報告ミミック

 私がダンジョンから搬出されて約2週間。


 私は相変わらずクロウ邸・幼馴染ズの活動部屋に保護されている。

 ギルドに私の報告書が上がっているはずなのだが……一切音沙汰がない。


 これは……何事も無しでいいのかな??


 そう思いながら、いつものように部屋に置いてある本を借りては、宝箱に入り読んでいた。平和すぎて怖い!!


 今日、シトロネラはギルドで剣士の講習会が有るので不在。リンデンとユズがそれぞれ細かいクエスト受注書を自席に着いて確認していた。


 もちろん、ユズが受注したクエスト達です。


 二人とも真剣に受注書とにらめっこしているので、話しかけづらい。

 静かにしていないとなぁ……でも、暇だなぁ……。


「このクエストは鉱石ラピスラズリ探しって……これ、ここら辺で採れるの?! え~? どうしよう?」


 おや? リンデンが頭を抱えている!! 私はずるずると彼女の背後にすり寄り、彼女の肩をトントンと叩く。


「ミュウちゃんどうしたの?」


 と振り返った所に、体の中からある鉱石を取り出し彼女に見せた。

 これはラピスラズリ。彼女が探している鉱石だ。


「えー!! ミュウちゃん何で持ってるの!? くれるの!?」


 私はすっと手を引っ込めて、ちっちっち! と指を振る。

 そして、机の上の物を欲しいと熱烈猛烈アピールして交渉した。


「え? これが欲しいの? これでいいの?」


 彼女は恐る恐る机の上に置いてあったキャンディーが沢山入った包みを私に差し出した。

 私もラピスラズリを差し出す。


 交渉成立!!


「リンデン! ありがとう!! おいちー!!!」

「きゃ! 急にしゃべった!! ……え? 待って!! わりに有ってないよ?! あとで絶対、埋め合わせするからね??」


 いや~! この前シトロネラから貰って食べてからハマっちゃったんだよね!?

 タダで貰う訳にも行かないのでトレードしてもらった。


 私達をじっと横目で見ていたユズが突然頭を抱えて机に突っ伏した。


「あー。なんでギルドからこんな依頼がー。マンドレイクなんてなかなか見つからないのにー!!!」


 え? 君が受けた依頼だろう? まぁいいでしょう。お困りとあればこちらのチャンス! 私は体内にある薬草の在庫を確認した。


 マンドレイク在庫よし!


 ……これ、抜くときうるさくて大変だったな。ダンジョン中に響くマンドレイクの鳴き声に他のモンスターも共鳴し出して本当に大変だった。


 さて彼の机には……おお!初めて見る果物がある!! しめしめ。それと交換してもらおう!

 ユズの背後にずるっと近寄ると彼の肩をトントン叩いた。


「ああーどうしようー……ってミュウちゃん。どうしたんだい?」


 どことなく棒読みにも聞こえなくもない彼に、私はマンドレイクをヒョイと取り出して彼に見せると……。


「これは探していたマンドレイクー!このリンゴと交換でいいかい?」


 私はOKのハンドサインをだす。ちょろいぜ!


「君たち、いい加減にしなさい。」


 バシッ! バシッ! と私とユズは何かで小突かれた。


「痛っ!」「にゃあぁぁぁ!」


 シトロネラだ! 講習会お疲れ様!!

 彼は私に対し小言を続ける。


「ミュウ、その交渉方法やめな? ちゃんと姿を出して話して交渉しな。あと、人間の物の価値を学んだ方がいいよ? ユズにぼったくられてる。」


 ぼったくられてる?

 私は観念して宝箱から姿を現して人型になる。

 そうこうしている間に今度はユズがシトロネラから小言を受けていた。

 彼は脇腹を剣の柄でつんつん突かれている。


「マンドレイクってリンゴ何個分すか? リーダー?」

「 いや冗談だよ!! 一年分かな? ははははは……」


 それを聞いてシトロネラは私に振り向き、「一年分だって、良かったねミュウ。」と笑顔で追加交渉の結果を報告してくれた。

 嬉しいけど、シトロ怖い。


 シトロはまたユズに向かって振り向くと、今度は鬼の形相だ。


「あと、この前ギルドに提出したミュウの報告書! あれデタラメを書いて提出しましたね? ……リーダー?」


「ああ、あれか? ほら、人に擬態したミミックって聞いたら、みんなパニック起こすだろう? だから『普通の宝箱が出て来て、中に英雄の品が入っていた』と。英雄の会員証はミュウちゃんの希望通りギルドに献上したし平和じゃないか!? それに彼女をギルドに渡したくないんだろ? 君の気持ちも汲みとってだな、いでででででで!!!」


 シトロはユズの頬をつねった。

 大丈夫です、私たちは特別な訓練を受けています!


 通りで、ギルドから私について連絡が無い訳か!! 『適当に書いておく』って本当にテキトーなこと書いたのか、やるなリーダー。


「つまり、ミュウちゃんには我等パーティーに居てもらおう! こうやって俺達のミッションも手伝ってくれるし。ギルドに受け渡して彼女の体を中まですみずみ調べられるよりいいだろ?」

 

 シトロはギロリとユズを睨む。そのこめかみには青筋が浮かんでいる。

 それを知ってか知らずか「ね?」と私に向けて、玄人にしか分からないウインクをしてユズは助けを乞うた。


「う、うん! そうだね、暴かれるよりは……ここで皆と楽しく過ごしたい!!」


 それを聞いて、シトロネラは私たちの頬をつねる。

 いだだだだだ……なんで? わたしなんか悪いこと言った??


「二人とも、言い分は分かった。だがもっと言い回しを勉強しろ! スケベども!!」

「「はひ」」


 いや、スケベって!! それをスケベワードと受取る君もむっつりスケベなのよ! シトロネラ君!!


 ◇ ◇ ◇


「というわけで……俺達は先週をダンジョンから運び出した。なのでミュウちゃんの事は俺達とシトロのお爺さんとでの秘密だ。」


 若干頬が赤いユズが三人の前で堂々と説明した。

 リンデンは『やったー』と拍手しながら喜んでいる。


「ミュウの事はギルドにどう説明する。身元を調べるって騒がれたら。」


 ごもっともなご意見です。


「お前の遠縁の親戚と言う事で。」

「うちの内情を知っているオリバー先生もギルドに居るんだ、親戚は通用しないだろう? 身寄りが無いならって孤児院を進められないか? ……後見人でもいないと……。」


 シトロは心配性だな。それに孤児院っていう年齢でもないと思うが……

 ……孤児院?


 なんか……誰かから孤児院に向けて頼まれ事が有った気がする。

 私は体内の在庫を確認する。ああ! そうだ!! これだ!!!


 私はがさっと布袋を取り出した。


「私、その孤児院にお届け物が有ります。連れて行って欲しいっ!!!」


「「「え?」」」


 そうそう、あの荒くれ者から頼まれたんだった。

 私は布袋を見て、これを私に託した彼の事を思い出した。

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