両想いの残滓 ~ごめんね、私
深宙 啓 (Kei misora)
ごめんね、私。
―――あなたは私の理想に近い人。
楽しくて、カッコ良くて、なのに何時も私に優しくしてくれて……。
「
「え、ありがと。じゃ、お願い」
さりげない気遣い。道を歩けば車道側へと無言で入れ替わり、荷物にもこうして気を遣ってくれる。
そうして極々自然にその手を恋人繋ぎする。
……かれこれ
この人を大好きな私が、まだその手を離さないで居られるのなら……。
*
社会人になって三年目の私にようやく訪れた春は、端から見れば順調に彼との四年という時を過ごした。
そして適齢期という頃合いか……。
「今度さ、山梨に行こ。いい温泉見つけてさ」
「ンフッ。いいよ。どんな所なの?」
「野趣溢れる露天なんだ。
「フフ……、また露天か。
「クスッ。まぁね……」
大学時代も社会人になっても恋に不遇だった私。そんなに理想が高かった訳でもないとは思うけど、ガードが固すぎたのか、気付けば一人だった。
そこへ仲の良い同僚が誘ってくれた合コンで彼と出逢った。
私は結構ピンと来たけど彼はどうだったのかな? 会話はそこそこ意気投合出来て、別れ際に連絡先を教え合った。
暫く彼からの誘いを待ったけど、音沙汰は無く。例の同僚に強くプッシュされ、偶々入手した映画のチケットを言い訳にしてメッセを送ってみた所、食い付いて来てくれた。どうやらその映画は彼が観に行きたかったものの様で、色々熱い想いを語っていた。
以来、何かにつけあちこちに出掛ける様になり、ここ迄来た。友人からも上手くいっていることを羨ましがられたりと、自分でも何となくゴールが近い事を感じる。
ただ……私さえ今を認めれば……
*
まだ数回目のデートの頃。
急接近する二人。大都会のデートの名所、恋人だらけの夜の公園で見つめ合う。
こ……この流れは……キス……でも待って。まだ気持ちを伝えて貰ってない。ってやっぱ私は固過ぎなのかな……
「ねえ、私の事、どう思ってるの?」
「もちろん好きだよ」
「どんな所が?」
―――好きに理屈なんて無い。そんなの分かってる。でも軽い女と思われたくないし、この後、友人か恋人かをハッキリさせるためにもちゃんと理由を言って欲しい……
「いつも俺に優しくしてくれて、こんな良い人、居ないって思うから……だから大好きだよ」
潤んだ瞳とその言葉にこちらの想いも沸点を軽く越えて、抱擁とともに顔を重ねた。
その日の夜は胸が熱くてなかなか眠りに就けない程だった。
以来一度のケンカもなく常に仲の良い二人。
なのに今、私は迷っている。
最大の原因は『連絡が何時もこちらから』だから。メッセも電話も切り出すのは何時もこちらから。
彼の気持ちを確かめたくて意地になり、ずっと待った事もある。
四週目に根負けしたのは私の方……。
こんなのってどうなのよ! 本当に私のことが好きなの?! そう思って幾度か繰り返すあの問いかけ。
「ねえ、私のどこが好きなの?」
何時も返される言葉は声優さんの様に優しげな声音を伴ったこの言葉。
「いつも優しくしてくれるからだよ」
そう言う彼の瞳は毎度潤んでいる。恐らく偽りはない。でもこのデートの連絡も私からのもの。多分こちらから連絡しなければ永遠のフェードアウト。
私が好きなのではないと分かってしまった……。
この人は私がこの人を好きだから愛してくれるだけなのだと。
多分この人は私が気持ちを向ければ誠実に返し続けてくれる。でも私がその手を離せば追って来てはくれない。
女として、恋をする者として―――
一度でもいい。追って来て欲しい。たった一度。
恋は駆け引き。
恋が本当に自分にこだわってくれる相手か見定めるためのものだと言うなら、この先の一生のパートナーになれるか、一番大切な事のはず。
そんな中、友人が三年越しの恋にピリオドを打った。相手の不誠実な態度。チラつく別の異性の影。
追う程に煙たがられた結果、結局試してしまった。連絡を取らず相手の気持ちを―――。
やはり追って来ることはなかったらしい。風の便りでは他のコとくっついたとか。
私はうっすら分かっている。自分さえ手を離さなければこの幸せは保証されると。そしてこの幸せが二度と手に入らないものだとも。
だから私そのものを好きと思って貰えなくても手放せない。こんな悩みは贅沢なのだろうか……
必ずしも自分その物を認めてくれてる訳じゃない事を知りながらも、惨めに優しさにしがみ付く恋の行き着く所は何処なのか……
そして今日も私はこの幸せの為に自分を偽り続ける。
――― fin ―――
両想いの残滓 ~ごめんね、私 深宙 啓 (Kei misora) @kei-star
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