偽りの仮面

 気まずい話をした後、メイは家に電話をした。

 ワタシが了解する前に、泊まる報告をしたようだ。


 まあ、別にいいんだけど。

 泊まるという事は、当然お風呂もワタシの家で入る事になる。

 さっき、あんな話をしたせいか、メイはいつになく積極的になってきた。


「ねえ」


 ワタシは湯舟に浸かり、メイを見上げる。

 顔には、ワタシにない大きな肉の塊が押し付けられていた。

 ぐいぐいと当てられ、目の下が持ち上げられる。

 おかげで、視界が悪いったら、ありゃしなかった。


「せ、狭いってば」

「ふん」

「いじけてるの?」


 ワタシの方が力は強いはずなのだけど、押し退けられない。

 体格的にはワタシの方が細い。

 つまり、肉感的な体をしているメイは、ワタシの上に乗る事で、退路が塞がれていた。


「どうしようもないじゃん。ワタシ達、周りから見たらキモい関係なんだよ」


 何度だって言ってやる。

 法律なんて、

 それの与える影響は、ワタシの生きているフィールドで、周囲と円満な関係を築くのに役立たない。


 親と好きな人の板挟みを解決するために、作られた法律ではないのだから当然だ。


 ワタシはメイとの時間を過ごせれば、それでいい。

 二人きりで、周囲にとっては、たくさん気持ち悪い事をしたい。

 欲求は抑えれば抑えるほど、膨らんでしまう。


「あ……っ」


 メイの甘い声が浴室に響く。

 ワタシは、これ見よがしに押しつけてくる胸に吸い付いた。


「エイコ。赤ちゃんみたい」

「んむ。……ばぶー」

「あははは! なにそれっ」


 くすぐったそうに笑うメイ。

 口に含んだ硬いしこりを飴のように舐めていると、


「はは……、は……。っ、……あ……ぁっ」


 蕩けた甘い声に変わっていく。

 ワタシはしつこいくらいに、ずっと吸い付いては、舌で転がした。


 本当は――すっごく大好き。


 ずっと、メイと時間を過ごしたい。

 24時間フル稼働で、暇さえあればお互いに貪って、遊んで、眠って、二人の人生を生きたい。


 そう考えると、耳には幻聴が聞こえてくる。


『気持ち悪いわねぇ』


 テレビでアイドルが女の子同士でキスをするCMがあった。

 未だに、両親の顔が頭から離れない。

 顔をしかめて、本当に嫌そうな声で言ったのだ。

 一時は、親に反発する心があったけど、一生懸命働いてくれる両親を考えれば、親の立場を考えるようになった。


 親は、ワタシのために働いてくれている。

 だから、大事だ。


 でも、気持ちはメイと一緒にいたい。


「ん……ふ、メイ……」


 乱れた髪がワタシに被さってくる。

 夢中になって吸い付くワタシの頭を撫でてくれた。


「ね、エイコ。立って」

「む?」

「立って。いひひ」


 後ろに下がると、メイがにっと笑った。

 何だろう、と思い、立ち上がる。

 メイはワタシの体をジロジロと見てきた。


 いやらしさはあったけど、嫌ではない。

 見ても楽しくはない体だが、メイが楽しいなら別にいいと思った。

 見下ろしていると、メイが太ももに手を突き、顔を近づけてくる。


「え、ちょ……」

「あー……む」

「っ⁉」


 突然の刺激に、ワタシの体は勝手に跳ねた。

 慌ててメイの頭を押さえ、引き離そうとする。

 でも、太ももの裏側に腕を回され、無理にはがそうとすると、転んでしまいそうだった。


「き、汚いってば!」

「んー、いつも、……アタシばかりじゃん」

「だからって……」

「アタシも、エイコにしたい」


 幸い、親がいないから良いけど。

 体を洗う音とは別の水音が空間にこだまして、ワタシは心臓の動悸が激しく乱れた。


「えいこ……」

「ん、な、なに?」

「……好き……」

「あ、くっ。そこで、喋らないでよ!」

「大好き」


 暗黙のルールを破ったのは、メイの方からだった。

 痺れるような甘い刺激の連続。

 ワタシは立っていられず、ほとんどメイの顔に乗ったままだ。


「だから、ん……。終わりなんて……言わないでよ……」

「め、メイ……」

「アタシと一緒に住もうよ。いいじゃん。ずっと友達で。一緒に住んで、毎日……、気持ち悪いことしよ? ね?」


 壁を伝ってずり落ち、縁に腰を下ろす。

 メイは真っ直ぐにワタシを見て、告白をしてくる。


「ずっと昔から、大好きだったもん。無理。諦められない」

「メイ……」

「いっぱい、イジメていいから。アタシ、エイコと一緒にいる」


 ここまで言われて、ワタシは最後の理性が飛んでしまった。

 どちらが先と言わず、お互いに唇を重ねる。

 偽りの仮面が、全部壊れていく。


 ワタシ達は、壊れる道しか選べなかった。

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偽りの悪女はキスでとろける 烏目 ヒツキ @hitsuki333

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