クエスト:呪いの解呪

 シトロネラの家に御厄介になって約10日。


 私は三人の活動部屋で保護されている。毎日三人が集まっていることが多いこの部屋だが、今日はシトロしかいない。


 今日は彼等のお手伝いをすることになった。

 いろいろお世話になっているからね! 一肌脱いじゃいますよ!?


 私と彼はギルドから依頼された呪われた品々に黙々と『解析』と『解呪』の魔法をかけている。リンデンとユズもギルドにて同じ魔法をかけまくっている事でしょう……。



 事の始まりは、近隣のダンジョンから呪われた品々が大量に見つかった事だった……


『大量すぎて解呪するのが大変だから、クエストとして誰か手伝ってー!』


 と、ギルドが募集するも、あまりにも品数が多く、めんどくさいクエストなので誰も受注してくれない。

 ギルドの受付のお姉さんが困り果てていた時に現れたのが、我らがリーダーユズ。



 これをユズが独断で受注してきたらしく、昨日いきなりユズが呪いの品々を詰めた箱と共にこの部屋に現れた時は、さすがに騒ぎになった。


「いつもなんで大変な依頼受けちゃうのよーっ!!」


 と、リンデンがおいかりで大変だった。


 でも、怒られるユズはどこか嬉しそうだった。きっと怒るリンデンが可愛いとでも思っていたのだろう……。

 ユズ、このままだと彼女に本気で嫌われるぞ。気をつけろ。


 この活動部屋に持ち込まれた物は、シトロと私で担当!

 

 私は宝箱から半身を乗り出して、呪いの品々を摘んで持ち観察する。

 ぴゃー! 明らかに怪しすぎる仮面や小箱。そんな胡散臭そうな物のが沢山あるのだ。さすがの私も顔をしかめた。

 こんなのが沢山有るダンジョンって……怖すぎる……。


 部屋に運べない大きなものはギルドで保管されているので、ユズはぷりぷりと怒ったリンデンの機嫌を取りながら二人でギルドに向かった。そんな姿を見送ったのは午前中の事だ。


 二人とも仲良くやって居るかなぁ……不安だ。


 剣士であるシトロネラが魔法? って感じるだろうが、彼は優秀で中級クラスの魔法は簡単に使えてしまう。なので解析も解呪の魔法も使える器用な奴なのだ!

 かという私も100年生きた年の功で中級レベルの魔法も使えるし、ダンジョン内で解析と解呪の魔道書も読んだから使えるのだ!


 ふふふっ、そこそこお強いミミックですっ!


 ただ、独学が過ぎて魔法の癖が強いとは言われたけれど。……そんなに癖が強かったかな?


「じゃあ、僕が呪いの解析をして種類ごとに分けて行くから、ミュウは解呪をお願いできるかい?」

「了解! 任せてっ!!」


 私は彼が解析した品々をまとめて自身の中に入れて解呪する。これが癖が強いと言われる理由だ。シトロが「大丈夫? 呪われない?」と心配してくれるが、意外と大丈夫だ!


 私達この調子で午前中から黙々と呪いを解呪していく。シトロの解析も早いお陰でいいペースだ。もう半分終わっている! スバラシイ!!

 2人で昼食をとり、その後も私達は作業に戻る。少しずつ作業に慣れてきたのでシトロに話しかけてみた。


「シトロは何で冒険者になったの?」


 彼は驚いて手を止めたが、話しながら手を動かしていく。


「え? 急だね……強くなりたいからかな。僕は次男だから家の事は兄さんに任せっきりに成っちゃうけど……その分何かあったら兄さんや姉さんの力になりたいんだ。それに、英雄シトラスに憧れていたからね。今のギルドに入ったのもシトラスが創設者だからだよ。」


「へぇ~家族思いだね。シトロらしい! 英雄シトラスのどんなところが好きなの?」


「優しくて、強い所かな? 僕は英雄伝で語られた彼の話しか知らないけど……ギルドが無い時代は村にモンスターが押し寄せる事が多くてそのせいで村が消えてしまう事も多々有ったんだ。シトラスの出身地もそうだね。……だから、そんな悲劇を繰り返さないように地域の冒険者を束ねて害をもたらしかねないモンスターを手分けして予防討伐したり、非常時はギルドの皆で村や町をモンスターの襲撃から助けたりしていたんだ。」


「へぇ!! ギルド創設にそんな理由があったんだ。騎士団の手が届かないところをギルドがカバーしてる感じかぁ。」

「そうそう。だからギルドは身近な存在なんだ。」


 シトラス何で破門されちゃったんだろう? 創設者なのに……それに自分と同じ思いする人が少ない様にって作ったギルドなのに……?


「ミュウから見て僕はどうだい? シトラスに似てるかな?」


 急な彼からの質問に驚いてしまった。

 シトロとシトラスねェ……頭の中に真面目に口酸っぱく叱るシトロと、悪魔のように笑いながらモーニングスターを振り回すシトラスがよぎった。

 二人ともキャラがかけ離れているのよ……。


「シトロとシトラスは性格が真逆だけど二人とも優しいよ。二人とも初見の私を退治しなかったし!」


 私も冒険者から初見で攻撃されたことがある。その時は逃げたから事なきを得たけど。


「まぁ…、初めてミュウの姿を見たら戸惑うよね。人の言葉も話すし。裸だし。」

「その節はごめんよ。」


 まだ根に持ってらっしゃる。

 シトロと初めて会った日を思い出した。

 私だって! まさか人型だと思わなかったし!? でも、服が必須だとも知らずに一糸まとわぬ姿で自由に振る舞ってしまった……お目汚しを。


「うん、ミュウは人の世界に来たばかりだからね分からないことが多いのは仕方がないよ。僕にとっては大きな妹みたいなものだからね。」


 私は彼の言葉に耳を疑った。

 大きな……妹ですって?

 聞き間違いだろう。解呪しすぎて疲れたかな? 驚きの表情で彼を見つめて確認する。


「もう一人の……お姉ちゃんじゃなくて?」

「精神年齢は僕より下だろ? 年は上だけど」


 まぁ……推定100歳です。

 この私の精神年齢が、まだ二十歳になるかならないかの人間より低いだなんて。


「ほう! 良く言うじゃないか……青年。」

「姉さんとミュウどちらがお姉さんに見える?」


 ――――!!!

 ジト目の彼に鋭く問われて即答できなかった。じわりと冷や汗をたらし私は正直にゆっくりと答えた。


「……イリス……ねえさんです。」


 にぁぁぁぁ! くやじいぃ!!

 私、年下のイリスに精神年齢で負けた……

 でもシトロには負けたと思ってないからね!

 そんな私の様子を見て、シトロはさも「やっと、分かったか。」と言わんばかりの表情だった。


「はい、理解できてよろしい。ミュウは言葉を知っていても身の振る舞い方を知らないからそう見えるだけで、僕等の話も理解してくれるし諭せば正してくれるから助かるよ。もう少し慣れればミュウが他人にどう印象付けたいかは、自在に操れるようになると思うよ。」


「……そう言われるとシトロがお兄さんのように感じるよ。」

「まぁ、大人だからね。」


 ぐぬぬぬぬ……私はそんな大人なお兄さんにお願いしてみた。


「お兄ちゃん、お腹空いた。リンゴ食べたい。」

「その見た目で僕をお兄ちゃん呼びは無理あるよ。それにさっきお昼食べたでしょ? 食べ過ぎは体に毒だよ。」


 サラッと切られたのだが? その見た目で無理があるって!? ……このボディが悪いのか??


「もう!! ああ言えばこう言うぅ!! ……何でこの見た目なんだろう?もう少し若い見た目に成ればいいのに。」


 ……と思っても私の体は変化しない。ああ……ミミックの擬態も融通が利かないなぁ……。


 そう思いながら自身の体を触りながら嘆く。このヘンタイボディ……私の中身と釣り合わないとは……宝の持ち腐れじゃないか。

 それを見たシトロが驚き叫ぶ


「人前で胸を揉まないの! 淑女でれ!」

「あ……ごめん!」


「まったく……うっかりでそんな行動するんだから。トラブルに巻き込まれても知らないよ?」

「はい。気を付けます。」


 ドタドタドタと廊下を走る音が聞こえた。

 シトロ兄さんの眉がピクリと動く。怒られるぞ! 廊下を走ると!!


「うえぇーん!! ミュウ! シトロ!! ユズってば酷いんだよ!!!」

「リンデン、廊下は走らないで。どうしたの? ユズは?」


「私が一生懸命解呪する傍からまた無茶なクエスト受けてるんだよ? だから嫌になって一気に解呪して帰ってきた!!」


 一気に解呪って……なかなかの力技をやってのけたねリンデン。


「また懲りずに受注したの? うちのリーダーは……。」


 リンデンは私に抱きつきながらうんと頷く。それを見てシトロは深いため息を吐いた。大丈夫かい? このパーティー。……解散しないよね? まさか。

 私はリンデンの髪をそっと撫でて励ました。


「よしよし、リンデン。ユズか帰ってきたら沢山悪戯いたずらしてやりましょうね?」

「その悪戯、乗った! 二人からなら大歓迎だ!!」


 そのセリフと共に清々すがすがしいほど笑顔のユズが帰ってきた。

 一瞬の沈黙の後に「お疲れユズ」とシトロが迎えた。

 彼は手に大きな紙袋を抱えている。


「リンデンが急に帰っちゃったからびっくりしたよ。でも解呪全部終わっていたからみんな喜んでたよ。後はここの部屋にある物が終ればクエストクリアだ。二人とも頑張れ♡頑張れ♡」


 シトロのこめかみに青筋が浮いたのが見えた。あ~あ。私は気づかない振りして解呪を続けた。シトロも同じく解析に取り掛かる。


「そうだ! リンデン、これ欲しがってたでしょ? ギルドの職員さんにお願いして手に入れてもらったよ? はい。」


 そう言って彼は紙袋から何か取り出しリンデンに渡した。


「あっ! これ人気のお菓子だ!! なかなか手に入らなくて……いいの?」

「ああ勿論だよ、イリス姉さんに渡したかったんだろ? はい、これは俺からね。解呪が終ったら女性陣はイリス姉さんとお茶してきなよ。」


 そう言って紅茶の缶をリンデンに渡した。


「えっ! ユズありがとう……今日は怒ってごめんね?」

「……いや、いいんだ。無理ばっかさせてごめん。」


 いい雰囲気じゃないか、二人とも。

 成程、ユズはこうやってバランスを取っているのか。幼馴染同士、色々分かっているんだなぁ。


「じゃあ俺は出掛けて……。」

「ユズ、男同士の話がある。ミュウと解呪を変わってくれないか? 僕と一緒に解呪しながら話そうじゃないか……リンデンとミュウはもう大丈夫だよ。残りは僕とリーダーでやるから。」


 そう言われて私とリンデンは部屋からつまみ出された。


「へっ!?!? 待って? シトロ? なんか怖いよ??」

「またクエスト受注したんだって? 詳しく聞かせてよリーダー。」


 そして扉は閉ざされた。


「「…………。」」


「シトロがユズにお灸据えてくれるみたいだから……私達はお言葉に甘えて今日はお仕事終わりにしよう! イリス姉さんの所でお茶しよう!!」


「そうだね! とばっちりを食らわないうちに一刻も早くここを離れよう。」


 私は人型になりリンデンと廊下を歩きだし、イリス姉さんの元へ向かうのであった。

 活動部屋からユズの悲鳴が聞こえた様な聞こえなかったような……


 幼馴染ズの人間関係を垣間見れた楽しいクエストで会った。

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