矛盾

僕はもう一度あの時のことを思い出してみた。

Nの記事と比較してみると、殺人鬼のルールと矛盾点がいくつかあった。


まず一つ目は、被害者は全員女性である事。

これは僕が男だから殺されなかったと考えるのが自然だが、あの時僕は腹をナイフで刺されていて出血多量だった。

治療にあたった医者は、僕が生きている事が奇跡と言うほどだった。

この事から殺人鬼は僕に殺意があったのは間違いない。


二つ目、全ての遺体に華やかなドレスを身に纏わせ、化粧をし、ストックの花を持たせている事。

僕を殺しに来ているのは間違いない。

出血多量で倒れていたら遺体と判断されてもおかしくはないのだ。

ただ、完全に僕を殺害するなら僕の呼吸が止まるまで見届ける筈とも思う。

ここで殺人鬼が夕に何らか警察を呼ばれたかで動揺していたとも捉えて良いかもしれない。

それにルールを考えるならば僕も装飾を施されるはずだ。

それもなかった。


三つ目、今までの被害者は、暴行をされた跡が何箇所もあった事。

僕は刺された跡しかないのだ。

これも僕が男だから…?


ふと自分の両手を見てみる。

いつもの手だった。

僕は、殺人鬼を前にして抵抗してない…?

急に吐き気を催したが、なんとか近くのベンチに座り深呼吸をして自分を落ち着かせた。


そういえば、自分が襲われている間の記憶がない。

思い出そうとしても何かに邪魔をされているようで思い出せない。


僕は、目を瞑った。



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KoMumi @KoMumi

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