誰よりも君のオタクでありたい

SOシュガー

運命の出逢い

俺の名前は日野浩平ひのこうへい。21歳、見た目はぱっと見、冴えない男。俺を一言で表すなら、オタクだ。今この瞬間も推しのライブに来ている。スタンディング形式で人の波に押されながらも、推しを拝めることに歓喜していた。

一曲終わった後、後ろで2、3人の女性達が前を見ようと一生懸命に背伸びしているのに気づき、前を譲った。自慢じゃないが、身長はかなり高い方だと思う。多少後ろに行ってもまだ見える。後ろに行く時に俯いた少女とすれ違った。母らしき人に前へ行こうと手を引かれていたが、断っていた。付き添いかなと思ったが、特に気にもとめなかった。そんなことよりライブだ。大声で騒いで会場のみんなと一体になるこの感じが好きだ。そうしてはしゃいでいる時に、ふと斜め前方を見ると、さっきの少女がいた。俺はライブの事も忘れ、その少女に目を奪われた。彼女は皆がはしゃいでいる中、一人佇み、まっすぐ前を向いていた。そして、その目からは透き通った宝石のような涙がポロポロと溢れていた。俺はその雫がこの世の何よりも美しいと感じた。恋に落ちた。


しかし世の中というものは残酷だ。ライブが終わるとすぐに会場は混雑してしまう。入り口の近くに居たから尚更だ。たちまち彼女は俺の視界から消え去ってしまった。

俺は、ライブが終わって浮き足立っている人混みの中で一人、意気消沈して帰っていった。電車を乗り継いで違う電車に乗った時、結構混んでいたため1、2駅ほどはそのまま我慢する。ある程度人が降りて身動き取れるようになってから空いている席を探しに車両を移動した。そして俺はあの少女を見つけた。


まさか、同じ電車に乗っているとはつゆとも思わず、驚きと喜びに目を見張った。彼女は、ぐっすり寝込んでいる母らしき人と並んで座っていたが、座席のもう片方は空いていた。出来るだけ自然な動作を心がけて隣に座る。彼女は本を読んでいた。ライブの時は俯いていたので気づかなかったが、彼女はとても綺麗な顔をしていて、読書をしているだけなのに絵になるような美しさだった。本来ならば話しかけるのはもちろん、見つめることさえままならないような美少女だが、今日の俺はもう一度彼女に会えた事で気が大きくなっていて、普段ならそのまま何もできずに終わるはずだった今日を変えてしまった。


しかし、いざ話しかけようと思っても、特に話す用事もきっかけもない。いきなり話しかけてゴミでも見るような目をされたら(精神的に)俺が死ぬ。かといってこのままじっとしていてはどっちみちもう会うことは無いだろう。どこで降りるかわからない以上、話しかけるなら早い方が良い。それに加えて、親が眠っているのは俺にとって好都合だった。


と、ここまで思ったはいいが、話すきっかけなどどうやって作れば良いのか分らず、オロオロしているうちに電車が揺れて、手に持っていたスマホを落としてしまった。それは幸か不幸か、偶然にも彼女の足元へと飛んでいきいった。彼女は優雅な仕草で本を閉じ、俺の落としたスマホを拾ってくれた。

「、、、これ、落としましたよ。」

彼女の声は綺麗なソプラノで、冗談抜きで本物の女神を想像した。彼女の周りだけ輝いて見えるのも、きっと気のせいではない。

スマホを受け取る手が震えないよう気をつけながら受け取った。彼女はそのまま座席に座ったが、俺はチャンスだと思い、勇気を振り絞って話しかけた。

まずはスマホの礼を言い、興味を彼女の本に向けた。彼女は俺のことを(前を譲ってくれた人というだけだが)覚えてくれていた。彼女と俺は案外話が合い、気づいたら終点まであと4駅というところだった。(ちなみに彼女は終点で降りると言っていた)俺は今言えなきゃ、今度こそ一生会えないと思い、ダメ元でLINEの交換を申し出た。すると意外にもあっさりOKが出て、正直拍子抜けした。LINEを交換する間、俺はとても緊張して、心臓の音が聞こえていないか不安になった。そして、やっと互いに(名前を言い合うだけだったが) 簡単な自己紹介をした。

彼女は星見ほしみノアと言った。

それから、親が起きるから後はLINEで話そうと言った。


それからしばらくノアちゃんと(LINEを通して)話をして、彼女が高校2年生(俺とは5歳差)だと知った。実はお互いの家がかなり近いということに気づき、お茶に誘った。後から、やはり気持ち悪かっただろうかと自己嫌悪していたが、彼女は了承してくれた。

近くに良い感じのお店がなかったため、ノアちゃんに意見を聞いたら、お昼ごはんを一緒に食べるのはどうかと提案された。

まさか彼女の方からランチに誘われるとは思ってもみなかったため、少し驚いたが、俺には断る理由など一切なかったので2つ返事でOKする。彼女は寿司が好きと言っていたので寿司屋に行く事にした。


ノアちゃんはよく食べた。この小さい体にどうやったらあれだけの量が入るのか、何度考えてもわからない。だが、彼女はとても満足したようで、良い顔をしていた。失礼かと思いながらも、いつもこれくらい食べるのか尋ねてみた。彼女は少し恥ずかしそうに、

「普段は親に止められているので、その反動でついたくさん食べてしまいました、、、」

と言う。(何なんだこの子は。かわいいが過ぎるだろう。)と、キモいオタクは置いといて、少し話しをする。いろいろ話して、もう少し踏み込んだ事を聞いてもいいだろうと判断して聞いてみる。

「君は、好きな子とかはいないのかい?」

「、、、えっと、、実は3年ほど片想いし続けている人がいて、、、」

俺にとってショックな話だったが、俺からふったのできちんと受け答えする。

、、、声が震えないよう気をつけながら。

「なら、告白したらいいんじゃないかな?」

「はは、、実は、したんです。」

「、、、え?」

「振られちゃいました。」

彼女はどこか寂しそうな顔で微笑んでいた。

俺は、、、困惑していた。

なぜ彼女が振られることがあるんだ?誰からも愛されて、告白されることはあれど、まさか振られるわけがない。そう思ったからこその発言だったのに。俺は彼女を傷つけてしまったのだろうか?

など、いろいろな事をぐるぐると考えていたせいか、つい、無意識のうちに言葉をこぼしてしまっていた。

「なら、俺がその人を忘れさせてやる。」

(、、、はあ?俺は一体何を言っているんだ?これには流石に彼女もドン引きだろう。俺の恋は終わった、、、許してくれ、俺よ、、)

などと、一人で勝手に落ち込んで、彼女の顔も見れなかった。そのとき、彼女が躊躇いがちに声を発した。

「、、、ほんとう、ですか?」

「へ?」間抜けな声が出てしまった。顔を上げると、彼女からはさっきまでの表情が抜け落ちていた。

「本当に、忘れさせてくれますか?」

「、、努力する。」

「どんなふうに?」

「LINEは出来るだけすぐに反応するし、寂しいなら電話してたくさん話そう。誰にも傷つけさせないし、もし傷つけられたなら、どんな相手でも立ち向かってやる。君が望むのなら毎日だって君を好きだと言おう。この世の何よりも君を大切にすると誓うよ。」

俺は開き直って真っ直ぐに彼女を、星見ノアを見つめた。

「、、、浩平さん。」

「うん?」

「夜遅くにLINEしても良いですか?」

「ああ。」

「ケンカしても仲直りしてくれますか?」

「もちろん。」

「電話しても疎ましく思いませんか?」

「寧ろたくさんして欲しい。」

「泣いたり怒ったりしても愛想を尽かしませんか?」

「絶対ないよ。」

「、、私の、はなしを聞いてくれますか?」

「必ず聞こう。」

「ずっと、一緒にいてくれますか?」

「、、、死が2人を別つ、その時まで。」

最後の方は今にも震えそうな声で吐き出すように言っていた。とても痛ましかった。俺は彼女の手をとり、正面からその目を見つめる。今にも涙が溢れ出しそうな真っ黒で美しいその瞳に、吸い込まれそうな感覚がした。

「俺と、付き合ってくれますか?」

「、、、はい。」

もう我慢できなかったようだ。返事と共に両目から涙が次から次へと流れ出す。

あの日俺がこの世の何よりも美しいと思った雫と全く同じように見えて少し違うその涙が愛おしくてたまらなかった。

彼女を生涯愛そうと心の底からそう誓い、彼女を抱きしめた。その時に思い出す。

(ってか、ここ寿司屋じゃねーか!こんなロマンチックもクソもない場所で告白なんて何考えてんだ俺!!)

案の定、俺たちはとても目立っていて、周りのお客さんや店員さん達の注目を集めてしまっていた。

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