過去は戻らない、元には戻らない『男の娘物語』

空海加奈

始まりは些細なもので

 可愛い物が好きだった。

 格好いい物は僕も格好いいという感性は持ってるし、別に普通と言えるだろう。

 ただそれよりも可愛い物が好きで、小学校では多少注意された髪の毛の長さも中学に入れば切らなければいけないという風に言われてショックを受けてどうしようと悩んでお母さんに相談すると

「好きなようにしていいのよ」

 そう言われて心が軽くなった。

「可愛くなりたい」

 言えばお母さんは色々と教えてくれた。化粧の仕方、髪の結い方。僕がまるで生まれ変われたように可愛くなれて喜んでいるとお母さんも一緒に喜んでくれた。

 ただお父さんからは良い顔をされなくて中学からは言葉を交わすこともなくなっていった。


 周りの男友達は色んな動画がどうのと話してるけど、僕は女の子の会話が気になって話しかけると僕が化粧品などの話を始めると気味悪がれた。

 ただそれでも二年になってからは一緒に居てくれる友達もいて、僕はそれでもいいんだと思えれた。


 中学生活も3年を迎えてテストも終わって夏休みも近くなり楽しみも増えてどんな風に過ごそうかななんて友達と一緒になって話す。

「悠里君と純平は予定空いてる日どこかある?」

 相田悠里という僕の名前を僕が可愛い物が好きだと知っても仲良くしてくれる一人の皐月由美が聞いてくれる。それともう一人、佐藤純平、男子で可愛い物が好きというわけでもないけど僕と仲良くしてくれる数少ない友人

「俺は最初らへん以外は大丈夫だな。最初に宿題全部終わらす!」

「コツコツやればいいでしょうに逆に大変じゃないの?悠里君は?」

「僕も特に八月は大丈夫かな?」

「悠里~宿題一緒にやんね?」

「別にいいけど?写すのは駄目だよ?解答一緒だと僕も怒られちゃう」

 純平は「ちぇっ」とわざとらしく言うけど、どうせ僕以外の誰かに宿題を写させてもらうだろうから大丈夫だろう。僕は髪が長いことを先生に注意されて以降あまり目立ちたくないから遠慮させてもらうけど。

「じゃあさ、花火大会行こうよ?三人でさ」

「花火大会っていつだっけ?」

「20日にあるんだよね、ほら海辺の近くで」

「いいぜ!悠里も行くだろ?」

「うん、楽しみだね」

 僕たちは花火大会を楽しみに中学最後の夏を約束する。


 中学一年は人間関係もまともに構築できなかった僕の生活も二年で純平と由美、二人と出会ってからは楽しいものになった。

 元々話してたわけではない、ただ修学旅行が一緒のグループで僕が京都で迷ってしまったときに純平が僕のことを一生懸命探してくれてから話すようになって、由美とは僕が髪を結っていたら「それどうやるの?」と聞いてきたことで僕が結い方を教えてから激変したと言っていい。


 そんな懐かしいことを思い出しながら修学旅行が10月に行われたこともあって去年の夏休みは雑談で二人がどんな風に過ごしたかとかくらいしか聞いてなかったからこそ本当に楽しみ

 その後も二人と他に遊べる日がないかを話し合っていく


 7月の最後の学校も終わり夏休みだとはしゃいで、お母さんに今年の夏休みは友達と一緒に遊びたいと言えば自分のことのように一緒に喜んでくれる。

 花火大会なんて小学時代に家族と一緒に行って以降行ってなかったからどんなだったかを思い出しながらそれを友達と過ごせること、それが新鮮で、二人なら理解してくれるからとお母さんが着ていた浴衣を僕も着れないかななんてことも相談して、こんな可愛い服を着れるんだと思ったら嬉しかった。

 その話を聞いてたのかお父さんは僕に小言のように「受験も近いのに」なんて呟いていたがお母さんが僕の味方をしてくれる

「せっかく夏休みに誘ってもらったんだからいいでしょ」

「悠里ももう良い歳なんだから普通の恰好をしたらどうなんだ?」

「普通ってあなた、髪が長い人だっているし普通でしょ、受験だって悠里はちゃんと考えてるんだから」

「面接はどうするんだ?それで受かると思ってるのか?」

「悠里の生き方なんだから好きに生きていいじゃない」


 段々とヒートアップする会話に耐え切れなくなって目から涙が零れる。その姿をお母さんが気づいて部屋に連れて行ってくれて言い聞かせるようにお母さんは僕に言ってくれる。

「好きなように生きなさい、これから色んなことがあるけどお母さんは悠里の味方だからね」

「…うん……ありがとうお母さん」

「可愛い顔が台無しよ、そうだお母さんが今度休みの時一緒に服買いに行こうか?」

「うん…!行きたい!」

 友達とだけではない、お母さんと夏休みの計画を考えてくれて、不安もあるけど僕はとても幸せな部類なのだと思える。


 お母さんと一緒の買い物はとても楽しかった。僕が不安に思いながらスカートを見ていることに気づいてくれて一緒に選んでくれた。

 似合ってるかは自分だと少し分からないけど、可愛い物に包まれてることが自信につながるような気がしてゲームをあまりやったことは無いけど、これが僕にとっての装備なんだって思えるような強くなった気分になれる。

 純平に言ったらきっと伝わるはずで、せっかくだから純平や由美と遊ぶときは女の子の恰好で行こうかななんて思ってるとスマホから純平のメッセージが届く

『宿題一緒にやる日明日でもいいか?』

 由美と一緒のグループがあるところでメッセージすればいいのにわざわざ僕宛てにメッセージを送ってきてどうしたのだろう?と思ったけど、もしかしたらメッセージ場所を間違えたのかななんて思って返信をする。

『いいよ、純平の家に集合?グルチャじゃないけど由美には伝えた?』

『二人でやろう、由美がいたら宿題写させてくれないかもしれないし』

 やっぱり最初から写すつもりだったんだななんて思うと笑ってしまうけど、純平は僕と違って友達は多いから写すつもりなら他の人に声をかければよかったのに、それでもあえて僕にメッセージしてくれたことが嬉しかった。

『いいけど、写すのは少しだけね』

『ありがと』

 本当は由美にも見せたかったけど、他にもお母さんが服を買ってくれたので今度はそっちを着て二つの感想を純平に聞いてみようと思って明日着ていくのはどの服にしようかなって過ごす。


 少し寝坊してしまったけど、髪を整えて、化粧をして、可愛い服に身を包み僕は外へ出る。

 周りの視線が気になりはしたけど、僕は好きで可愛いものに包まれてる。だからとても強いんだと思って胸を張って純平の家に行く

 インターホンを鳴らし、僕が来たことを告げて、玄関を純平が開けて僕の姿を見て少し驚いていた。

「じゃーん!どうかな…?」

「いいと思う、とりあえず入れよ」

 想像してた反応とは違って少し簡素だったことが気になるけど、家に招かれて玄関で靴を脱いで純平の部屋に向かう。

「お茶とか用意するから、先行っててくれる?」

「うん、手伝いとかいらない?」

「客は悠里だろ?すぐ終わるからさ」

 そう言われて、純平の部屋は確か二階の右手にある部屋だと思い出しながら部屋に入るとゲームなどが散乱してて、パソコンも起動しっぱなし

 壁に修学旅行のときとかの写真が貼ってあってそこに僕や由美もいて、それを大事にしてくれるのを見ると懐かしさがこみあげてくる。

 テーブルに僕の宿題を並べながら純平を待ってると、お茶とお菓子を持ってきてくれた。

「たしかこのお菓子好きって言ってたよな?」

 そう確認してくるのでよく見てみると、僕が修学旅行で八つ橋を食べた時にお饅頭が好きだったと言ってたことを覚えていてくれてたのか黒糖饅頭を持ってきてくれた。

「よく覚えてたね?半年前に少し言っただけなのに」

「俺も饅頭ってあんま食ってこなかったけど食べてみたら意外と美味くてハマった!」

 好きなものが一緒だったこともそうだけど、わざわざ試し食いしてくれてたなんて思わなかったのでそう言われ笑ってしまい

「それならそのときに教えてくれたらよかったのに」

「そしたらドッキリできないだろ?」

 僕のためにそこまでしてくれなくてもいいのにとは思うが、友達と一緒にこんな風に楽しめることが純粋に嬉しく、宿題ももう少し見せてあげてもいいかなと思ってもしかしたらそれが狙い?なんてちょっと怪しんだりする。

「嬉しいけど、宿題済ませちゃお?」

「えぇ…先にゲームとかしない?」

「どうせ僕が負けちゃうだけだし、宿題今日の分進めたら少しは付き合うよ」

「ちくしょう!後で本気だすからな!」

「今出してよ?」

 実際に宿題に手を付けると純平も真面目にやって、分からないところがあったら聞かれるのでそれに答えて、二人でやると一人でするときよりも順調に進んで想像より早く終わってしまった。

 純平の方を見るとまだ頑張ってるので、僕は明日やろうと思ってた分も進めて純平が終わるのを待ってたらもう我慢ができなかったのか

「最後のところだけ写させてくんね?」

「むしろそこまで頑張ったんだから最後頑張るべきじゃない?」

 思ったよりも自分で頑張ってたからこれくらいはいいかなと思って僕の宿題を見せると、純平よりも進んでる宿題に驚かれつつも写したらすぐに返してくれた。

「じゃ、ゲームなんにする?」

「あんまり詳しくないから任せるよ」

 そうしてゲームをすると、当然のように対戦ゲームだったので負けてしまい、十回に一回は勝てるくらいで、僕が純平みたいに普通の男の子だったらお父さんもあんな風に思わなかったのだろうかと思い出して

 せっかく友達と楽しく遊んでるのにお父さんの言葉が痛烈にフラッシュバックして、自然と涙が溢れたことに純平が気づいて慌てさせてしまう

「悪い!?そんな本気になってると思ってなくて」

 見当違いなことで僕が泣いてると思ったのかゲームのことを謝られてて、それは違うと否定しながら僕は先日あったことを純平に話してしまう。

「お父さんに僕が普通の男の子だったらって言われて、それを思い出して…」

「なんだよそれ、悠里は別に悠里だろ?俺はそう思ってるし分かってくれる奴は分かってくれるよ」

「高校もどうしようって話してて、ごめんね、せっかく遊んでくれてるのにこんな話しちゃって」

「いいよ、高校も一緒に探そうぜ?それに今日も言えなかったけどさ、悠里女の子みたいに可愛いって思って緊張したりしたんだぜ?俺」

 そういえば最初に少し反応が悪かったことを思い出して、緊張してたんだと分かるとそれがどこかおかしく思えて笑う。

「あんまり恥ずかしいから言わないけど普段も可愛いと思ってる!俺がこう思ってるってことはそれが普通ってことだろ」

「ちょっと意味わかんない」

 どこが普通なんだろうと思って、ただ普通と言ってくれることが嬉しくて、その後も褒めてくれようと顔を赤らめて言ってくれる純平が友達でいてくれて良かったと思えた。

 僕は本当に幸せ者なのだろう、こんな風に悩んでそれを分かってもらえて

「純平はどこの志望校どこだっけ?」

「ん?そんなの悠里と一緒の所に決まってるだろ!」

 そこまで僕に合わせなくてもいいのだけど、これからも一緒だったらいいなって本気で思う。


 夕方も近くなり、帰ろうとすると純平が僕のことを止めて

「明日も一緒に宿題しない?」

「いいけど、由美は誘わなくていいの?夏休み暇してるって言ってたと思うけど」

「宿題さっさと済ませて驚かせてやりたいんだよ」

 どこまでいっても驚かせたがる性格してるんだなと思って了承しつつ、僕もいつか純平のことを驚かせてやろうかと考えてそれなら由美も一緒に協力してくれるかもしれないと密かに思う。

「分かったよ、本当は由美にも見せたかったんだけどね」

「見せたかったって服か?」

「そうだよ?他にもお母さんに買ってもらってね!明日は別の服着てくるから!今日みたいな感想聞かせて?」

「今日みたいなって…まぁ、いいけど、その代わりすごい期待して待ってやるからな?」

 ハードルを上げようとしてるけど、僕はお母さんと一緒に選んだ服に間違いなんてないと思ってるからむしろもっと可愛いと言ってもらえるように化粧をどうしようかななんて考える。

 明日の約束をしたことで純平も玄関まで見送ってくれて、また明日と二人で言い合って家に帰る。


 次の日も純平の家に来て沢山褒めてもらい、褒めるたびに顔を赤らめて真剣に褒めてくれるのがどこか嬉しく、からかいながらも一緒に宿題を済ませていく

 結局その次の日も約束して宿題が終わるまで純平の家にお邪魔をすることになった。


 家でお母さんと一緒に高校について色々調べてもらって校風が自由なところを探したり、そんな風に過ごしてるとお母さんが男の子が女子の制服を着れる高校があることを教えてくれた。

 それは県を超えて都会の方で引っ越さないといけない距離で、お母さんは嬉しそうに話してくれるけど、そうなると僕は一人暮らししないといけない、それに僕のためにお母さんにこれ以上苦労を掛けたくなくてどう言葉を発するべきなのか迷ってると僕の迷いを分かってくれるようにお母さんは言ってくれる

「悠里が楽しく学校に行けたらお母さんも嬉しいの、費用はお母さんが頑張るから一緒に悠里も頑張ってくれない?」

「迷惑かけてばかりで、ごめん…なさい」

「迷惑なんて思ったことないんだから」

 涙する僕を抱きしめてくれて本当に感謝しかなかった。

 本当は近くの高校に行く予定だったのをこんなにも考えてくれて、その分お母さんに僕が高校を頑張ることで喜んでもらえるならと受験のために勉強を頑張った。


 行きたい高校が明確になったことで、純平も一緒に行きたいと言ってくれていたけど、距離的に考えたら純平とも由美ともお別れになってしまうのかと思うと寂しくなって、どう報告しようかと迷ってしまう。

 由美は近所の高校に行くことを前々から言っていたし、高校が離れても遊べるとは言ってたけど引っ越すことを考えたらもう気軽には遊べないだろう。

 本当になんて伝えればいいのか悩んでいたら、眠って次の日になって、純平のところに行かなきゃと思ったけど、そういえば宿題が終わった日は約束してなかったし今日は行かなくていいのかと思い直して机に向かい勉強をして過ごしてると純平からメッセージが届く

『今日来ないの?』

『あれ?約束してたっけ?』

『来るのかと思った』

『ごめんね、今から行こうか?』

『待ってる』

 そんなやりとりをして僕は準備をして純平の家に向かう。

 途中で同級生と出会って僕のことを見ていた気がするけど、名前も覚えてない相手だ気にすることは無いだろう。


 純平の家に着いて、少し急いでいたから髪が乱れてないか確認してインターホンを押すとすぐに純平は出てきた。

「なんかごめんな急に呼んだみたいになって」

「ううん、僕も今日は行くか悩んでてその時メッセージ送ればよかったから」

 そのあとは普通に遊んだだけで、宿題とかそういうのを忘れて遊んだ。

 時間も経ち、帰ろうと思うと純平が何か言いづらそうにしてることに気づいて、どうしたんだろう?なんて思って帰るとは言えずに静かな時間が過ぎる。

「あのさ」

「うん?どうしたの?」

「花火大会さ、どんな服装すんの?」

 聞きたかったことってそれなの?と拍子抜けだったから笑ってお母さんから浴衣を借りることを伝える。

「お母さんが浴衣を着せてくれるから楽しみにしててよ」

「浴衣かぁ、いいな」

 なんだかんだ僕の服装を気にしてくれて楽しみにされると僕も気合を入れなきゃと思えるから不思議だ、いつもは人に見せるなんて考えてこなかったのに最近は純平からたくさんの感想が来るから服を選ぶだけでも楽しい

 そして帰りの際には明日も遊ぼうと純平が言ってきたけど、明日はお母さんと買い物に行く予定があったので断ると

「また新しい服買うの?」

「そうかもしれないしそうじゃないかもしれない?わかんない、ただの買い物を手伝うだけかも?」

「そっか」

「お盆明けたらさ、由美も誘って遊ぼうよ、プール行きたいとか言ってなかった?」

「プールかぁプールはなぁ…なんか別の所にしようぜ?」

 純平が泳げないなんて聞いたこと無いのでどうして他の所がいいのか分からなかったけど、嫌なら仕方ないし他に何かないか考えておくことにして今日は帰る。

「純平もどう遊ぶか考えておいてね!」

「おう」


 お母さんとの買い物は楽しく、僕が高校に行った後服に困ったらいけないからと一緒にショッピングをして

 お盆もこの時ばかりはお父さんとも顔を合わせないといけなくて三人で気まずい空気をしながらも実家に帰省すると久しぶりに会うおじいちゃんおばあちゃんや親戚の人達とも顔を合わせる。

 特に楽しいと思うことはなかったんだけど、墓参りや、実家の近くでやってる花火大会を従兄に誘われたけど、花火大会は友達と約束していてその日までとっておくと言うと僕が友達の話をしたことで従兄が笑顔になってどんな友達か聞いてきたから僕も友達の話を出来ることが嬉しくて修学旅行から今までの話をすると従兄も一緒になって

「悠里が学校楽しそうでよかった、心配してたんだよ?おばさんも悠里が楽しめてるかいつも心配してたから」

「お母さんが?」

「いつも暗い顔してるって言っててな、それでも今年の悠里見てたら楽しそうにしてるから俺も嬉しいしおばさんはもっと嬉しいだろうね」

 そんなに心配をかけていたことに申し訳ないと思うのと同時に受験絶対に頑張ろうと更に意気込む。

 従兄も花火大会は行かないで僕と話したりして、最近の流行ってる曲はあれだとかこれだとか教えてくれて、僕があまり関与してないジャンルのことをたくさん教えてくれた。

 実家で帰省してる間は従兄と話して楽しかったこと以外は三人のグルチャがたくさん動いた

 由美の方は実家に帰省はせずに『今日も暇ですることがない』とか純平はそれに対して『こっちでは花火大会してる』ってメッセージに僕も『こっちもだけど三人と約束してるから行かなかった』ことを告げると

『純平だけ一人ズルしてんの?悠里君は偉い!』

『いや行ってないけど報告だから!ズルはしてないよ』

 純平も一緒の気持ちで花火大会を楽しみにしてくれてると教えてもらって早く帰りたいなって思いながらお盆明けになった後のことを三人で悩む。

『戻ったら何かして遊びたいけど何して遊ぼう?』

『プールは?』

『俺はプールに行かない』

『なんでよ!夏と言えばプールじゃない?』

『プール以外で頼む、なんかない?アイスとかでも食いに行くか?』

『それだとショッピングモールとか?』

『悠里君も乗らない、平日だっていいじゃないどうせなら夏らしいことしたい』

 夏らしいことか、あまり僕はそういう経験がないから後の相談は二人に任せようかなと思って二人のやりとりを見てるとあーでもないこーでもないと散々話し合って無難にカラオケと言うことに決まった。

 それを見てて僕歌える歌無いことに気づいて、従兄に流行りの曲をもっと教えてとねだって動画を見せてもらってそれを一緒に練習した。


 お盆も明けて家に帰り、ゆっくりと過ごして、明日のカラオケに備えて動画をまた開いて練習する。

 音痴かどうかは分からないけど従兄からは綺麗な声をしてるから大丈夫と言われたし、多分大丈夫だと思いたいんだけどと不安に思ってると純平から僕宛てにメッセージが届いてきて

『明日は可愛い恰好以外で来てくれない?花火大会で驚かそう』

 どれだけドッキリが好きなんだと呆れたが、僕もどうせなら浴衣で来るっていきなり驚かせたくなり了承して明日に備えることにした。

 そういえば純平はどんな歌を歌うのだろう?と思って

『純平って普段どんな歌を聴くの?』

『俺はアニメとかそこらへんかな?ゲームの歌とかもカラオケになってたりするんだぜ悠里は?』

『ゲームって前やってた対戦ゲームとか?僕は従兄に教えてもらった歌を最近聞いたよ』

『対戦系じゃなくてRPGだな、明日のカラオケ悠里の歌楽しみにしてる』

 ちょっと不安になってきて、お母さんに明日カラオケで歌うのを聞いてほしくて音痴じゃないか聞くとお母さんは笑いながらちゃんと歌えてると教えてくれる。

 本当に大丈夫かな?なんて悩んでも学校の音楽で歌ったときに音痴とか言われたこと無いし大丈夫かもなんて根拠の薄い自信を胸に抱いて緊張しながら明日を迎える。


 朝になって最近の癖で可愛い服を選ぼうとしたときに、今日はズボンにシャツを着て無難な服装をする。

 化粧もしないで外に出るのは久しぶりと思い待ち合わせ場所に向かい、純平が先に来ていたので二人で喋りながら由美を待って、由美が来たら三人でカラオケに向かう。

「ちゃんと予約しておいたんだからね」

 そう自慢げに言う由美に僕はあんまりよく分からなかったけど純平が感心してた

「悠里はあんまり来ないんだっけか?今回は由美様が予約してくださったが夏休みだからな満席になってたりするんだよ」

「カラオケって人気なんだね」

「悠里君はあんまり歌わないの?」

「うん、カラオケ行くってなって従兄に教えてもらった曲を歌う予定」

「そうなんだ!じゃあ別に童謡とか授業で習った曲もあるからそれもみんなで歌っちゃお!」

 ああいう歌もカラオケにあるんだと知って、二人にはたくさんのことを教えてもらう。

 カラオケに着いてもマイクを使ったことがなかったので僕が珍しそうにしてるのを楽しそうに三人で順番に歌ったり、一緒に歌った。

「悠里君の従兄さんは歌いやすいメジャーな曲を選んでくれたっぽいね」

「そうだと思う、由美が歌ってたのとかどうやって歌ってるのか難しそうだったね」

 たくさん歌って、時間になったら壁に備え付けられてる受話器からもう終わる時間だと告げられてカラオケを後にすると、僕たちはコンビニでアイスを買って食べながら今日は楽しかったこと。久しぶりに三人で遊べたことを喜び合って花火大会が楽しみなことを告げて解散する。


 解散した後は純平からまた僕宛てにメッセージが届いて

『今日の歌すごく良かった』

『ありがとう、いっぱい練習した』

 そうやりとりをして、それだけを伝えにメッセージをくれたのかと、由美の前だと恥ずかしくて言えなかったのだと思うと、無理して伝えなくても今日は十分楽しかったのだからそれだけで僕は十分だ。


 そして花火大会まで僕は日中は勉強して、夜になると三人のグルチャでやりとりをして過ごす。

 由美は花火大会に着てくる浴衣を写真で送ってくれて、純平も着ていくシャツとズボンを写真で送るとそれはいつもの服装でしょという突っ込みを僕は相槌を打ちながら待ち遠しく思う。



 花火大会当日になると、お母さんに着せてもらった浴衣を僕は感動しながら着た。

「とても似合ってるわ」

 小学生の頃お母さんが着て一緒に巡った浴衣を今僕が着てることにどこか嬉しく思いつつお母さんに感謝を告げて

「悠里のためにサイズ合わせたからもうこれは悠里だけの物なのよ」

 僕だけの物と言ってくれるこの浴衣を将来大事にしようと強く思って、これなら二人とも絶対に驚くしびっくりさせれると思った。

 今日は自分ではなくお母さんに髪を結ってもらって綺麗な花のヘアピンを付け下駄はお母さんが使ってたものを履かせてもらって歩きづらさに四苦八苦しながらも花火大会に向かう。

 海辺までは電車を使って、そこからは徒歩で

 道中二人のメッセージのやり取りもしつつ

『もう少しで着くよー』

『俺はもう待ってる』

『僕ももう少しかな?』

 どうせなら一番最後に来た方がいいかななんて思って、ゆっくりと向かっていくと待ち合わせ場所に写真で送られていたものを着てる由美に、純平も写真通りの服装のシャツとズボンでいた。

「二人ともお待たせ!」

 そう言うと二人、純平は少しの間だけだが僕を見た後はにやにやしながら由美の反応をいたずら心に楽しんでる。

「悠里君?すごい可愛い!びっくりしちゃった!」

「よかった!お母さんに着せてもらったんだ」

 純平はスマホをいじりはじめて、メッセージが送られてくる

『似合ってる、可愛い』

 純平の方を見上げると暗くて分かりにくいが恥ずかしいのか、顔を合わせずに屋台の方を指さして

「二人とも花火が始まる前に屋台の物買っていい場所とっとこうぜ?」

 僕たちを急かしながら進んでいくから由美も歩きづらいのかゆっくりと進みながら

「ちょっとそんなに急がないでよ」

「あ、わるい」

 屋台で何を頼もうかと悩んでると由美が急に射的をしたいと言い出したり、純平が金魚すくいをしたり、僕がりんご飴を食べてると二人が羨ましそうにしていたのですぐそこで買ったことを告げると三人でりんご飴を食べたり

 かき氷を片手に花火を見れるところに来ると、由美が急にお花摘みに行きたいと言い出したので僕と純平が二人で場所を取っておくから行ってきて良いと告げると

「悠里君ごめん!私ナンパされちゃうかもしれないしさ、純平をちょっと連れて行くね、悠里君で場所とってもらってていい?」

「え?なんで俺も?こういう時って俺がついて行かない方がいいんじゃね?トイレだろ?」

「僕はいいよ?純平も由美だけだと迷子になるかもだしついて行ったらいいんじゃないかな」

 僕がそう言うと純平も納得はしてないような顔をしているが由美と一緒にトイレに向かった。

 たしかにこういう時のトイレって一人だと不安だし、二人で行ってもらって良かったかもと思いつつ待ってると、二人はなかなか戻ってこなかった。

 二人して迷子になってるのかな?なんて思ってスマホを取り出してメッセージを送る。

『もうすぐ花火だけど迷ってる?大丈夫?』

 通知を二人してマナーモードで気づいてないのか既読は付かなくて、そのまま花火が打ちあがり綺麗な花を咲かせる。

 この最初の光景をみんなで見れないことは残念だったけど、もしかしたらお腹でも壊したのかなと心配になってると純平だけが戻ってきた。

「悪い、待たせたな、もうはじまってたか」

「あれ?由美は?」

「由美はお腹壊しちゃったみたいで帰った」

「え?大丈夫かな?」

「タクシーで帰ったから大丈夫だと思う」

「そっか…三人で見たかったね」

「そうだな」

 そうして途中から見る花火はとても綺麗で、僕は過去に見たどの花火の記憶よりも一番の花火だと思った。

 ただ由美のことだけは本当に残念で、これが僕にとって三人で見れる最後のチャンスだったことを思うと由美にはもしかしたら怒られるかもしれない、高校が決まれば僕は遠くに行ってしまうと先に言ってほしかったなんて言われたらどう謝ろうかななんて考える。


 花火は終わり、余韻を噛みしめながら純平と二人で帰る。

「今日は楽しかったね、由美のことは心配だけど、あ!動画取ればよかったかな?」

「あぁ、動画かすっかり忘れてたな」

「僕は純平が射的するかと思ったけど由美がするなんて思わなかったからびっくりしちゃったよ」

「俺もした方がよかったかな」

 さっきからどうしたのか生返事ばかりというか、気の抜けた感じで話す純平を見てみると純平は僕を見ていた。

「どうしたのさっきから、元気ない?」

「あのさ、悠里は、好きな人とかいるの?」

 本当にさっきからどうしたんだろう、唐突に好きな人と聞かれても今まで考えたこともなかった。

 好きって言うと付き合うわけでそんな人に出会うことってそんなにないだろうと思ってたし、そもそも自分が好かれるともあまり思ってない

「難しいね、好きってこう特別な人ってことだよね?」

「そうだな、特別なその人だけって人」

「僕はさ、今まで友達とか少なくて、それで今特別って思える人は純平や由美とか友達のことを特別って思うんだよね、だから考えたことなかったなぁ」

「そっか、じゃあさ、俺じゃだめかな?」

「え?」

 純平が一瞬何を言ってるのか分からなくて聞き返すと純平はいつも楽しそうにしてたり、からかうように笑っていたはずなのに今の純平はいつもとは違ってとても真剣で

「俺は悠里のこと好きだ、特別な意味で」

「えっと、え?どうして?」

「最初はなんかか弱そうな印象で関わっていくと一緒にいて安心するっていうか一緒にいると可愛いなって思って、それで、俺もなんでなんだろうなって思って、それだけじゃないんだって最近強く感じてて」

 僕がどうして?というのはどうして今言うんだろうと思ってたことで、ただ僕を好きな理由を並べていく純平をただ見ているしか出来なくて

「ただ俺このままじゃいけない気がして、それならこの気持ちを伝えたくなった。なにより悠里を他の人に見せたくないなって我儘も思って、俺だけを見ていて欲しいって思って、俺じゃだめか?」

 なんて言えばいいのか分からなかった。

 僕も純平は好きだけど、この気持ちが純平と同じものなのか分からないし、由美のことも好きだ。純平と同じくらい好きで、それは恋愛なんだろうか

「僕は、わかんなくて、どうしたらいいの?」

「悠里が俺を好きじゃないなら別にいいんだ、ただ好きなら付き合ってほしい」

 今までと同じじゃだめなのかな、ここで断ったら今までと同じように出来ないのかな、そんな風に思うと途端に怖くなる。

 ただ怖くなるのと同時に僕は二人と離れて暮らすつもりでいたから

「ごめん…」

「そっか、そうだよな、俺こそごめんな」

 断ったつもりじゃなかったけど、ただこれで良かったんだと自分に言い聞かせていると純平は僕よりも先に進んで

「また連絡するから、変なこと言ってごめんな」

 そう言って走って一人で帰っていった。

 僕はなんて言えば正解だったんだろう。楽しかったはずの花火が硝煙の香りを漂わせて僕は泣きながら帰っていた。

 いつから泣いていたのかは分からない。家に帰ると浴衣もそのままにお母さんが心配していたけど僕はベッドで泣き続けた。


 次の日にお母さんに花火大会が途中で由美がお腹を壊して帰っちゃって三人で見れなかったことが悲しくて泣いたと嘘ついた。

 三人のグルチャは動いてなくて、由美宛てにメッセージを送っておいた。

『昨日体調大丈夫だった?ごめんね動画撮ればよかったって後から気づいて撮れてないんだ』

 そう送っておいて返信が来るまで勉強をしなきゃと思って勉強をする。

 勉強をしている間は何も考えなくて済む。それにお母さんのためにも僕は頑張らなきゃいけない


 三日経っても由美から返信が来ないことに心配になって再度メッセージを送ろうと思ってようやく気付いた。三人のグルチャが消えてた。

 どうして?と思ったけど、純平とのやりとりを思い出すとあれが原因だろうと思って、いつも通りではいられなかった。いれなくなったから消えたのかもしれない

 純平からも連絡するとは言ってたけど、連絡は来ないし、もしかしたらこのままなのかななんて不安になったけど、登校日になればいつもどおりになるはずと根拠のない気持ちを抱いて登校日を待ち遠しく思いながら今日も勉強をする。


 お母さんと買い物に行ったりして夏休みは終わり、学校が始まり登校するとクラスは僕が教室に入ると視線が向いてどこか怖く感じた。

 なんだろう?と思いながら椅子に座って二人が来ないかなと待ってると由美が来て、体調大丈夫だったんだと思ったら話しかけられることなく女子と会話し始めた。

 純平がその後に来ていつも通りになれるかもと少し期待をしてみると

「おはよう悠里」

「おはよう純平!」

 挨拶しただけでそのまま自分の席に座ってその後は純平の友達が近寄って夏休みどう過ごしていたかなど雑談を始める。

 どこか僕だけ取り残されてる感じがして、ホームルームが始まり、その後も二人と話すことはなく学校が終わる。


 どうしてこうなったのだろう?と思っても、あのときには戻れないし、ただ僕は二人にもっと早く卒業したら僕だけ引っ越すことを告げていたら良かったかなと思って、今からでも純平には伝えようかと思ってスマホを持つけど、それは花火大会で『似合ってる、可愛い』と言う言葉を最後に終わってるのを見ると涙だけが溢れてこの感情をどうすればいいのか分からなくなる。

 由美にはせめて伝えておこうと思ってメッセージを送ることにする。

『由美、僕高校は県外にすることに決めたんだ、だから卒業後はもしかしたら会うこと難しくなると思う』

 ただそれより前に送ったメッセージの既読がついてない、何か嫌われることをしてしまったのかもしれない

 そうだとしたら僕が浴衣を着ていったことだろう。由美のことを驚かせようと思ったけど気味悪がれたのかもしれない

 今まではそういう話はしていてもそういう服装をしていた訳じゃない、髪を結っていたヘアゴムくらいは可愛い物にしていたけど、僕が女の子の服を着ていたことを気持ち悪く思われたのだろう。

 あのときには戻れない


 一年の時や二人に出会う前の二年の時のように僕は教室では空気のような存在になった。

 純平とは挨拶はするけどそれ以上は話すことはないし由美に至ってはそもそも会話すらしてない、既読も付かず、もう仲の良かったあのときには戻れないんだなと思うと、卒業後を考えるとこれで良かったのかもしれないとも思えた。

 どうせいつかは二人とも別れるんだ。それならその時期が早まっただけなんだ。そう言い聞かせるように僕は勉強をする。


 勉強ばかりしていると時間もあっという間に過ぎて、学校での生活にも自然と慣れていった。

 その間に家ではお父さんが受験することを本気で僕が行こうとしてる高校に対して反対する意見を述べるようにもなった。

「なんでそんなに甘やかすんだ、悠里は男の子だぞ?」

「あなたこそどうしてわからないの?ただ可愛いことが好きなだけで男性同士で恋愛をしてるわけでもないのよ?」

「そうじゃなかったらなんで女の恰好をするんだ?普通の恰好でいいだろ」

「いつまでも固まった考えばかりであの子を傷つけないで」

 僕の部屋まで聞こえる声でお父さんが話して、お母さんとのやりとりに離婚の話も仄めかして僕が行こうとする高校を否定しているのも聞こえてきた。

 やっぱり僕は変なんだろう。おかしくなければこんなことないはずなのに、どうしてお母さんが責められているんだろう。僕が駄目なのに

 お父さんとの話し合いが終わるとその後にお母さんは僕の部屋を訪れて毎回僕が勉強してる姿を応援してくれる。

 好きなように生きていいからねと、僕のやりたいことをやっていいんだよと


 夏の暑さも忘れてしまったように肌寒くなってきた秋の季節にお父さんは家に帰ることが減った。

 どこで過ごしてるかは分からないが、お母さんが苦しそうにしてないのを見ると僕はそれが良かったと思っていたが、11月に入ると父方のおじいちゃんおばあちゃんや母方のおじいちゃんおばあちゃんも集まって僕のことについて話し合っていた。

 父方の祖父母はお父さんを宥めてはいたがそれもお父さんの強い意見で離婚をするように話しが進み、僕の親権はお母さんが引き継ぐことになった。

 お父さんは反対していたが、父方の祖父母から「少ないけど」と言ってお母さんにお金を渡していたようで、お母さんも受け取りながら、この家にはもう住めなくなると言われて、僕がいずれ遠くに行くことを考えて小さいアパートを借りることになった。

 すぐには無理だけど12月には借りれるように手続きがもう決まってるのだとか、それまではこの家に住むけどお父さんもこの家を引き払って別の所に引っ越すというのでもしかするともう会うことは無いのかもしれない。

 もっと幼かったころはお父さんも僕と一緒に遊んでいたはずなのに僕はそんなにおかしかっただろうか、お母さんと離れるほどに嫌だったなんて、僕が遠くに住めばそれで解決することなんじゃないのかななんて思っても決まったことはもう変わらない


 11月も勉強して過ごすだけの日々がただ楽しいと思う気持ちもなく過ぎていく

 ふと気付けば純平とはもう挨拶もしなくなることが普通になっているんだと思うと今までが嘘だったように感じていた。

 僕とお母さんが引っ越して荷物などを置いていく、僕が着るものは段ボールに入れたままで高校に備えてしまおうとのことで お母さんは家にいるときはもう誰の目も気にしなくていいから好きな服を着ていいと言うが、友達に見せていた喜びとは違うけどお母さんのために可愛い服を着るのでもいいかなと思って着替えるとお母さんはしきりに可愛いと褒めてくれる。

 ただお母さんは仕事を夜もするようになって家にいることがあまりなくなったので僕は家では基本一人で過ごすことが多くなった。

 高校に入ったらバイトをするからと言うけど、それで稼いだお金は自分のために使いなさいと言われ、お母さんと話す機会も減って僕は一人の時間を勉強に費やす。


 すっかり外は寒くなってきた。

 冬休みはどう過ごそうなんて思っても誰かと遊ぶわけでもないし、家にいても一人でいるだけのあの家がどうにも辛く、学校が終わっても図書室で勉強をするようになって

 時間になったら家に帰るのだけど、静かすぎるそれに僕はかつて教えてもらった、歌った動画をスマホで流して気分を誤魔化す。

 学校では冬休みをどう過ごすか等みんなが話してるのを一人の空間で聞きながら純平の声が

「勉強ばっかだと疲れるしなんかみんなでぱーっと遊ばね?」

「いいね、夏休み引きこもってた純平を冬休みで盛り上げてやるか!」

 由美の声が聞こえる。

「クリスマスとかさみんなで集まらない?」

「だったらうちに来ない?みんなでお泊り会しようよ」

 ただその二人は遠くにいるし、僕とは関係ない。


 冬休みになり、クリスマス。

 僕は家で勉強するのも億劫で、スマホで検索エンジンを開くとクリスマスを強調するページにまるで僕が一人なことを言われてるような気分になりながらクリスマスと検索をかける

 そうすると出てくる内容はクリスマスがどうしてできたのかとか等わざわざ検索するまでもないようなことが書いてある。

 一人きりのクリスマスはどうにも寂しくてせめてお母さんが夜遅くに帰ってきたときに楽できるように簡単なご飯を作ろうと思ってレシピを調べたりしてると、恋人とのクリスマスなどの余計なページも覗いたりもする。

 恋人ってなんだろう。今までこれのせいで純平との歯車が欠けてしまったのだと思うが、僕があの時もし恋人になると言えばこんなことにはならなかっただろうか

 調べてみると本命の相手とか想いを寄せる相手とか”一生を一緒にしたいと思える相手”と書いてあることを見て、そんなの嘘だと思った、そんなの嘘だ、だって一緒にいないじゃないか、お父さんとお母さんも、純平も、みんな嘘だ。

「そんなの…うそじゃんか…」

 感情が爆発するように涙が止まらなくて、純平にメッセージを思わず送ってしまう。

『うそつき』

「わぁぁああああああ…あぁ…うっ、うぐぁ…ああぁあああ」

 みんな嘘つきだ、なんで僕は生まれてしまったのだろうとさえ思えてしまう。

 こんなことになるなら生まれて来なければよかった。

 僕も嘘をつけばよかった。可愛い物なんて好きにならなければよかった。もっと普通の男の子になればよかった。

 着信音が流れ、スマホを見てみると純平から通話通知が来ている。とった方がいいのか、僕から純平からしたら唐突に言われて困らせてしまったのかもしれない、謝ろう。夏と同じようにもう3か月過ごすだけで終わるんだから、さっきのは誤送信だったとでも言っておこうと思い通話を開始する。

「もしもし」

『ごめん』

「僕も…ごめん…気にしないで、間違えて送っちゃったの」

『嘘だろ、ごめん、今どこにいる?』

「…家」

『行くよ』

「純平の知らない家だから来れないと思う」

『え?誰の、場所とか教えてもらっていいか?』

「ん…」

 スマホから地図アプリを出してスクショをして送る。

『今から行くから、俺が悪かったけど嘘じゃないから』

「うん…」

 なんだか知らないけど、通話で謝ろうと思ったら純平が来ることになった。

 どうしようかななんて呆けていると、純平が来ると再度思ったら今の恰好とかどうしようとか考えて、せめて顔は洗っておこうと思ったらひどい顔をしてるものだと自分の顔を見て思った。

 目元は赤いし、起きてから整えてない髪は乱れているし

 顔を洗い、着替えて、化粧でなんとか誤魔化せないかと考えたけどここまで目元が赤いと誤魔化せるものではないかとも開き直って、純平が来るならお茶とか出した方がいいかなと考えたりとそわそわしながら待ってるとメッセージが届いてきた

『何号室?』

『202号室』

 もうここまで来てるなら玄関を開けて迎えた方がいいだろうと鍵を開けて玄関を開くとそこに息を切らしてる純平がいた。


 部屋にあがってもらって、お茶を出しながらテーブルを挟んで座る。

「えと、聞きたいことはあるけど、ごめん、信じてもらえないかもしれないけどメッセージも送ろうとかは思ってたんだ、学校でも何話していいかわかんなくて、でも悠里も話しかけて来なかったからもしかしたら嫌われちゃったのかと思ってた」

「そっか…」

「だめだよな、俺の方から言ったのに」

「連絡…待ってた…」

「本当にごめん」

 僕も嫌われてたと思ってた。あの時謝ったから、純平の気持ちを踏みにじるようなことをしちゃったから、ただ純平の言うことだとそうではないみたい

「悠里?」

 それでもどうすればいいんだろう、なんて話せばいいのか分からない、あの時の返事をするべきだろうか、それとも今来てくれたことを喜んで何か話した方がいいのだろうか

「怒ってるか…?」

「怒ってない」

 僕はどうしたいんだろう、これから、ただ今仲直りすれば冬休み明けからはまた友達に戻れるかもしれない、ただその後は?

「あの時…謝ったのは、僕が行きたい高校決まってたからで…」

「ん?高校?」

「返事、困ってたの、なんて言えばいいのか迷ってて、それでね、僕行きたい高校が県外にあって、だから純平と離れ離れになっちゃうし、付き合うってわからないし、だから本当はあのとき高校のこと話そうと思ってたら、全部壊れちゃった…こわ、れたの…おどうざんも、おがあざんも、別れちゃって、何も」

 あぁ、何を話そうと思ってたんだっけ僕は、ただあの時のことや、今まであったことを話して、純平がいつの間にか僕を抱きしめて僕が何かを言うたびに「うん」と頷いて聞いてくれて

「ごめん、ごめんな」

「どうして、こうなったのかわかんなくて」

「うん」

「純平と仲直りできても、遠くに行っちゃうから」

「悠里」

「僕はただずっとこのままがいいって思ってただけで」

「悠里」

「純平…?」

「悠里がいいなら俺もそこに行きたい、今からだと両親や学校になんて言っていいのか分からないけど、それでも俺は悠里が俺と一緒にいたいと思ってくれるなら俺は一緒にいたい」

「…ほんとうに?」

「本当だよ」

「純平勉強できないのに…?」

「それは余計なお世話だよ、何もすることなくてせめて悠里と同じところに行きたくて勉強少しは頑張ってたつもりなんだよ」

 一緒に居てくれるという言葉が温かくて、それからもずっと大丈夫と言って抱きしめてくれて

「もし受験失敗したら一緒に住んでさ、俺中卒になっちゃうけど働くのとかどうかな?」

 未来のことを話してくれる内容は僕がそこにいる話をしてくれて

「悠里は嫌かな?俺本当に悩んでそれでも好きだって思ってるんだ」

 僕がちゃんとした返事を返してないのにそれでも好きだと伝えてくれて

 今まで悩んでいたことが苦しかったことが無くなるような気がして、純平を僕も抱きしめると頭をそっと撫でてくれることが嬉しくて、今までのことが嘘だったように思えてただ甘えてしまう。

「僕…何も返してあげれない」

「いいよ、いや、できれば返事がほしいかも、いつになってもいいからさ」

「返事?」

「俺初めて告白したんだよ、あの日実は由美から告白されてさ、悠里のこと言っちゃって、そしたら由美も悠里のこと避けるようになっちゃってさ、悠里は何も悪くないのに俺のせいで悠里の大事なもの壊しちゃったな」

「そんなことない」

 そんなことあるはずないんだ、お父さんとお母さんは僕のせいで壊れてしまったし、由美も純平が悪いことなんてない

 僕がもっと由美と話していたら、せめて学校で話しかければもっとなにかが変わったかもしれない

「純平…好きとかよくわかんない」

「俺も分からない、分からないけど好きだって思う気持ちがなんかあるんだよ」

 それはもしかしたら僕も純平に抱いてる気持ちもこれは恋というものなのだろうか、友達と思っていた。かけがえのない友達だ。今でも由美に対しても抱いてる気持ち、それでも今はどこか由美に対する気持ちとはなにか違う気がする気持ち。

「一緒のところに行こう、時間がまだあるってわかったら考えれるだろ?悠里は頭良いしさ」

「ん…勉強ばかりしてた…」

「ごめんな」


 僕が泣き止んで、しばらくして志望校を伝えると「たしかに遠いな、ここ田舎だしな」と言われながらスマホをいじってた、何をしてるんだろうと気になってると

「親に行きたいところ言ったり、あと途中でクラスの奴らと集まってたところ抜けたからその詫びメッセ送ってるよ」

「そっか…」

 なんか何もしてないのも落ち着かないのでお茶のお代わりを用意したり、どうしようかなと手持ち無沙汰にしてると純平が手を繋いできてびっくりしたが、悪い気分ではないし、そのまま時間が過ぎていく

 ただ何もない時間だけど、今までの空虚な時間を取り戻してるような気がして落ち着いて、だんだんと眠たくなってきて、気づいたら眠っていた。



 起きると、今は何時だろうと思って、意識がはっきりとすると純平はどうなったんだろうと瞼を開けると膝枕をされていて、お母さんもいつの間にか帰ってきてたみたいで二人で話してた

「うちの子と一緒のところを受けてくれるってだけでも嬉しいです。」

「それはこちらの方がお願いしたいと思ってましてその悠里…さんは大切ですから」

 なんか恥ずかしいことを言われてる気がしてもう少し眠ったふりをしておこうと思ったら僕が起きたことに気づいたのか頭を撫でてくる。

 お母さんの前でこんな姿をしてることも恥ずかしいので起き上がると、お母さんが最近はいつも疲れた顔ばかりしていたのに笑顔でいる。

「悠里、良い友達がいてくれて良かったわね」

「うん…大事な友達…」

 布団もかけてくれていたみたいで、布団をどけると、お母さんが今日はクリスマスだからとケーキを買ってきてくれたみたいでショートケーキを2個しかなかったからお母さんは僕と純平に食べてと言われるがお母さんはいつも疲れるまで働いてくれてるから食べてほしくて

「純平と一緒に食べるからお母さんも食べて」

「え?俺と一緒?いいの?」

「悠里がそうしたいならいいけど、純平君はそれでもいいかしら?」

「あ、喜んで」

 昔に戻ったような気がして、純平が来るまでの悲しい気持ちが無くなって、純平と一緒にケーキを食べようとすると、ちょっと純平がだらしない顔をしてるのがむかついたのでフォークで切り分けたケーキを口に突っ込んでおいた

 お母さんは僕と純平のやりとりを見て安心したように三人でケーキを食べる。

 純平からぼそりと「間接キスか」と聞こえたけど聞かないふりをしてそのまま完食すると、お母さんが夜も遅いからこのまま泊まるか提案する。

「狭いし、布団も悠里と一緒に寝てもらうけどそれでもよかったら」

「是非お願いしますお義母さん」

 別に僕もそれでいいけど布団を二人で寝るとなるとさすがに狭い気もするが大丈夫かな


 純平がお風呂を借りることになってお母さんと二人になると頭を撫でてくれる。

「良い友達がいてくれて安心した」

「うん…」

「ごめんね、悠里も頑張ってくれてるのに寂しい思いさせちゃって」

「ううん、僕もいっぱい我儘言って困らせてたらごめんなさい」

「悠里が笑顔になってくれればお母さんもっと頑張れちゃう」

 久しぶりに感じるお母さんとのやりとりもできて今日はもしかしたら夢で全部が消えてしまうんじゃという不安も抱いてしまうくらいに僕は幸せ者なのだろう。

 純平がお風呂から上がってきて夜も遅いからと電気を消して三人で眠ることになり、布団からはみ出ると寒いだろうと思って純平を抱きしめて、純平からも抱きしめられる。

 僕が難しく考えすぎたからこじれてしまっただけだったのか、もっと素直に受け入れてしまえばよかったんじゃないかと思うくらいにクリスマスが、素敵なクリスマスが過ぎていった。


 それから次の日には純平は家に帰って色々親と話し合うということになって、お母さんも時間が空いてるときに純平の両親とお話ししたいという流れになってた。

「お母さん何を話すの?」

「悠里と一緒にシェアハウスすれば純平君のご両親も納得してくれるかなとか、そういう相談かしらね」

 本当に一緒に住むことになりそうだと思うと、嬉しいと思ってしまってる自分がいて、それは別に嫌な気持ちなんかなくて、なんだろうこの気持ちは


 冬休みは純平と何をするでもなく一緒に喋ったり、勉強したりして過ごして、初詣は純平の両親と僕とお母さんも一緒に初詣をして、両親が話してる間も純平はずっと一緒にいてくれた。

 学校が始まらなければいいなぁなんて思って、学校が始まるともしかしたら夏みたいになっちゃうんじゃという心配も束の間で

 冬休みも終わり、学校の教室を開けると純平はもう来てたみたいで、僕を見ると笑顔で「おはよう」と声をかけてくれる。そんな幸せを噛みしめて僕もおはようと返す。


 クラスでは僕のことをどんなふうに言ってるかは分からない、ただ純平がそんなのを気にしないで話してると学校が楽しくなり、学校が終わってからも一緒に勉強をして過ごして、高校入試は一緒に電車で向かい、お互いに入試頑張ろうね!と意気込んで挑む。


「ねぇ、純平は手応えどうだった?」

「難しいな…」

「面接はどうだった?」

「厳しいな…」

「言い方変えてもだめだよ、あまり芳しくないんだね?」

 そんなやりとりをして、二人でドキドキと身構えて、二人して合格通知が届いて喜んで


 純平の両親も一緒になってシェアハウスを許可してくれて、お母さんは働く時間を少し減らして一緒にいる時間も増えて、別れを惜しむように休みの日には二人で出かけたり一緒に過ごした。


 中学の卒業日には由美から声をかけられた。

「悠里君…ごめん、ブロックしてて、最後になって謝るの卑怯かもしれないけど…」

「大丈夫だよ由美!全然気にしてないから!」

「そ、そう?でもごめんね」

 本当に大丈夫、由美のことは今でも好きだしそれに由美が僕のことを避けていたのは純平が好きだったからならそれも仕方ないことなのだと今は分かる。

「離れていても友達だよ!」

「うん、私も友達と思ってる、帰ってきたら連絡してね」


 純平からはあれでいいの?みたいな反応をされたけど、僕からしたら特に変わったことはしてないし、それに由美にも謝られたので特に問題は無い

 むしろ純平が何を気にしてるのかが分からなくて聞き返すと

「いや、なんか修羅場になるのかと」

 どんな展開を期待してたのだろうと呆れて見てしまうが、実際半年も無視されたらそういうものなのかなとも思う。でも僕がそれでいいと思ってるからそれでいい



 純平とのシェアハウスで高校での初めての登校日、採寸なども済まされて届かれてた制服は登校日に初めて服を通すとお互いに決めていた。

 先に着替えてブレザーにスカートを着込んだ写真をお母さんに送ると『可愛い!さすが私の子』なんて嬉しいメッセージをもらえて

 玄関を開けて純平を待ってると純平と一緒に向かう。


「ねぇ純平?」

「どうしたんだ?」

「僕似合ってるかな?」

「似合ってるよ、可愛い」

「あはは、やった」

 都会は思ったよりも便利なもので困ることはちょっと騒がしいことかなと思うくらい

 そんな街並みを二人で歩いていく

「純平?」

「どうした?あまり褒めるの恥ずかしいからもうやめてほしいけど」

「返事」

「ん?」

「僕も大好きだよ純平」

「え?ん?返事ってそれって」


 きっと僕は幸せ者だろう。

 これから一人になることは無いんだって思うとそれだけで胸が晴れやかになっていく。

 純平と一緒ならそれで僕は辛い気持ちがなくなっていく

「おい!さっきのってそういうことか?そういうことなのか?」

「あはは」

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過去は戻らない、元には戻らない『男の娘物語』 空海加奈 @soramikana

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