神なんていない

@smiler

【短編】神なんていない



「神の存在を信じていた?」


そう聞かれて俺は少し考えてから答えた。


「そんなの当然いる筈がない。神は人々が生んだ妄想の産物だ。ひとは見えないものを見たがるのさ。そうして想像を膨らませる。」


「ひとは無意味な物事に疑問を持ち、何かしらの理由を見出そうとする。自分の存在意義やらを。けど、現実世界ってのはあまりにも無情で不条理だ。」


「そこで神という存在の確かめようのない絶対的正義を騙って、自分や他人を正当化させようとするのさ。」


「なるほどな。何で人間は自分に意味があるなんて思い上がっちまうんだろうな。本当は意味なんて無いのに。」


「そう、意味なんてある訳が無いんだ。この世にはひとに喰われるためだけに生まれてくる、人為選択が加わって生まれた家畜なんてものもいる。」


「それなのに、ひとにだけ意味があるなんて可怪しいだろう。そんなことを思うのは、ひとの世がよっぽど安全で平和なんだろう。」


「そうだな。生き物は"生きること'が普遍的では無いが、第一義的な本能として備わっている。それなのにおのが顛末に絶望し、自ら命を擲ち自殺をする人間はイレギュラーな生命だと言えるだろう。」

 

「まぁたしかに。そんなイレギュラーな生態だからこそ、我々は神という幻想を唱えるのかもしれない。」  


「じゃあ、やはりキミの考えは…」


「あぁ。神なんていない。今日まで俺はそう思って疑わなかった。あなたに出会うまでは。」


俺はそう神に告げた。


神は嗤った…


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