第18話
久々に実家に帰ってくると、まだ11時前だというのに食卓に食事が並んでいた。しかも、3人分。僕意外にもだれか訪れるのだろうか。まさか、新しい恋人?
だが、よく見てみると米が乾燥していて、みそ汁も冷めているようだった。母親の分だけ、少し量が減っている。
「母さん、誰か来る予定だったの」
「健太が起きてくるの、待ってたのよ。お父さんも帰ってくるの遅いから、冷めちゃった」
「え、お父さん帰ってきたの?」
「まだよ。全く、何してるんだか」
母は、昼食の準備を始めている。魚を、3匹焼いている。
「父さん、ずっと帰ってないんじゃ……」
「まったく、どこをほっつき歩いてるんだか」
何となく不安になって、僕は両親の寝室に向かった。押し入れの中まで見たが、父親の死体が見つかることはなかった。心配しすぎたと思ったが、安心できたわけでない。寝室の中にはゴミが散らかり、壁には穴が空いている。
自分の部屋に向かった。長年、砦だった場所。袋に詰められた古着が積み重なっている以外は、特に前と違うところはない。
「まったく、もったいない」
居間に戻ってくると母親は朝食を捨て、昼食を並べ始めていた。
小学生の時、なんで皆が修学旅行を楽しみにしているのかわからなかった
帰って来てから、修学旅行の思い出を書かされるのが辛かった。何かを学んできた気は全くしなかったし、楽しくもなかった。
あと何度、こういうことがあるのだろうと思った。学校で何か行事がある度に、参加するのがめんどうくさかった。
「高校には行きたくない」と両親に言った。驚いていたが、二人とも反対しなかったのだ。
「中学生のうちにプロになれればなあ」
「健太は賢いから、きっとなれるわ」
奨励会に受かったことが相当うれしかったようで、僕がプロになれると信じて疑わなかった。システムがよくわかっていないので、数か月成績が良いと資格を貰えると思っていたのである。
実際は有段者になるのも大変で、中学生プロなんて夢のまた夢だった。
だんだん両親が暗くなっていく気がした。どうにかして喜ばせなければ。そう思って、必至に将棋の勉強をした。高校の修学旅行も休んだ。
中央線の車窓を眺めながら、もしあの時修学旅行に行っていたら、プロになれなかったのだろうか、などと考えている。
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