クエスト:生体数調査&コカトリス討伐

 今日は、幼馴染ズがクエストの為にダンジョンに入るとの事だったので同行することにした!


 彼らを裏切って我故郷に帰る選択肢はなかった。だって、人間の世界の食べ物がおいしくて、まだ帰るには早いかなぁ? と。


 彼らが受注したクエストは「洞窟猪ケイブボアの生体数調査」と「コカトリスの討伐」


 ユズは高頻度で人気の無いクエストや、納期が短すぎて誰もやりたがらないクエストをひょっこり受注してくる。


 その度に二人は抗議するが、それでもキッチリこなして、ユズは二人をフォローしているのだから、三人とも仲が良いというか……しっかりしているというか。


 今回は二件同時に進行するので、リンデンが生体数調査、シトロネラとユズでコカトリス討伐を担当することになった。


 洞窟猪ケイブボアは名前の通り洞窟内に住まういのししで、主にダンジョンの日が差すゾーンに生息して草やキノコ、時々モンスターなどを食べる雑食性のモンスターだ。鉱物を思わせる美しい牙を上下2対ずつ持っている。


 この牙が人気で密猟に遭いやすいためギルドでは保護対象になっているのだ。

 でもこの猪、敵を見つけると突進してくるので防御が一苦労だ。私も昔、ガツンと体当たりされて、その時の傷が残っている。怖い怖い。


 コカトリスは冒険者に石化の呪いをかけてくる厄介な鳥型のモンスターだ。本来このダンジョンには生息していない外来種なので見つけ次第駆除討伐の依頼がギルドに飛んでくる。遠距離で狙って撃ち落とすので……リーダー弓使い、出番ですよ!!


 私はリンデンに付き添う事になった。

 猪の巣穴が有るらしくて、『この春生まれた個体の頭数を調べて報告して』と。私とリンデンは巣穴の入口が見える岩場の影にしゃがみこみ彼らが出てくるのを待つ。ひたすらに待つ……。


 ダンジョンの中で待つの、みんな嫌よね。私は宝箱型に戻り腰を据える事にした。

 春先でダンジョンはひんやりと寒い。彼女をよく見ると手を息で温めている。


「リンデン、寒いでしょう? 中入る??」


 私は彼女に宝箱内に入る事を提案した。一枚壁が有った方が多少は寒さ和らぐかなと思って。

 意外な提案をされた彼女は驚いて私を見つめているが……


「え……? いいの? じゃあ……お言葉に甘えて。……土足でいいの?」


 初めて聞かれた。ん~? 襲われた時すぐ逃げられるようにした方がいいから……靴を履いたままでOKした。彼女は靴の泥を払って私の隣にちょこんと座る。


 可愛いな! それに、入ってもらってよかった。温かい。


「ありがとう! 結構ここ寒かったから嬉しい!」

「いえいえ! 少し狭いけど寒いのがマシになったなら良かった!!」


 2人で宝箱の中に座って巣穴の入口を観察しつつ小声で話した。


「リンデンは何で冒険者になったの?」

「え? そうだね~ユズとシトロが冒険者に成るって言っていたからかな? もともと幼馴染で小さい時から冒険者ごっこして遊んでいたから……その延長だね。」


「三人は仲がいいね。」


 そう言われてリンデンは嬉しそうに笑いながら答えた。


「そうでしょ? 2人と一緒に冒険するのが楽しいの。それにギルドのクエストもやりがいが有って好きかな? このクエストも、ゆくゆくはみんなの為に役立つからね。」


「えらいなぁ……将来の夢ってあるの?」

「うん! あるよ。治癒魔法を覚えて、イリス姉さんを治癒魔法で元気にして……姉さんみたいに病気で困っている人に向けて治癒魔法を広めたいかな。あと新魔法の開発とか。」


 彼女はそんな目標を持っていたのか。以前に会った人間にもいたな……人の役に立つために大魔法使いになりたいって言っていたっけ。

 リンデンは夢を叶えて欲しいな。


 一時間ほど待った頃、巣穴から洞窟猪が出てきた。親が子ども達を引きつれて餌を食べに行くようだ。子ども達はうりうりと纏まってトコトコ歩いている。ようやく出てきたその姿を見て私達は小声で感激する。


「わぁ! かわいい♡」

「わぁ! おいしそう♡」


 一瞬、リンデンは「え?」という顔をして私を見つめたが、慌てて本来の業務に戻る。双眼鏡で覗いて子供たちの数を数えている。思ったより早く巣穴から出て来てくれて助かった!

 そんなことを知らない猪たちはダンジョンの奥へと駆けて行った。


 リンデンが「よし! あとは書き込めば終わるぞ!」とつぶやいた頃


 おや?


 ユズがシトロネラを連れて慌てて岩陰に隠れてこちらを見ている。彼らも任務が終ったのか、それぞれ大きな麻袋を持っている。あの中にコカトリスが……ご苦労様でした。


 何かあったのかな? それにしては近づいてこないし、何か話しているな。彼らの表情を見る限り……あぁ。


 ふふん! 私は暇つぶしに彼らにアテレコして遊ぶことにした。

 おそらく……ここに来た経緯は


『シロトネラ!! 二人が大変だ! 一緒に来てくれ!!』

『何! 分かった。』


 みたいな感じで呼ばれて、ここに到着すると、


『早く!ここに隠れて! 二人を見てくれ……』

『……二人とも無事じゃないか?』

『リンデンが……ミュウと二人揃って宝箱の中に入って座っている! ……尊い♡』

『…………は?』


 が、現在の様子といった所かな!!

 ユズは朗らかな顔をしながらこちらを見て、シトロネラは呆れながらユズを見ている。間違いないだろう。これは自信がある!!


「よし! 終わった!!」


 お! リンデンの仕事が終わったようだ。……そうだ!!


「リンデン、向こうの岩の後ろ見てみて。二人がこっち見てる。手振ってみようよ。」

「え? ホントだ!! おーい。おわったよ~。」


 そう言って私達は彼らに手を振った。

 リンデンは無邪気に笑って彼らに手を振る。私から見ても彼女は可愛い。

 ケッケッケッ……ユズよ、サービスじゃ。


 ユズはうんうんと頷いていた。

 シトロネラは呆れてため息を吐いて立ち上がりこちらへと向かってきた。


「お疲れさま、そっちも終わったみたいだね。」

「うん、今年も数えられたよ。ミュウのお陰で今年は暖かくて助かっちゃった。」


 これ毎年このパーティがやってるの?!

 リンデンは私の中からゆっくりと出て、伸びをした。ユズもこちらにやってきて私の働きを評価する。


「いや~! ミュウちゃんのお陰でいいもの見れたよ。でも最後手を振ってくれた時、ミュウちゃんの『やってやったぜ』って邪悪な笑顔は頂けなかったな。仕組まれたものじゃなくて自然な表情がいいんだよな~。」


 こだわりが強いな。

 私は杖を取り出し、地面に突いてよっこらせと立ち上がるように人型に戻る。


「わかったよ〜。次の参考にする。」

「おう、頼んだよ!」

「クエストが早めに終わったけどどうする?ミュウ、ダンジョンに用事あるかい?」


 ……! そうだ、残しておいたご馳走の回収!! 口の中が一気に御馳走を求めた。


「一か所行ってもいい? 中層だからモンスターそんなに多くないと思うから。」

「いいよ。ミュウの故郷を見たいし、案内お願いできる?」

「もちろん!!」


 シトロとユズの楽しそうな顔とは裏腹にリンデンはどこか悲しそうだ。

 どうしたのだろう? 中層行きたくないかな?


「リンデンどうしたの? 暗い顔して……体調悪い??」

「ううん、ミュウダンジョンに帰ったりしないよね? そうだったら寂しいなと思って。」


 えっ! そんな可愛い事言ってくれるの?

 私はリンデンを軽く抱きしめて頭を撫でて宣言した。


「みんなに黙って消えたりしないよ。だから安心して?」

「うん。絶対だよ?」


 安心して笑顔を見せてくれた。良かった。

 こんないい子達を残して姿消すなんて罰が当たってしまう。


「ミュウちゃん、それだよ! ナイス!!」


 私達の姿を見たユズがいい仕事をしたとばかりに肩を叩いた。

 不覚にもユズに何か供給してしまったようだ。まぁ、いいのだけども。


「じゃあ、私が残したご馳走を回収にダンジョン中層へとご案内します! こっちだよ~!!」


 私達は中層へと歩き出した。人間の姿になってダンジョンを歩くのは新鮮だった!!

 視線が違うと世界が全然違う! それにとても動きやすい!

 ドラゴンの髑髏どくろを越え私がテリトリーにしていた部屋にやってきた。ここを離れて3週間程しか経っていないけど、懐かしさがこみ上げた。ここ、こんなに狭かったっけ?


 三人もこの空間を見ていろいろ感想を述べる。


「へぇ〜!こんなところに空間が有ったのか!全然知らなかった。」

「ここが……。」

「ここでシトラスやみんなと過ごしたの?」


「ここはシトラス・サンダルウッド・トドマツと……あと一人かな。メリッサはもっと深い層で会ったから……。」


 私はシトロを見る。彼はどこか悲しそうな顔をしていた。それもそうだ。


「シトロ、後で深層に行く準備ができた時はメリッサに会いに行こう。」

「ああ、そうだね。頼むよ。」


 私は早速この部屋に来た目的を果たそうとある岩の前にしゃがみこむ。

 この岩の後ろにっと……私は岩を動かして、その裏の穴に隠していた品々を取り出した。ほぼほぼ鉱物だけど私が集めた冒険者の落とし物も多い。


「わぁ……綺麗!!」

「こんなに良く集めたね……。」

「すごい量の鉱物! あっ!! これ昔流行ったナイフ……ちょっとした宝箱じゃん」

 みんな驚いている。

「そうなの? 鉱物はあげられないけど、他はいいよ! まるっと持って帰るから部屋でゆっくり見ようよ!!」


 そう言って私は宝箱型になり、ポイポイポイ! と体の中にお宝を仕舞った。うん! 体が重くなったぞ!!


「さあ戻ろう!」


 ここには次いつ戻ってくるかは分からないけど。きっと地上の食べ物に飽きた時かな?

 その日までこの部屋も残っていてくれると嬉しいなぁ。


 部屋を出て、きた道を戻り出入り口へ向かい歩いていると、後ろから洞窟猪の声が聞こえた。

 みんなひやりとして後ろを振り向く。今にも突進してきそうな感じだった。


「「「「……!!!」」」」


「みんな先に行ってて!! あとから追いかけるから!! って来たぁ―――!」


 私は宝箱型に戻り猪の突進を受ける。

 いだだだだだだ!!! また傷が増える~。

 これを人間が受けたら大変だ。猪の怒りが落ち着くまで受ける事にした。かかってこい!


「ミュウが的になっているうちに俺達は離れた所に隠れよう。」


 その声が聞こえて安心した。そうしてくれると助かる!

 私は10分ほど興奮した猪の突進を受けた。いやぁ〜……元気だな。

 人の姿が見えなくなり落ち着いた猪は、子供たちと一緒にダンジョンの奥へと去って行った。


 万が一、人間がこの攻撃を受けることになったら彼らはやむなく駆除になるだろう。

 お互い無益な殺生は嫌だからね。沢山増えるんだぞ! そしたら食べに行くからね!! ……おや?


 私は人型に戻り、中層出入り口にだどり着く。そして心配そうに待つ三人を見つけて駆け寄った。


「お待たせ、終わったよ~!!」

「ミュウ大丈夫かい?」

「うん、宝箱は丈夫に出来ているからね。これお土産!」


 攻撃を受けて悪い事ばかりではなかった。そう言って私は猪の牙を一つ渡した。私に刺さって折れたのだろう。たしか貴重な物のはずだったので持って帰ってきた。


「「「洞窟猪の牙!!!」」」

「そう、私に刺さってた。」


 三人はそれを見て目を輝かせたが……その後すぐに困惑の表情になった。そして、黙ってしまった。あれ? 嬉しくなかった??

 シトロがゆっくりと口を開いた。


「ダ、ダンジョン内に落ちてたって事にしようか??」

「あぁ、そうだね。洞窟猪の牙は報告案件だからね。」

「まぁ、ちゃんと報告書を書いて提出すれば、所有も認められるし問題ないだろう。」


 ああ! 超貴重品だから報告書やら申請やらが大変なのか!!

 捨てて行こうか? と言ったらシトロとリンデンは私の手をそっと押さえて静かに首を振る。それは勿体なさすぎるよと。

 二人はキッっとユズを見て同時に言ってのけた。


「「じゃあ、ユズ報告書」」

「頼んだ!」「お願い!」


「ええ!?『じゃぁ』って何!? なんで俺が??」

「元をただせばユズが急なクエスト二件も受注してくるからでしょう? それにこの前も!! 一か月前も!!!」


 リンデンの今までの鬱憤が爆発したようだった。「ええ! そんな前のことも?」などとユズはぼやいていたが……ユズよ、仕方ない。ここでバランスを取らないと解散してしまうぞ。


「わかったよ……あぁ、明日から忙しいぞ……。」


 などと、つぶやくユズを連れみんなダンジョンを後にするのであった。

 洞窟猪の牙もなかなかおいしかった。

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