第5章 1勝10敗 (対プロ棋士 0勝10敗)

第16話

 松平君は、負けたらしい。プロの5勝、アマも5勝。

 初勝利は、あっけなかった。相手が負けたと言ったので、勝った。普通に、押し切ったのだ。

 僕にとっては、初めての勝利。ただ、プロ棋士がアマチュアに勝つのは普通のことだ。誰かが褒めてくれるようなことでもない。

 弥陀アマは、勝っていれば編入試験を受ける資格まであと1勝になっていたらしい。ただ、プロ棋士が勝つのは普通のことだ。

 ……勝てて、本当によかった。



 が。ネットのノリは残酷である。「まだ対プロ棋士は勝率0割」とか言い出したのである。事実だけど。

「なんか人気じゃねえか」

「いいことなんでしょう。ファンあってのプロ、ですから」

 言いながら、レンを撫でる。チワワはおとなしくしている。

「まあ実際、もっと勝たなきゃな」

「師匠ぐらいは勝ちますよ」

「ははは。俺も今年度は1勝だ」

「仲間ですね。はあ」

「次は誰だ」

「鳥屋原さんです」

「じゃあ勝ち目あるじゃねえか」

「3連敗です、いま」

「調子もよくなさそうだ」

「4連敗はしないんですよ」

「器用だよな」

「怖いです」

 あの人は、本当に弱いんだろうか。本気を出せば、いつでも勝てるのかもしれない。プロでいられる、最低限だけ勝つ。そういう生き方を選んでいるのかもしれない。

「ま、今更負けるのが怖いっつってもしょうがないだろ」

「嫌なもんは嫌です」

「そらそうだ」

 プロになる前は、単に弱いのだと思っていた。けれども今は違う感想がある。普段は力を温存して、溜めたもので強い自分を作れるのではないか。半年に一回だけ強いというのもなんとも妙なのだが。

 プロ棋士にはまだ勝っていない。確かにそれはそうなのだ。

「まあ、頑張ります。いつか師匠に敵討ちしたいので、当たれるよう勝ち上がってくださいね」

「恩返しだろ」

「あっそうか」


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