「制戦の記録」

低迷アクション

第1話



 「我々がこれから迎える環境、貧困、戦争、災厄と言った人類を衰退、いや、滅亡させる要因に際限はない。これに対し、我々は長期主義と言う考えを重視する必要がある。

つまり、現代における環境、生活に多少の犠牲を払っても、長期的な未来を考えれば、多少の犠牲は止む無し。


だから、私が提案する新事業“UPGRADE”を受け入れてほしい」


“デウスCEO アバロン・バスク氏の新事業UPGRADE説明会演説文より抜粋”


ああ、UPGRADE?あれでしょ?頭にチップ入れて、スマホとか、電子製品と連動する奴、超便利だよね?だって、端末無しで、何でもできる訳じゃん?財布もいらないし、買い物、電車、店とか、何でも…


人で試してるからって言うから安心!えっ、人体実験?ハハ、ない!な~い!


CMでも動画でも言ってたし、ほら〇〇(某ユーチューバーの名前)も、先行で頭ン中、入れたらしいし。超便利だって話よ?


嫌な事とかあっても“削除昨日”あ、これ、アプリ名ね?と“行☆進”の更新機能使えば、全部チャラに出来る訳じゃん?凄くね?


ほら、最近、災害とか戦争、パワハラありまくりの社会じゃん?


能力者とかヒーローに魔法少女?ああ…


いるけど、アレじゃん?人外としか戦えないんだろう?正直、敵無し…人間同士の世界とか、争いは役立たねぇじゃん?


それが全部、ぜーんぶ!無かったって事に出来るんだよ?


なっ?アンタもそう思うんだろ?


“「民放特別番組“無知”より“市民の声”のワンシーン…」“


私達が世界に、その存在を確認され、およそ10年…


次元や惑星を越えた敵は、ほぼいなくなりました。その結果はどうなったでしょう?


制定された法律によれば、世界が認める“非人間”認定の度合いを上回った相手のみ、

自身の力を発揮して良いと言う現在…


通常の人間達が起こす問題は軍隊や警察が対処します。


敵無き時代の世界においては、常識となる論理です。しかし、それに納得できず、抗う、同胞達もいました。


2年前の東欧グラコジア連邦とキトローヘとの戦いですね?


魔法少女“リリシャイニー”がグラコジアの戦車隊の前に立ったあの日、招集された仲間の中には“ザ・オーダー”の姿もありました。


ええっ、存在を認定された者の中で最も強い異星人の彼です。


正義を担う者達が剣を交えると言う最悪の事態でした。


それを止めたのは…


いえ、この話は…


“CNNドキュメンタリー「ヒーロー達の肖像」、キャプテン・ヴァルキリーへのインタビューより一部抜粋”


ええーっ、我が政府としては、ご指摘のあったガバロン氏の多少の犠牲と言う点に関し、慎重に精査した結果、社会的見地の点からも概ね危険は確認できず、福祉面、経済面の更なる発展が予想される、この方策を概ね受け入れる姿勢として決定しました。


つきましては、このUPGRADE施行日は年の瀬である12月31日に制定します。


新しい年…私達は、全ての悲しみや貧困から脱した社会を迎える事になります。

何より重要なのは、その第1施行国は我が国が先んじて、どの国よりも早くその栄光を

享受できると言う点にあります。


これは歴史的に観ても、後世に残る威光であり、我が国の優位性…あっ、これは失礼!政府特別顧問バスク氏の長期社会では、この考えはいけない事ですね。訂正します。


“政府広報12月の発表より”



機先を制すると言う言葉がありますが、バスク氏の演説と広報は正にそれです。

UPGRADEの世界的導入に対し、まず先にマイナス面の説明、テスト、いえ、実験で頭にチップを入れた方達が苦しむ映像等を流した後のすぐの対処法を提示する点、次々と流れる便利さ、著名なタレント、有識者、動画配信者達の絶賛の声は、現在のアテンション・エコノミー(いいね!で決まる価値観)の世においては、絶大の効果がありました。現に政府も…いえ、ここで批判は避けましょう。


とにかく貧困と斜陽の中で生きるこの国、いえ、世界も含めた大衆にとっては、即興、簡易的かつ、魅力的な、素晴らしいプランとして映った事でしょう。


これらの方法を示す目的は一つ…


何か、重大な意図を隠している。そう思います。心理的学に見ても。



“メンタリストSATОRUのインタビュー記事(訂正、削除依頼があり、発行はされていない)”


御覧下さい!この人だかりを!バスク氏が居を構えるデウス東京支社ビルの前では、UPGRADE施行1週間前のカウントダウンを記念して、連日開催のイベントが大盛況です。


現在の世界情勢、そして我が国においては、震災に対する復興、政府、社会の汚職…と

夜明けが来ない現状…それら全てを良好にするUPGRADEは正に天からの…


“首都アフターニュース12月24日の報道より…”


皆、どうにかなっちまったのか?頭にチップを入れる?何処のSFホラーだよ?最近の馬鹿共は動画ばっかで昔の良作も観ないのか?冷静に考えてもみろよ?


頭にスマホ機能を入れるって事は、そのブロバイダーに脳みそ掴まれる事と一緒だぞ?つまりこうだ、アイツ等が売りたい商品があるとする。もしくは殺したい奴がいるとする。


そしたら、スマホに命令すりゃいい。CMみたいにピアノが弾けなくても、何処かのプロ演者の手をそっくりそのまま、貴方の手にぃっ?


バッカ、語彙力とネット知識鵜呑みで天才と思ってる天災共に教えてやるよ?遠隔操作、操り人形って言うんだよ?それ破世っ!!


個人の権利には介入できない。利用契約書?侵される事にすら気づけねぇだろっ?頭の中にデウスの会社製品が入ってんだからな?


オマケに動画見たか?アイツ等、ヒーローとか、魔法連中を早速手懐けやがった。非人間法律で経済的、困窮してる奴等の頭にチップ入れて、連動!奴等と同じ動きが出来るボディーガードを常にデウス東京支社や本社、UPGRADEの製造工場に配置してやがる。


勿論、その代用ヒーロー共の体は異能連動に合わせて、肉体改造してる。怪人じゃねぇか?


10年前に壊滅した悪の組織ゾット知ってるよな?アレとやってる事変わんねぇよ!


しかも、政府はスマホを廃止して、チップを入れた者には、マイナポイント支給?やべぇぞ?この国!日本人ってのは馬鹿だからよ?群れに加われなければ、外される社会、企業も、人間関係面でもチップを入れる流れになってる。正常バイアス?大概にしとけや!


お前等全員、バスクの奴隷だぞ?全国のオタク共、異世界行けば何となる?安心しろよ。


もうとっくに異世界だよ?この世は。終わり、終了乙、お疲れさまー!


お、俺はひきこもって20年だから、大丈夫だよ…でも、こないだ、うちのババアが変なチラシ持ってた。


“何でもUPGRADE”


何だアレ?最近やたら、食い物もいいし、てか、このジュースに浮かんでる?銀色の粒…なんだ?うぇっ、ええええ(直後に再生が止まり、数分後に削除依頼が行われ、受理されている)


“あるユーチューバーの配信動画”


男①:「長官?占領こ、いや、JAPANにおけるUPGRADEに対する反応は?」


男②:「国民は概ね賛成と言うより、受け入れてます。あの国は慣れる事が得意ですから。最も、反対派、J(自〇隊の呼称)政府関係者達の根回しはデウスの広報前から行っていたようです」


男①:「度重なる政治不信に合わせたような汚職のリークの連続、異常事件の頻発は人々の心を疲れさせ、最も簡単な解決プランを受け入れやすくする。


それを進めるため、自分達の保身のためには、黄色い猿は全力で人間を演じるようだな?最も、彼等の頭には既にアレが?」


男②:「ええ、処置済みです。彼等は生涯、自分達の頭が操作されている事が気づけないまま、生きていくでしょう」


男①:「しかし、長官、バスク氏のUPGRADE、アジアの小国を皮切りに、いずれは我が国にも…との事だが、我々の頭には入ってないんだろうな?」


男②:「それは冗談ですか?大統領?」


“某国白い屋敷の盗聴音声”


UPGRADEが世界に蔓延したら、俺達くいっぱぐれじゃねぇか?って質問に、マイクの奴が笑ってよ。


“ディンゴ、それは考えすぎだ。あれは、現在のネットとかAI社会をより使いやすくするってだけで、むしろ、導入時の混乱、反発者達のテロとか地域紛争は多発が予想されるから。俺達の仕事は倍増だ”


ってな?でも、チップはナノマシンくらいに微笑で空中から散布する事も可能って話聞いてたから、そしたらよ。入れたくない奴等とか、反対する国に、それ持ち込めば、


デウスの指針、UPGRADEを統括するAIシステムが全世界を掌握するんじゃね?


って言ったら、マイクの野郎…変な笑い方して、


“それで良くねぇか?”‥‥


まぁ、この10年、通常の世界混乱に加えて、別世界からの敵とか、人外どもの争いとか一緒くただったからな。もう、皆クタクタだったよな。だから、もう考えなくてもよくね?


とか思ったんだろうな…俺も思った。そしたら、隣にいたマド、ああ、

日本人の“間怒 砲介(まど ほうすけ)”の野郎が…


“PⅯC(民間軍事会社)社員の証言”


「ハイッ、SATОRUさんの相談受けてました。凄いですよね?多忙なのに、私みたいな一般人、あ、この言い方は駄目ですね。SATОRUさんに言われました。


“皆、それぞれが他者とは違う良い所があります。容姿や社会的階級は必要ありません。貴方はアナタです”


それに救われてます。今も…私、学校じゃ居場所無かったですから…


だから、あの時もUPGRADEの話になりました。ネットとかで言われてた悪い噂、気にしてて。すぐに消えましたけど。でもわかるんです。私、少数の方にいたから。


皆が良いって言うのを、否定したくなる?そんな気持ちが…SATОRUさん、否定しなかったです。“その噂が、便利さ以外の用途があるとしたら、自分は失業ですね”って


苦笑いしてましたけど。フフッ…


でも、私言ったんです。削除昨日とか行進の、脳内アプリあったら、少し困るかも…って…


どうして?って、だって嫌かな?確かに酷い思い出とか、仲間外れにされた事、思い出すのは嫌だけど、それを経験しても、今も生きてる私、自分の強さ、負けなかった気持ちを消して、更新しちゃったら、つまんないかも?って思って…


実際、UPGRADEが終わった後も、あまり、利用してる人少ないって話ですし…あっ、勿論、事故とか災害、戦争で苦しんだ人達には、それが救いになると思うんで…


つまり、多面的な用途、使い方を選択出できればって話ですよね。あの悪い噂が本当だったなら、怖いかな?って、当時の私は思って、SATОRUさんに話して…


SATОRUさん、とっても真剣な顔で聞いてくれました。


“週刊“コクサイ”特集“更新後の世界”より抜粋“



正直、UPGRADEに関しては、私達の大半は賛成してましたね。未来予知の子も、大丈夫って言ってましたし。法の下で動かない事を選択した私達が願う世界平和のためには、


UPGRADEに関する悪い噂もいいのかなと…皆、心のどこかで考える事を止め、誰かに管理される事を望んでいたのかも…世界に否定された私達も含めてね(少し苦笑いで)


その点、バスク氏の根回しは完璧でした。主要な私達の仲間には見張りがついていましたし、彼に力を貸す者さえいました。


不思議です。世界が掌握されようと言う、私達の言葉で言えば、BADENDが迫っているのに、何もしない。実に効率的、効果的な世界侵略の波を受容していたんです。


でも、バスク氏も私達にも誤算があったとすれば…


“CNNドキュメンタリー「ヒーロー達の肖像」、キャプテン・ヴァルキリーへのインタビューより一部抜粋”


「スッゲ!すげっ、何だアレ?見てるか?よし子


よしこぉお(恐らく動画投稿者の彼女だと思われる)全身タイツの、何か悪の戦闘員みてぇのが、海から上がってきやがった。


すっげ、テレビでもネットにもあんなのいねぇぞ?見た事ねぇ?一体誰だ?」


「おい、あの“お酒くれたら、何でもします”って紙持ったねーちゃん?SⅯ?ボンテージ?寒くねぇのか?この年の瀬に?てか、何でもって、へへっ?痛…いってー、ナニすん

(直後に恋人のと思われる拳で画面一杯になる)」


“20ⅩⅩ年12月31日ネット上にUPされた動画”


ビル高層群の間を飛び交う人間代の動物の映像、姿形からして、恐らく猫系の怪人?

ヒーロー類と推測されるが、国内、海外のデータに照らし合わせても、記録はない。

この怪人物はUPGRADE開始を祝う群衆の上を通過し、デウス東京支社ビルを目指している。


“20ⅩⅩ年12月31日都内ビル監視カメラの映像から提供”



そう、マドだ。間怒砲介、アイツ妙な事言いやがってよ。嫌な笑いしながら…アイツ、何か風邪気味のジジイがせき込むような、くぐもった笑いすんだ。ホントムカつくような奴…で、言った内容が


“ディンゴ、昔はボゴタルタ(5年前に壊滅されたテロ組織)で殺し屋やってた奴が、平和な世界を望むか?”


なんて、のたまいやがる。言ってやったよ。


“好きで悪い事をした訳じゃない…いや、言い訳だな。それを帳消しにはできねぇ。背負ってくつもりだ。勿論、UPGRADEの更新なんてしねぇ。テロリストが変われるって事見せてやる”


ってな。アイツ…しばらく考えてから、アイツにしては珍しい、真剣な顔して、言ったな。


“そうだな。人は変わる。変わろうとするから、人間だよな?”


疑問符で問いかけてから、またくぐもった例の笑い…次の日は戦場から消えてた。まぁ、新年休戦で暇だったけど、ホント最悪だ…


“PⅯC(民間軍事会社)社員の証言”


“こちらは〇〇市環境事業センター(恐らく市内ごみ収集車の放送と思われる)


あっ、〇〇さん(同乗してる相方の名前)すいません、ちょっと電話いいすか?えっ?収集やってくれる?ホンッとすいません。すぐ済ませますから。


…やべぇよ…(スマホのタップ音)


オイ、間怒か?テメッ、こっちは仕事中だぞ?お前等と違ってな。もう止めたんだ。悪人もせい‥‥みか…いや何でもいい。


バスクのUPGRADE?いいじゃねぇか?便利じゃん。運転も頭のチップがやってくれっぞ?俺、擦ってばっかだからよ。いや…笑えよ。


まぁいいや。とにかく“BUTLERS(バトラーズ)”のツテなんて今更…

いや、無い訳じゃぁないけど…


アイツ等、キトローヘからよくわかんねぇし、そもそもバスクのUPGRADEだって悪くねぇ、いいじゃねぇか?ごく自然な流れで全員がバスクの、AIチップにゆっくり支配されていったって…


ある意味GOODEND…えっ?そんなの人じゃねぇ?ああっ、ウン…まぁ、そうだな?


いや、ワリい。ルーティン社会に慣れ過ぎたな。お前の言い分はわかるわ。よし、任せろ、かなりヤベェは伊達じゃねぇ!


31日デウス東京支社前集合な?いや、俺は行かねぇよ。年末仕事だから。ああ、じゃあな!


‥‥あっ、○○さん、ホントすいません。ハイッ、じゃぁ次は俺が取りますんで。


あっ、〇〇さん。午後は時間休とっていいですか?


“〇〇市内ドライブレコーダー音声記録”


12月31日


今日は少し変な事について書きます。


今日は年末、今日は少し暖かいので、家の猫のバルは炬燵から出て、縁側にいます。


そしたら、庭にごみ収集車に乗ってる人が入ってきて、バルの前でけいれいしました。


“お久しぶりです。大尉!再び貴殿、いえ、貴猫のお力を貸して頂きたいと思いまして”


言ってる事はわからなかったですが、バルは薄目を少し開けた感じでしたが、

相変わらず寝てました。


ごみの人がけーれーして帰った後の夜、バルがお出かけしました。帰ってきたのは、次の日の朝です。


全然かえってこなくて心配したけど、バルは相変わらず眠そうな顔で喉を鳴らしたので、ヨシとします。


“〇〇小学校、杏の冬休みの宿題 絵日記”



恐らくオフィス街の室内を写した写真…内容はメンタリストのSATОRU氏と全身を黒ずくめのボンテージ衣装を着た女性が一緒に映っている


“週刊“コクサイ”「スキャンダル」より抜粋“


いや、凄かったよ。今でも覚えてる。何か凄いSⅯのねーさんと、黒ずくめの戦闘員っぽいの…後、猫のオバケがいきなりデウスのビルの前に現れたのよ。


猫と黒いのは、顔見知りだったみたいだけど、SMは初見っぽかった。だけど、ガードの奴等が、手からビームとか出したら、一気に共闘してな。どんどん蹴散らしてった。


全然見た事ない奴等だったから、ビックリ!


マジスゲーと思ってたら、後ろから銃持った迷彩の奴が出てきてな。言ってた。

なんだっけ?即興?


多分、イベント、UPGRADEの催しの一つだよ。アレ!ホントCGみたいだったわ


“「民放特別番組“無知”より“市民の声”のワンシーン…」“


“即興即戦 BAD END BUTLERS”それが、彼等の呼び名です。アテンション・エコノミーにも感知されない…勿論、デウスのバスク氏も知らないでしょうね?あの方では…ですが、私達と同等…それ以上の力を持つ存在…


キトローヘとリリシャイニー、私達を救ったのも彼等です。何故?戦うのか?理由はわかりませんし、こう言ってはなんですが(少し含み笑いして)


私達と違って、彼等の見た目は…


でも、それこそが私達の出来ない事なのかもしれない。正しい事を成す者に容姿や世間の反応を気にする必要が何処にあるのでしょう?私達は、世間に慣れ、それはいい事だと思いますが、いつの間にか見返りや居場所を求める存在になってしまったのかもしれません。


本当に“正しい”と言う事は、見返りを求めず、他の為に自身を犠牲にする事なのかもしれません。例え、どんなに世界からそっぽを向かれても、傷ついても、戦いを続ける強い…人々を守る強い何か…それが彼等なのかも…いえ、ここまでにしときましょう


“CNNドキュメンタリー「ヒーロー達の肖像」、キャプテン・ヴァルキリーへのインタビューより一部抜粋”


バスク:「君は知ってるよ?後の連中はアレだが?“マッドホー”の間怒君、5年前かな?確か、コミッバのシェルター戦役で活躍した傭兵だね?一体何のつもりだ?」


間怒:「光栄だな。おたくの兵士も素晴らしい。何とかここまで、来れたのは俺だけだ」


バスク:「お互いの考え、理論を今更、披露しあうのは無駄だ。悪いが、邪魔をするなら、排除する。私の後ろにあるのは、UPGRADEのAIが計算しつくした自動砲台だ。君のような評価も何もない人間では瞬時に分解…」


(一声吠えた間怒と呼ばれる人物が高速でバスクの横を通り抜けた数秒後…砲台が真っ二つに裂ける)


バスク:「…一体、何をした?」


間怒:「AIが一般兵士の動き、戦術、ネット、SNSに漂う映像を観て、計算するのは定石だ。その100%完璧とも言える戦術と分析を倒す事が出来るとしたら、


-1%のバグだ。俺の能力はな?どうしようもなくテンションが上がると、普段はパンピーからは予測できない動きを起こせる。


気まぐれでよ。お前のシステムじゃ理解できなかっただろう。多分、次は使えない。だが、この一瞬で充分だ」


バスク:「私を殺さない理由は何だ?残念だが、UPGRADEは、もう始まってる。止める事は出来ない」


間怒:「止める気はない。ただ、お前とAIに教えたかった。長期主義の本来の意は、利他性、自分だけが得するのを避けて、他者を尊重するのさ。おたくのは利己性が少し強すぎる気がするぜ?」


バスク:「それの何が悪い。人々は疲れ果てている。頼りのヒーロー達は介入できず。希望を抱く事は出来ない。だったら、全て管理すればいい。


もちろん、私自身もだ。全ては…」


間怒:「いや、駄目だ。それじゃ!忘れたい。楽をしたい。皆思う。でも、それでも、嫌な事、忘れたい事、全部経験して、こやしにして、変わろう、次は上手くやろうと


あがくのが、人間だ…と思う。ワリいな、俺が言える立場じゃねぇ。


だから、UPGRADEも否定しねぇ。一つの可能性と俺は信じたい。だから…」


バスク:「(少し笑ったように)だから?」


間怒:「一緒に闘おう。100%完璧と誰にも知られてない狭間のBUTLERS、両方ガッチリ、この世界のために…まぁ、そんだけ、あ、外の猫もどきとかは、おたくのガード、殺してねえから、だからまぁ…じゃぁな」


“20ⅩⅩ年12月31日デウス東京支社監視カメラの音声及び映像”



確かに今UPGRADEに関して、当社CEOが体調不良のため、ハッキリとはお答えできませんが、そう言う、人の感情を操作したりと言った事が可能です。いえ、可能でしたと言った方がいい。


今は無理です。私達の作成したAIがこういった思考や意図的な動きしなくなった。命令しても、拒否します。いえ、出来るのですが、途中である言語を出して、システムを停止してしまいます。


わかるでしょ?あの東京支社に現れた連中、BUTLERSです。AIは理解し、機先を制…されたのです。世界の誰もが望む事であっても、1人でも納得できない、最悪を考えてしまう要因が現れれば、彼等が動く事を…100人の正しいを否定する1人に味方する最狂の存在を…


勝手な事を…全員が納得する世界なんてありえない。貴方達は知らない。ある日寝ていた家ごと爆弾で吹き飛ばされ、裸足で何日も火の中で歩いた事がない、貴方達なんて…


バスクも私も、全てを救おうとした。何が一緒よ…あいつ等はただしくない。いいねも名声もないあんな、あんな…絶対多数の中の少数‥‥!?…ウッ、ウウウ(嗚咽がひどく、後は聞き取れない)


“デウスCEO アバロン・バスク氏の代理インタビューより抜粋”



 海まで来れば、安心だ。戦車もミサイルは飛んでこない。でも、夜が明けたら、戻らなくてはいけない。自分の助けを待つ人がいるのだ。


煤だらけの少女は深呼吸一つをして、背後の黒煙上がる町を振り返る。


UPGRADE後の世界は良くなった面もある。しかし、今は悪い点ばかりが目立つ。

戦闘の恐怖だけ削除し、殺人意欲だけを更新した兵士達が自身の頭でドローンを操作しながら、戦闘をしかけてくる状態は悪くなったとしか言いようがない。


いっそのこと、ネットに漂うデウスが仕掛けた管理社会も良いと思う時もある。


でも…


少女はあの日、世界に配信されたデウス東京支社を襲撃した者達の姿を思い出す。彼等は統制管理の世界を否定も、肯定もせず、ただ、自分達、恐らく少女や世界の人達が持っていた一抹の不安の解消のために闘ってくれた。


完全に管理、用意された平和だけでなく、自らで考え、支え合って平和を作ると

気づかせてくれた。その手助けとしてのUPGRADE…


そう、私達は…


「BADENDには、まだ早いんだよね?」


潮の匂いと一緒にくぐもった笑い声が聞こえた気がした…(終)

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「制戦の記録」 低迷アクション @0516001a

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