👋

松本貴由

手を振ってみよう

 あなたがひとりでいるとき

 なんとなく寂しい気持ちになるとき

 世界にひとりぼっちのような気がして

 無性に悲しく 虚しくなるとき


 そんなとき

 目の前の空間に手を振ってみる

 そこには誰もいないけれど

 誰かがいるようなつもりで振ってみる

 やあ でも ばいばい でも

 ひさしぶり でも またいつか でも

 なにもないところに手を振ってみる


 するとなんともふしぎなことに

 ひとりではないような気がしてきます

 あるはずのないなにかが

 あなたを勇気づけてくれる

 あなたはひとりじゃない

 わたしがぼくがここにいるよ

 あなたはいくらか安心する

 たとえそれがから元気だとしても

 ふしぎと勇気がわいてくる

 そんな気がする


 あなたはなんども手を振る

 あなたがひとりでいるときに

 なにもないところに向かって手を振る

 そこには必ずだれかがいて

 あなたを見つめ 手を振りかえすのです


 それは鼓舞でしょうか

 内なるあなたのエネルギーでしょうか

 そうだとしたらおめでたいこと

 そこにはなにも見えないので

 そこになにもないとお思いならば

 あなたはたいそうおめでたい


 あなたはひとりでいるのだが

 

 あなたはひとりでいると思って

 なにもないところに手を振っているのだが

 は手を振られたと思っている

 手を振られたら振りかえすでしょう

 また手を振られたらごあいさつをするでしょう

 やあ でも ようこそ でも

 また手を振られたら近寄るでしょう

 ひさしぶり でも まってたよ でも


 そうしていつか乗っ取るのです

 あなたという殻を乗っ取るのです

 あなたは乗っ取られるのです

 あなたが安心と思っているものに

 あなたが元気と思っているものに

 あなたが勇気と思っているものに


 あなたがひとりでいるときに

 見えないだれかに手を振ってはならない

 気づかぬうちに

 あなたはあなたを失う


 なにもないところに手を振るひとがいて

 あなたがそこにいたとしたら

 ただ 手を振りかえしてほしい

 ただ 手を振りかえしてほしい

 それだけで

 ひとはひとでいられるのです

 あなたがあなたでいられるのです


 ただ 手を振ってみるのです

 目の前のあなたに

 

 











  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

👋 松本貴由 @se_13

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ