第4話 最後のキスチャンス。

 3回しかないキスチャンスのうち、大切な1回を不発にしてしまったことに多いに反省した。ここで、目覚めないで~と願う。あと1回、頑張る。最後のチャンス。


 「雪乃~、明日出かけようぜ。」

 思わず、なんで?と聞き返しそうになり、言葉をいったん飲み込む。そだ、ホワイトデーのお返しにと、間宮に映画をおごってもらうんだった。実際、ホワイトデーは月曜日だけど、彼は少し早めの土曜日に私に声をかけたんだ。


 あーまずい、ここでの返事、「なんで?」で正解だった。

だいぶ、間をあけてしまったが、焦って元に修正する。


 「なんで?」

 「ヒマだから。遊んで。」

 「人を暇人だと思って。まぁ、いいよ。」

 過去を辿りつつ、正解の返答をする。間違った返事をして映画に行けなくなると困るからね。


 で、明日が最後のキスチャンス。

 ここを逃すと、互いに受験シーズンに突入し慌ただしくなり、少しずつ間宮と私の距離が離れていく。


 間宮も受験と部活動、彼女とのデートが忙しくなるためか、わが家へ来ることもほぼなくなる。朝の電車もなかなか会わなくなって、高3でクラスも別になって、学校では挨拶するくらいになってしまうんだよな。


 大学は、私は東方面、間宮は西方面と距離が離れてしまい、疎遠になる。

 失敗できない。せっかく(夢かもだけど)過去に戻れたのに、チャンスをものにできないのでは、意味がない。あーでもない、こーでもないとシミュレーションをしていたら、寝るのが明方になってしまった。

 

 間宮が家まで迎えにきた。ふたりで出かける。まずは軽くショッピング。間宮おすすめの、とんかつ定食。めちゃくちゃサクサク、肉はジューシーで、おいしいけれど、おなかがはちきれそう。


 で、今日のメーンイベント場所となる映画館へ。間宮は事前にチケットも用意してくれていた。「これ、バレンタインのお返しな」。チケットを受け取る。改めて、1高2でさらっと、こんな演出できる男って、すごい。やっぱり、間宮、好きだなぁ。いい男だなぁ。中身、24歳の私でも惚れる。


 カップルに人気のポップコーンと飲み物を買って、席へ。ああ、過去の自分、この"カップルに人気"っていうポップを見て、せつなくなっていたことを思い出す。本当の友人ならいいけど、友人のふりして映画を見るなんて。とんだ悪女だ。


 席は中央の端っこ。間宮は私を端のシートに誘導した。私は端の席が一番落ちつくんだよね。映画のCMが終わり、本編が始まった。


 すごく見たかった映画だ。楽しみにしていたパート3。間宮もそうだった。でもなぜか、間宮が寝落ちする。しかも! 私のほうに寄りかかって。さらに!間宮と私の間にある、ひじ掛けが上に跳ね上がっていて、ほぼゼロ距離に。


 姑息だが、寝ている間宮に、"ちゅっ"とする。

 卑怯な手段だが、ファーストキスは手に入る。

 ・・・本当に、卑怯だよね?

 ほんとにいいのか、これで。


 間宮が寝ている間に、私だけが好きな人とのファーストキスを達成したところで、そのキスに何の意味があるのだろう。間宮からは親友だの言われ、信頼されているのに。彼女がいることを知っていて、恋心を隠しながら"ちゅう"するなんて。それを裏切る行為ではないの?


 間宮の寝顔をまじまじと見つめた。まつ毛が長い。しばしばしてる。ほぼ手入れ入らずの眉の形も綺麗。かわいい、寝顔。ほんと、イケメンさん。唇も素敵な形なんだよね~。柔らかそう。ほんとに、ちょっと近づくだけで、キスできる距離。


 はぁー。裏切り者にはなりたくないな。あれこれどうしようか思案する。過去を辿るとチャンスらしいチャンスはなく、映画の後は解散になる。だからなんとか間宮を引き留めて、4回目のキスチャンスを自ら作ればいいのでは?


 そんなことを考えながら・・・いつやら私も軽く寝落ちする。そーいえば、明け方まで眠れなかったんだっけ。


 気配を感じる。目をつぶりながらもうっすら、一瞬だけ目を開けると、間宮が起きてる。私はといえば、間宮に寄りかかって寝落ちしている姿勢。逆になってる~。過去では、私も終盤で寝落ちしてしまい、ふたりで寝てしまったというオチだったはず。


 間宮が私の肩に手を置き、さらに私を間宮のほうに引き寄せた。なに、これ。こんなことなかった。なにこれ。次の瞬間、間宮が私にキスをした。驚いて、私はぱちっと目を開けた。間宮と目が合う。互いにガン見。


(うそ、これって、過去も間宮は寝ている私にキスしたってこと? それとも過去に戻ったから、新しいハプニングが追加された? どっち???)


 すでに過去に戻って3カ月を過ごしている私は、夢の中というよりも、過去に戻ったのだというテイでいる。


 じーっと私は見つめる。間宮もじぃーっと私を見る。

 そのまま、また2人は唇を重ねた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る