送迎

 ある日、どこかに行った帰り道に車の助手席でふと窓の外を見た。時間は夜で空は暗く染っていた。

 目の前にはどこにでもある民家と歩道。

 赤信号で止まっている間、なんとなくぼぅっと視界に入れていた。


 するとその家の玄関の戸が空いて、制服の上にジャージだろうか、暗めのスカートの上に青い色の上着を着た女の子が出てきた。

 背にはリュックを背負っていた。

 正確にはわからないが、学校終わりに一度帰宅し、今から塾に行くところかな、と思った。


 こんな時間から塾に行くなんて頑張っているなぁ、と知らない子ながらにとても感心し、反対に無理しないでね、とも思った。


 その女の子が家の玄関から出た後に、母親らしき女性が出てきた。ショートカットで眼鏡をかけた、エプロンをつけた女性だった。


 正確にはわからないので、間違っていたらもうしわけないがここでは母親だと仮定する。恐らくそうだと思う。違っていたらごめんね。


 母親は子供を見送るために出てきたのだろうか。

 玄関先で、子どもの女の子に一言二言かけたあと、女の子は歩道を歩いていった。


 そして母親はすぐに戻るのかと思いきや、母親も歩道まで出てきた。そして女の子の後ろ姿をただずっと見送っていた。


 女の子は振り返らなかったけれど。

 そのお母さんはずっと女の子が曲がって見えなくなるまで女の子の背中を見送っていた。


 ただ、それだけ。

 それだけのこと。


 だけれどその光景に、たまたま目にしたその数分間に私は何故か胸を何かでグッと押されたように、その後喉が詰まったような感覚になった。


 その数分間だけ。でもそこには母親の愛で溢れていたように思う。


 私の母もいつも、私が家を出る時を見送っていてくれた。母が仕事の日には祖母が。祖父はいつも家の中から手を振って毎朝見送ってくれていた。


 その行為にどれだけ愛が詰まっていただろう。

 それだけの行為、でもそれだけの行為にどれだけ愛が詰まっていると人は気づくことが出来るだろうか。


 当たり前じゃない。

「ただいま」、「おかえり」。

 それだけでもいい。


 私たちは確かに誰かに愛されている。



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