グリーン・ジェイド

美作為朝

グリーン・ジェイド

「こちら、<ケベック・リーダー>現在ECCM対電子妨害対抗手段ポイント・チャーリーを定刻にて通過中。エンゲージ・エリアまで残り30秒。各員注意してかかれ」

「コミュニケーション・ファイブ・バイ・ファイブ。ケベック2、コピー」

「ケベック3、了解」

「ケベック5 コピー」

「ケベック4 了解」


 新米のドニントンの返事が遅れた。

 最後尾に付く俊明トシ・バーノン伍長が白く歪んだ球体の大きな装甲で守られたパワードスーツの中で小さく口角を上げつぶやく。


 「ドジめ」


 ディスプレイで上がってくる計器類の弱い光がトシの顔を鈍く照らす。

 <エッグヘッド>と呼ばれる最新式の戦闘用パワードスーツ一個小隊が月軌道上を音も立てずに進んでいく。

 <エッグヘッド>は通常のEVスーツに肩まですっぽり入る白い大きなゆで卵のような装甲をかぶり、背中には最大噴射五千馬力の推進剤パックを装備。

 両腕には各種ガイデッド・ミサイル。レーザーブラスター等々が装備されている。

 ただし、体は通常の戦闘用EVスーツのボディアーマーを二枚重ねで装備しているだけ。

 <エッグヘッド>は頭部の装甲の形からつけられた渾名だが、割れやすい卵の殻の比喩でもある。

 <エッグヘッド>を着用する<”エッグヘッダーズ”>の寿命はどういうわけか腐りやすい遺伝子組換えの卵より短いと、軍ではよく言われている。

 ケベック小隊の足元には月の表面。

 そこから大きく浮かび上がる青く美しい地球。

 地球から離れれば離れるほど地球は美しく見え、月は近づけば近づくほど恐怖感をおぼえる。

 トシのヘッドギア内に鈍く警報音が響く。

 それと同時に小隊の中央を行く小隊長のウォレス中尉の声が響く。


「セカンド・プレメターを出るぞ。各員攻撃用意。ROE交戦規定に従い各員戦闘速度に増速」

「ログ」


 トシは小さな声で答えた。

 他の小隊員の返事が続く。

 今までは自動推進式のECCMポッドが存在を電子的に欺瞞してくれていたが、ここからは誰も守ってくれない。まさにキルゾーン。

 トシは前方を最大望遠で見る。白胡椒のように人工衛星群が広がっている。

 その真ん中には、通称<グリーン・ジェイド翠翡翠>が待っている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

グリーン・ジェイド 美作為朝 @qww

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る