03曲目 ぬりえのダンス
第8話 ぬりえのダンス
雪も殆ど溶けてなくなり、残っている雪は日陰に残っている根暗みたいなカスみたいなやつだけとなった四月上旬。気温も上がってきてはいるものの、しかしどこか吹く風が冷たくてまだまだ寒さが残っている気がするこの頃。ロスガは今日も変わらず練習であった。
「よし、全員集まったな。じゃあ、さっそくだけど、新曲を作ってきた。聞いてくれ」
「おぉ〜」と、それとなく歓声が上がったような、あがらなかったような。はいはい、今度はなんですか、と言わんばかりのような。そうではないような。
「まあ、とりあえずギターだけで演奏するから聞いてくれよ」
俺はギターのボリュームをゼロから上げ始めて五で止めた。ジャーンと一つFコードを鳴らして、音を確かめる。チューニングはバッチシだ。
レギュラーチューニング、カポ無し。バレーコード、Fコードからオープンコードへ。
バツはカッティングの意味。その前のコードを続けてカッティングする。
F××GAm××G/F××GE××G
F××GAm××G/F××GF#m××G
最初の一音をカッティング、次の音はエイトビートストローク。矢印でストロークを示すと↓×↓×↓↑↓↑↓↓↑、とこのようになる。歌はラララと歌詞のない歌から始まる。
ラ、ラ
ランララルーララ
ラ、ラ
ランララルーララ
ラ、ラ
ランララルーララ
ラ、ラ
ランラルーララ
一通り歌うと、一番の歌詞が始まる。一番Aメロディ。
F××GAm××Em/F××GC
言葉にできなかった思いを、言葉にして
未だ残るあの影法師、幻の龍に見て
過ぎ去った警告後ろに、この雨上がりに
夢見てたあの人にまた、失望してしまって
Am(↓ジャン、↓ジャン、↓↑↓↑ジャカジャカ)
以下一番のサビ。
F××GAm××G/F××GE××G
F××GAm××G/F××GF#m××G/FGAmC
刻まれていくこの今歌は
死ぬまで続くメロディライン
まだ諦める手前じゃない
ぎりぎりのぬりえしながら
両手でこぼさぬようにこの心
間奏
F××GAm××G/F××GE××G
F××GAm××G/F××GF#m××G
二番Aメロディ。Bメロディはない。
F××GAm××Em/F××GC
世界の果てまで自転車、漕いでいこう
駅前のコンビニでスイーツを、買っていこう
ここらでひとつ踊れ、ぬりえのダンス
ここにギターソロが入る。ハイフレットでメロディアスにメロディ奏でるようにメインコード進行を奏でる。
以下Cメロディ。落ちサビに近い。落ちサビとは、ベースやドラムの音が消えて殆どボーカルのみのサビのことである。バッキングストロークのギターが入ることもある。今回はギターあり。
FGAmG/FGAmC
星々の果てまで届いて
すべての祈りと願い
決めろココでベストダンス
最高にイケてるぬりえのダンス
ラストサビで締め。
F××GAm××G/F××GE××G
F××GAm××G/F××GF#m××G/FGAmC×2
刻まれていくこの今歌は
死ぬまで続くメロディライン
まだ諦める手前じゃない
ぎりぎりのぬりえしながら
両手でこぼさぬようにこの心
最高にイケてるぬりえのダンス
最後に一つ、ジャカジャカジャーンと、Cコードで終わり。
俺はこのときが一番好きで、このときほど一番緊張する時はない。新曲をあれこれ悩んで作ってこれでいいかな、もう少しかな、とりあえず形にするだけでも、でもなんかな、ええい、なんとかなれ、と作ってきた曲をいの一番にメンバーに見せる、披露する。それがどんなにプレッシャーで、緊張することか。気の知れた仲間であるからこそとてもその反応は気になるものだし、そして創作というそのものが恥ずかしいというのが拭いきれない自分の根底にあるというのが何よりも恥ずかしいと思う。
音がひとしきり鳴ったあとの静寂。
拍手。
それは一番素直に嬉しく思う反応であり、最高の褒め言葉であった。俺は嬉しい。いつもいつも彼女たちはそうやって俺の音楽と言葉を受け入れてくれる。しかし同時に、これは神様から受け取っただけの代物、才能によってできただけの偽物のような塊みたいなものかもしれないというのを、
「どうだった」
「ふーん。それで、それはなんのパクリ?」
俺はずっこけそうになった。愛にはそんなふうに聞こえたのか。悲しいよ。
「まあ、いいんじゃないの? それで、タイトルは?」
律がぶっきらぼうに言う。彼女に関心を持ってもらえるような曲になっただろうかと、ドキドキしながら問いに答える。
「三十二曲目、『ぬりえのダンス』。心は色んな感情で日々塗り重ねられている。それはギリギリまではみ出さないように、しっかりとな。だからぬりえのダンス。跳ねるようなカッティングと、リズムが特徴的なギターな一曲だ。ほら、心が踊る、なんて言葉もあるだろ。それに今年は辰年だからね、龍という言葉も入れてみた。どうかな」
「影法師、幻の龍……まあ、いいんじゃない。新曲も悪くない感じだと思うよ。ベースラインは………ざっとこんな感じかな。そうだな、ここからどう仕上げていくか次第じゃないか」
奏が腕組みからベースを持ち、そのままベースをざっと弾いてなんとなくのイメージを見せてくれる。
「ああ、そうだな。ありがとう、奏。また力を貸してくれ」
「キーボードはどうする? どこかでいれる?」
「ああ、そうだな。俺はいつものように入れていいと思うんだけど、それともワンポイントとかにするか……?」
「あまり電子音にしないほうがいいんじゃないか? ピアノっぽいと言うか、鍵盤に近い音のほうがあってる気がする」
奏が意見をいう。
「同感。今回の曲に限っていうならば、キーボードはあまり強く主張しすぎない方がきれいにまとまるかもしれない。神斗が言うように、ギターをメインの音にしてリズム隊が支え、ワンポイントでさり気なくキーボードの音を加えて厚みを作る」
愛が同感したその意見をいう。
「バスドラから入ったらどうだ? ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、って。エイトビートで合わせて」
「いいな、それ。頼めるか律」
「もちろん」
俺の曲はこうやってできていくのだった。メンバーに聞いてもらって、メンバーから意見をもらって、そうやって完成していく。希望のロストガールの曲は一人では出来ない。このメンバーで作り上げていって、俺の作った歌を昇華させていくことでしか完成しない。ああ、そうだ。俺の独りよがりの曲作りはとうの昔に終わっていたんだ。俺の一人ぼっちは終わっていて、今はこうして俺を理解してくれている人がいるのだ。歌を共にしてくれる人達がいるのだ。俺はこのことに最大限感謝すべきだし、そしてこの恩に報いなければいけない。大切にしていくべき大事な仲間で、縁のできた人間関係を大切にしていかなくちゃいけない。そのあたりまえのことを、当然のことを、しかし、忘れないで当たり前のように大切にしていくということを実行していくことこそが大切なんだと思う。
「ぬりえのダンスはこんどのライブで発表できたらいいかなと思ってる。急ピッチで仕上げていくことになるけど、よろしく頼むよ。さて、今度のライブだけど、コピー曲はこの曲をやろうと思うんだ」
俺はギターのリフの一節を弾いて見せる。全員があぁーと言う反応になる。解かり合えるこの瞬間。みんなが知っている曲をやるって、やっぱり楽しいよな。
「前にもやったことあるから、思い出す練習が必要になるとは思うけど、でもやったことあるから少しわかるんじゃないかな。ほら、なんとなく思い出せない?」
各々がバラバラと弾き始めて、やがて一つ、一つとメロディとベースが、ベースとリズムが、リズムとギターが合わさって、最後には全員で演奏して、しっかり合っていた。そして俺が歌を歌い始めるのだった。
本日のコピー曲:ELLEGARDEN「高架線」
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