悪食聖女と暁の魔法使い

「これも食べられるの?」



 むちむちの指で摘んだ虫を見つめ、ベルが問う。



「甘辛く煮詰めると極上だぞ。栄養価も高い」



 今回受けた依頼は、害虫駆除。仕事は大変だが、賃金だけでなくこうして食材まで得られる美味しい案件だ。


 あれから私はアルカには戻らず、ベルと二人で世界を巡る旅に出た。あの三人がどうなったかは知らない。我々が小洞窟を出る時には、揃って茫然自失となっていた。懲りて心を入れ替えてくれたら良いのだが。


 私には一つ、夢ができた。それはベルに、魔物以上の好物を見付けること。そのために世界の各地を点々とし、様々な食材や調理法を発掘している。


 今日もモリモリ食べるベルを眺めながら、私は尋ねてみた。



「気になったのだが……食べるのは口からだよな? 掌から吸い込んだり、剣が粉になったりしたのはどういう原理なんだ?」


「言い忘れていたけれど、あたくし触覚を味覚に変換できるの。簡単に言うと、全身が舌と歯みたいなものなのよ。弱い個体は軽く舐める程度でも消化液で溶けちゃうみたい」


「そうか、気持ち悪い体質だな」


「あなたの正直すぎるところ、長所であり短所よね」


「お前、私に触れている時に味見なんかしてないよな?」


「ふふ、そんなことしないわよ。今はまだ、ね」



 五杯目のおかわりでやっとカトラリーを置くと、ベルはこの頃さらに容積を増した頬肉をもっちり釣り上げた。



「大丈夫、しばらく人間は食べないわ。あなたと出会ってから、あなたが死ぬまでは人間を存続させてやろうと思ったから」



 片付けの手を止め、ベルを見つめる。



「食べる人間の第一号は、あなたにするわ。あなたが死んだら、あたくしが食べる。だからあなたも、あたくしが先に死んだら美味しく調理して食べ尽くしてね。暁の魔法使いさん」



 そう言って、ベルは無邪気に笑った。


 恐ろしいことを言われているはずなのに、何故か悪い気はしなかった。この巨体を調理するのは骨が折れるだろうな、と考えつつ、私も笑顔でベルに頷き返した。

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悪食聖女と暁の魔法使い 節トキ @10ki-33o

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