク 武器を持つ大人なら勝てる
Cランク 鍛えて武器を持つ人なら勝てる
Bランク 軍隊が出動すれば勝てる
Aランク 軍隊が総力を上げて挑むレベル
Sランク 基本勝てない
BランクからAランクには大きな壁があるようで、Aランク以上の魔物は災害のような扱いを受けるらしい。ちなみに最近の魔法ならCランクの魔物を一撃で殺せるそうだ。
世の中の常識をまた一つ知っているうちに宿に着いた俺達は水浴びをしてから部屋に入る。なんでもカペラが今後について話があるらしい。
「それで話ってなんだ?今日の感じなら冒険者でも十分食い扶持を稼げると思うぞ?」
「それに関しては異論はありません。ただ、やはりレグル様のスキルについてもう少しだけ理解を深めるべきだと思います。」
「なるほど、確かにそれはその通りだな。自分のスキルを理解していないといざという時に迷いの原因になるな。」
「はい、というわけで明日からは私が主導でレグル様の実験をします。」
「実験??」
「はい、実験です。」
一体何をするつもりなのだろうか。何をするのか聞くと「明日のお楽しみです!」と言われてしまった。なんとなく嫌な予感がした俺はあまり寝付けなかったのだった。
「レグル様、じゃあ服を脱いでください。」
翌日、再び王都の外の草原に来ていた俺はカペラに裸を強要されていた。
「は?お前頭おかしいのか??」
「あ、順番が悪かったですね。まずは今のステータスを見せてください。そしたら脱いでもいいですよ。」
まるで俺が脱ぎたがってるかのような言い方に不満に思いつつ、俺はステータスをカペラに見せる。
レグル(15歳)
レベルなし
ステータス
恥 500
スキル【羞恥神】
「昨日から下がってますね。じゃあ、服を脱いでください。」
「わかった。」
ステータス上昇の条件を知るために必要なことだと言われて俺は仕方なく服を脱ぐ。恐らく恥を描くとステータスが上がるかを調べるのだろう。そんな予想をしながら服を脱ぎ終え、俺はカペラの前に立つ。
「なるほど、ステータスが上がりましたね。」
レグル(15歳)
レベルなし
ステータス
恥 648
スキル【羞恥神】
確かに、ステータスは上がっている。しかし、昨日見られた時よりも上がり幅は小さいな。そんな俺の考えをよそにカペラは俺を見続ける。
「なるほど、やっぱり小さいですね。へなちょこです。昨日は戦闘時の見間違いかと思いましたが、そんなことはなかったみたいです。」
「……ッ!」
「あ、またステータスが上がりましたね!」
レグル(15歳)
レベルなし
ステータス
恥 750
スキル【羞恥神】
「そりゃそうだろうな。めっちゃ恥ずいんだから。」
「そうですね。じゃあ後は服着てもいいですよ。」
それからもカペラの実験は数日かけて続いた。その内容は端的に説明すれば地獄のようなものだった。
カップルや家族連れなど、多くの人々の行き交う公園のど真ん中で、下品な言葉を叫けばせられたり、おままごとをさせられたり、犬の散歩のようにリードを繋がれて街を歩かされたりした。
すっぽんぽんのまま草原に半日放置され、魔法や拳をぶつけられ、全力で草原を走らされもした。その結果、受付嬢のレイさんに引き攣った笑顔で対応される羽目にもなった。そんな涙を禁じ得ない悪逆非道の実験の末にわかったことはいくつかある。
わかったこと
1,誰かの恥ずかしい思いの対象がレグルだと恥のステータスが上がる。
2,ステータスには攻撃力、防御力、素早さが統合されている。
3,ステータスの更新は5秒に一回。
4,ステータスは6時間更新されないと一定値に戻る
5,一定値は100、500、1000と上がっていき、恐らく以降1000ずつが一定に上昇。
6,一定値のまま更新されないと前の一定値に戻る。
ざっとこんな感じだ。多大な犠牲は払ったものの有意義な情報を得ることができたと思う。そんな俺の今のステータスはこんな感じだ。
レグル(15歳)
レベルなし
ステータス
恥 1482
スキル【羞恥神】
攻撃力、防御力、素早さのステータスが統合されていることを考えれば全ての値が1500に近い訳で、カペラ以上の高ステータスと言えるだろう。上がる条件が厳しい気もするが【羞恥神】のスキルは想像以上の良スキルだった。
「レグル様、準備はいいですか?」
「あぁ、大丈夫だ。いつでもやれる。」
そして、俺達は今最後の検証をしている。それは「恥のステータスに魔力は統合されているのか?」という疑問だ。もしも魔法が使えたのなら、俺はカペラと同等の魔力を持っていることになる。という訳で、俺達は冒険者ギルドの初心者用魔導書を借りて実際に使えるか試してみることにした。
「じゃあ、いくぞ。〈
「おお!すごいです!」
ボッ!という音と共に放たれた俺の火弾は目標だった木に真っ直ぐにあたり、表面を焦がして消える。しかし、思っていたより威力が出ないな。木を燃え上がらせるくらいできるかと思ったんだが。
「思ってたより威力は出なかったけど、カペラの予想通り恥のステータスには魔力も含まれてるみたいだな。」
「そうですね。じゃあ、違いを確認しますか。〈
ゴウッ!という音と共に放たれた火弾は一瞬で木にぶつかり、そのまま木を燃え上がらせた。俺よりもステータスは低いはずなんだがな。
カペラ(15歳)
レベル13
ステータス
HP 530
MP 960
攻撃力 380
防御力 380
魔力 1160
素早さ 530
スキル【魔王】
この間のゴブリンの群れとの戦いが響いたのか、すでにレベル13となったカペラだが、俺のステータスよりも低い。しかし、この差はなんなんだろうか。
「多分、スキルによる攻撃魔法威力のプラス補正の効果でしょうね。私の予想通り、レグル様のスキルにはプラス補正がないんでしょう。」
「なるほど、そういうことか。てか、予想してたんなら教えてくれよ。期待して損したじゃないか。」
「できないと思ってると無意識のリミッターが掛かりますから。言わないほうがいいと思ったんですよ。」
なるほど、確かに一理ある。だが、こうなると剣による攻撃にプラス補正のかかるスキルに比べたら俺は恐らく剣でも威力が出ないのだろう。とはいえ剣使いを辞める気もないのだけども。
「でも大体これで俺のスキルについては分かったんじゃないか?」
「そうですね。それと同時にレグル様の戦闘スタイルも決まりました。」
「そうだな。俺にはプラス補正はないが15年の経験値がある。ここはやはり剣士で行くべきだろう。」
「はい。でもただの剣士じゃありません。常にすっぽんぽんの剣士でいるべきです。」
こいつの頭は大丈夫なんだろうか?そんな疑問が頭をよぎる。
「レグル様全部声に出てますよ。私の頭は至って普通です。」
「そんな訳ないだろ。第一にすっぽんぽんだと防御力が下がるじゃないか。」
「でもそれはステータスが上がれば解決しますよ。それに、冒険者として活動してればスライムに服を溶かされてしまうなんてよくあることです。勿論そのまま街に入れば捕まりますが、その前に服を着れば無問題です。」
「いや、でも……。」
「大丈夫です!人前で戦う依頼を受けなければ基本私しか見ませんし!」
その自信はどこから来るのだろうか。本当に、俺はすっぽんぽんになるしかないのか?他の手段はないのか?
「レグル様、やりましょう!!」
「……わかったよ。しばらくはそれでやってみよう。明らかなデメリットが見つかったらすぐに辞めるからな。」
「もちろんです。それでいきましょう!」
押しに弱い俺はこうして裸で戦うことが決まったのだった。我ながら情けないと思う。
それから1週間、俺はすっぽんぽんのままゴブリンやスライムを討伐し続けた。通りすがりの冒険者とすれ違ってステータスが急上昇したりもした。しかし、困ったことに大きな障害は見つからず、俺も「このままでいいかな。」と思い始める境地に至り始めていた。
そんなあっという間の1週間は想像よりも楽しくて、この時の俺はとある噂が王都の冒険者を中心に広まっていることに気づかなかった。その噂は目撃者も多いことから、瞬く間に広まることになる。
「最近、王都周辺で魔物を狩る、すっぽんぽんのフルチン冒険者がいる。」と。
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※後日大幅に内容変更する可能性があります。ご了承ください
落ちこぼれ少年、すっぽんぽんのフルチン冒険者になる。 ゆーすい @yu-sui
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