第14話 お姉様がやって来た

先生の思い出の地を巡り

津島家に戻って来たら

なんと風子さんがいらしていた。


「ふ、風子さん!?どうしてここに?」


「菜穂子が心配で来ちゃったよ(笑)」


「来るなら連絡くらいしろ!」


「そうですよ!風子さんが来るとわかってたら、一緒に出掛けたかったです!」


「驚かせようと思ってさ!それに…ハワイ行くって約束してた人にドタキャンされて、だったら久しぶりに、ねぶた見たいなぁって。それよりお2人さん!どこ行ってたの〜?」


「どこって…爺ちゃんの墓参りして、三内丸山とか、黒石の方をチョロっと回っただけだ」


「へぇ♡爺ちゃんに、菜穂子を紹介したってわけね?」


「そんなんじゃない!変な言い方すんな!」


先生がムキになって言い返すと

典子さんが仲裁に入った。


「これ!姉弟きょうだい喧嘩はやめやめ!ほんにおめらは昔がら変わってねな〜」


さちさんも懐かしそうに話す。


「爺っちゃもよぐ『喧嘩はだめだ〜』って叱っでだな!へばこうも言っでだ。『喧嘩するほど仲がいじゃ」って」


「アハハ!私と大樹は本当に仲悪いけどね〜!」


「自分のせいだろ…」


「そだごど言っでも、風子ちゃんは大樹くんの面倒よぐ見でだ。大樹くんもっちゃのしゃべるごど、ちゃーんど聞ぐ素直な子だっだ、んだがら、そいで釣り合い取れでんだべな?」


さちさんからそう言われて

恥ずかしそうに佇む先生と風子さんは、

子供の頃から変わっていないのだと

なんだか微笑ましくなった。


「お茶っこさ飲むべ!」


畑仕事を終えて

早めに戻ってきた典子さんと修さん。

そして先生と風子さん、さちさんと私で


お茶を飲みながら

採れたてのとうもろこしや

冷え冷えのスイカをいただきながら

話に花を咲かせていた。すると典子さんが


「へば!そろそろ着替えっべ!」


「へ…?着替えるって?」


風子さんは典子さんが持ってきたという浴衣を広げながら

私に見せてくる。


「これ典子姉ちゃんが持ってきてくれたの。私も着るから菜穂子も着てこ?」


「いいんですか?」


「いねいね〜(いーのいーの)!こいは娘に買っだんだども『浴衣なんか着ね!』って生意気言っで、結局普通の服さ着で、さっき友達と出はったの」


「へぇ。可愛いのに」


典子さんにはお子さんが2人いる。

上は高校生のお嬢さんで

下は中学生の男の子らしい。


2人とも、ねぶたは友達と行くと言い、

先に出かけてしまったらしい。


「菜穂子ちゃんには、ちっとおぼこい柄がもしれねげど…」


「いえ。ありがとうございます!お借りします。」


風子さんと典子さんに

着付けやヘアセットをしていただき鏡を見る。


「わぁ……」


「菜穂子、可愛い!これで大樹の心もバッチリ掴んじゃうね!」


「な〜に言っでんの!もうガッツリ掴んでるよね〜?」


「ど…どうなんでしょう…」


白地に青い蝶々が描かれた

涼しげな浴衣に赤い帯が映えた。


髪飾りまで挿していただき

まるで別人になった気分で

自然と背筋が伸びる。


風子さんと典子さんも浴衣を着て

大人の色気が更に増した。


それに比べると私は

やっぱりどう見ても子供っぽい。


中高生向けだという浴衣を着ても

何の違和感もない。


先生の前に押し出されたけれど、

どうしても顔を上げる事ができなかった。


「おぉ!見違えるなぁ!」


「あれまぁ、めごぇ(可愛い)ごと!」


「菜穂子ちゃん、もっど自信もっで?」


「ほら見てみなよ大樹の顔!見惚みとれちゃってさ〜」


「誰も見惚れてない!」


「わかってますよぉ!」


ようやく顔を上げると

先生はすぐに視線を逸らした。


やっぱり、私には興味ないもんね…


混む前に会場へ行こうと

まだ明るい時間から出発した。


ここ数年は体調がおぼしくないというさちさんも、

「冥土の土産に」なんてご冗談を言いながら

ついて来てくださった。


「こいが最後だ…」


さちさんがそう呟いた。

その声はたぶん、

隣に座った私にしか届いていない。


「どうかされましたか?」


小声でそう聞いてみるも

さちさんはとても穏やかな表情で

「なんもなんも(なんでもないよ)」と言った。


そして君子さんと賢也さんが

いないことに気づいた。


「あれ?君子さんと賢也さんは…?」


「先に行っだの。あの2人、あぁ見えで実行委員だがんね」


「んだ!役員特権で、会場の近ぐに車さ停めれんだ。観覧席も取っであっがんね〜」


「すご〜い」


「さぁ!気合い入れてこ!」


「おっ!風子、気合い入っでんねぇ。久しぶりにハネる?」


「ハネるハネる!典子姉ちゃん、今夜は飲まない?」


「いね〜!今夜はどごどん飲むべ!」


「ほどほどにしろよ?特に姉貴」


「はぁ!?祭りの時くらいいいじゃん!」


「普段から飲んでんだろ!」


「ま〜だこの2人はぁ〜!!喧嘩やめれ!!」


「アハハハ!」


不思議だなぁ

お祭りの夜って

ワクワクしたりドキドキしたり


とにかく何もかもが楽しくて

日常とは違う

祭り特有の高揚感で胸がいっぱいになる。


会場である青森駅前に着くと

すでに大勢の観客で賑わい、

大通りにはずらりと出店でみせが並んでいる。


綿あめ、カキ氷、たこ焼きや大判焼き。

帆立の網焼きやイカ焼きなども並んでいる。


リンゴの産地だけあり、

リンゴジュースやリンゴパイなども見かけた。


完全に祭りの空気に飲み込まれ、

キョロキョロしていたが、

皆さんの後ろを

さちさんと一緒に歩いた。


さちさんの歩くペースが

徐々に落ちていく事に気がついた。


「さちさん、少し休みましょう?」


「大丈夫。どっでごどねぇ」


「でも……」


すると先生が振り返ってきて

さちさんの腕を取り脈をた。そして


「婆ちゃん、ちょっと休もう」


「かまうごとね。行ぐべ!」


「婆ちゃん。無理はしないほうがいい」


先生が語気を強めてそう言うと

さちさんは顔を顰めて首を横に振った。


「さちさん、先生の言う通りにしましょ?」


「大したごどね。おめだち先行げ!(あんた達は先に行きなさい)」

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