第5話 好きな人とキスをした
夜寝る前に、ベッドの上で今日の出来事を思い返していた。
私は間宮とキスをした。好きだった人とのキス。でも、彼には彼女がいる。映画がエンディングを迎える中で、私たちはキスをした。
あの後「ごめん。」と間宮に言われた。過去の間宮もどことなくそっけなかったが、謝罪の言葉はなかった。いつもなら、私を送るついでに家にも寄っていくのだが、間宮とは駅で別れた。それは過去と同じ。
ファーストキスがこんなにもせつなく、苦しいものだったとは。目標達成!と手放しで全く喜べない。それは、もちろん、私たちの関係は『友達』だからだ。
ただ、キスをしても、キスをしていなくても、私たちはこの日を境に、少しずつ離れていく。もしかしたら、過去の間宮、私が寝ているときにキスをしたのかな。その負い目があったのかな。
もんもんからの、悶絶へと変わる中で、どっと疲れが訪れて私は眠った。
起きると、24歳、1人暮らしの家のベッドの上だった。あの数カ月はまさかの夢? 本当に過去に戻った出来事だったの?
頬に涙がつたっている。私、泣いてたの?
起き上がってスマホを見ると、日付は1日しか経っていない。じゃ、この数カ月の出来事は単なる長く、リアルな夢だったってこと?
日曜日だった。仕事は今日は休みだ。私は目を覚ますためにシャワーを浴び、服を着替え、午後からピラティス教室があるため軽くメイクをする。メイクをする感覚、久しぶりなのに、現実世界は1晩しか進んでいない。
どうなっているの・・・。
思考を巡らせていると電話が鳴った。間宮からだった。
「どうしたの?」
「なんだよ、6年ぶりでその反応かよ。」
はははと間宮の懐かしい笑い声が電話から聞こえた。
「今日、ひま?」
「さきほどの間宮の言葉、そのまんま返す。」
間宮は関西で就職したという話は母から聞いていた。
「俺、今さ、原町橋っていうの? 橋を渡ったとこの公園にいるんだけど。」
「はあ?」
原町橋というのは、私が住んでいるマンションのすぐそばで、彼がいる公園はベランダから見える場所。電話を片手に、ベランダに出た。
「久しぶり。」
「嘘でしょ。」
「寒~い、部屋に入れて。」
ん~~~。変に身構えるのもおかしいのか。ここは断るべきなのか。もやもやする。結局、部屋に彼を通し、今、リビングで間宮とコーヒーを飲んでいる。
「覚えてくれていたんだ、俺の好み。」
砂糖とミルクたっぷりのコーヒーを飲みながら間宮が言う。
「俺さ、不思議な夢をみたんだよね。」
間宮の言葉に、え?と時が止まる。間宮も長い夢を見ていたの?
「もう、諦めることも、遠回りもしたくない。何より、自分に嘘をつきたくない。俺、ずっと雪乃が好きだった。結婚して。」
「・・・そこは、まず、付き合ってでは?」
なぜ、今日来ることにしたのか、過去の話しや、夢のなのか・・・などなど、あれこれ話しを間宮としなければならないが、それはまた別の機会に。
(END)
好きな人と1度もキスをしたことがない。だから過去からやり直します。 saku @nanashibook
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