ホームランの力が強すぎる未来
竜田くれは
ホームランを打てば、勝ち。常識でしょ?
「ストライク!アウトォ!」
球審の
9回裏、最後の打者は見逃し三振に倒れた。
自分の応援している方が3だ。
だが、相手チームのファンは沸き、応援歌を合唱し始める。元々熱狂的なファンが多い球団だが、ホーム開催という事もあって、その盛り上がり様はオリンピックで優勝したかのようだ。ただのシーズン143分の1だが。選手達も満面の笑みを浮かべている。
対する此方のチームの選手、監督は直ぐにロッカールームに下がって行った。
ファンは冷めきった顔で足早にスタジアムから立ち去る。
これはつまり、相手が勝ったという事だ。
現代の野球のルールを知らない人はこう思うだろう。
「3点のチームが勝ちじゃないの?」
と。
重要な
この試合のある
これは、
現代の野球は獲得した点数ではなく、打った
得点などゲーム差同率の場合の順位に影響するくらいだ。
互いに本塁打が出なかった試合は引き分けとなる。
「何で得点を表示しておきながら、
と問われても、一ファンである私には分からない。
このバカげたルールに変わったのは10年前のことだ。
所謂フライボール革命によって多くの打者が打球角度を上げるようになり、パワーも増した。その結果、プロ野球全体で
12年前、日本のプロ野球で使われるボールが変わった。
止まらない超打高投低に一石を投じようとしたのだ。
プロ野球の公式球が変わった事例は遥か過去にもあったらしい。
その時はボールの会社が叩かれるくらい投高打低になってしまったらしく、たった2年でボールが変わったようだ。自分は生まれていないからインターネットで知った。
だが、投じたその一石は、巨大すぎた。
学校のプールに校舎をぶち込んだようなものだった。
始まったのは、超投高打低の時代。
ボールが、全く飛ばない。あれ程多かった
ボールが変わった翌年。
だが、本塁打数は伸びず、客足は遠のいたままだった。
その翌年、つまり10年前、ルールが変わった。
プロ野球を統括する組織が暴挙に出た。
得点ではなく
これはルールが根底から変わってしまう。
当然各球団、選手はボイコットし、各方面から批判された。
しかし、抵抗むなしく現行のルールに決定してしまった。
ボールを変えればよかったはずなのだが、頑なにボールに拘った理由は今でも謎である。他球技のスパイ説、某球界大物OBの意向説など野球ファンの間ではよく議論されている。
当然10年経った今でもこのルールに不満を持つ者はいるようで……
勝ったチームのヒーローインタビューが始まる。
ホームチームなので2人だ。
インタビューが始まる前、此方のファンの誰かが野次を飛ばした。
「点数ではこっちが勝ってるんだぞ!」
マイクを渡されたヒーローの一人、本塁打を放ったお調子者の選手が一言。
「ホームランを打てば、勝ち。常識でしょ?」
ホームランの力が強すぎる未来 竜田くれは @udyncy26
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます