第17話

 プロ棋士には、遠征する仕事もある。

 小学生の大会で、指導対局をするのだ。もちろん、忙しい人は引き受けられない仕事だが、僕には何の問題もなかった。

 遠いと、泊りがけになる。そして、前夜は地元の方からおもてなしを受ける。

 おいしいお酒とおいしいごはん。普段とはあまりに違う食事に、誕生日だったかと勘違いしてしまう。いや、誕生部すらちゃんと祝われたのは小学生の時までだ。これはもう、祭りだ。

 ホテルに戻ってきて、ベッドに飛び込む。酔っていると将棋のことは考えられない、というのは最近知ったことだ。自宅では全く飲まない。

 早く眠りたい。起きれば、そこから将棋の勉強ができる。リセットだ。

 だが、なかなか寝られなかった。知らない土地で知らない人たちに会った刺激が、余韻として残っている。

 勝負で結果を残せていないのに、勝負以外が苦手というのはどうしたものだろうか。



 指導対局で、一つだけ惨敗をした。

 六枚落ちをしたのだが、明らかに二枚落ち以上の手合いだ。ハンデが、重すぎた。

 将棋の勉強をよくしていて、六枚落ちをしっかり覚えた、と信じたい。でも中にはどうしても勝ちたくて、絶対に勝てる手合いで挑んでくる人もいる。

 考え込んでしまう。どちらだったのだろうか。

 将来、プロになる子はほんの一握りだ。将棋を続ける子自体が少ない。それでも、いるかもしれないのだ。原石が。そんな原石が、勝ちたいばかりに偽りのハンデを言っていたとしたら。ひりひりとする勝負の機会を逃していたとしたら。

 地区大会で優勝しなくても、プロになれる子がいる。僕が例だ。ただ、偽りのハンデを申請してプロになった子は今までいただろうか。なんか、いない気がする。

 プロを目指さない方が、幸せなのかもしれないけれど。平手で勝つのは、本当に大変だ。楽しめたのなら、それでいいか。自分に、言い聞かせた。

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