目撃ミミック
「いいかい? 今日からミュウの事を爺様が後見人として面倒を見ることになった。」
私とシトロは活動部屋で二人っきりで打ち合わせをしている。
お互い真剣な眼差しで見つめ合い確認をしていく。
「いいね? ミュウはダンジョンで倒れているところを助けられて保護された。イリス姉さんにはミミックと言う事は秘密だよ。特にフランキンス先生にバレちゃいけないよ? あの後ギルドからは何も言われなかったけど……彼は錬金術師だから君に興味を持ちかねない。いいね?」
彼は入念に、慎重に私に確認を取ってくる。彼は非常に不安そうだが、私は分かっている。
「OK! シトロネラ任せてっ!!!」
◇ ◇ ◇
私がこの家に来て約一か月。
クロウ家当主『ベンジャミン=クロウ』ことシトロネラのおじい様が私の後見人となってくれた。私が人の世界で活動しやすい様にとの計らいだった。クロウ家の人々も承諾してくれたらしい。すごい寛容!
同時に彼は、私の身元保証人にもなってくれた
。なので私は『ミュウ=ミミック』として人の世界に溶け込むことになった。
設定は先ほどシトロネラが話した通り。主な潜伏先はシトロネラ達の活動部屋なので、今まで通りの生活をさせて貰えることになった。
この話が出た時に「何でクロウ家はこんなに良くしてくれるの?」とシトロに尋ねた事が有る。どうやらメリッサが託した荷物のお陰らしい。
あのアクセサリーケースの中にはメリッサの無実を証明する物が入っていた。闇に葬られる前に彼女と共に脱出できた品々が時を越えて彼女の冤罪を晴らした。
「爺様が
シトロは穏やかに教えてくれた。真犯人については少し悲しげな顔をしていた。
メリッサの手記には真犯人についても心当たりが有る人物の名が挙がっており、現在おじいさんが慎重にその裏付けを取っている最中らしい。50年以上も前の事件で更には仕組まれた冤罪なので、消されている証拠も多い。なかなか捜査が進まない様だ。
「それでも爺様は曾婆様の名誉を守れて嬉しいんだ。この件で爺様は忙しく駆け回っているからミュウとはなかなか逢えていないけど……僕に会う度に『後見人だけじゃ足りないぐらいだ、彼女の事は良く頼んだぞ』と言っているよ? 爺様が落ち着いたらみんなで一緒に食事でもしよう。」
メリッサ……良かったね。
「うん、一緒にご飯食べよう!」
◇ ◇ ◇
と、言う事で。今日はクロウ家の面々にお礼と挨拶をしに回っている。シトロのご両親とお兄さんには無事に挨拶できた。みんな優しい人達で嫌な顔せず歓迎してくれた。ちなみに彼等にもミミックで有る事は秘密にしてある。
そして最後にイリスお姉さんに挨拶に行く所だ。私に粗相が無いようシトロネラがお目付け役として付いてきている。
イリスの部屋には何度か遊びに行っている。あ! あそこの部屋だ。
私は小走りで駆け寄り扉を開けた。扉を開けてから気づいてしまった。
(あ……ノックを忘れた……。)
部屋のベッドには、いつものようにイリスお姉さんが座っていて、その近くにオリバー先生が居るのだが……。
二人がキスをしていた。
(……はぁっ!!!!)
そして、イリスお姉さんの口元から、つうっと一筋赤いものが滴っている。
さすが美男美女、絵になるなぁ……官能的な光景である。……思考停止した私は、時間も止まっているかのように感じてしまった。口をぽかんと開けて驚いていると……
「こら! ミュウ!! ダメだろ?」
後方から私の粗相を見たシトロネラが近づいてくる。
シトロネラだと?
―――大人とはいえ、お姉さんっ子の彼にこの光景は刺激が強すぎるのでは?
……そうだ、これは見せてはいけない。
この判断は早かった。
「ふんっ!!!」
私はとっさに後方斜め上に飛んだ。鈍い痛みと共にゴツッと音がした。
つまり私はシトロネラに体当たりしてそのまま二人でばたりと床に倒れ込んだ。
「痛たっ……何だいミュウ? いきなり……。」
よかった。この様子だと中の光景は見ていないだろう。
私は彼から降りて、シトロネラの上体を起こす。
「シトロ……ごめん……いろいろごめん。」
もう、これしか言えなかった。
私がちゃんとノックさえすれば……この現場を目撃することは無かった。
「二人とも大丈夫かい?」
ひぃ!
私はぎこちなくゆっくりと振り返る……
心配そうな顔をしたオリバー先生が私に手を差し伸べていた。
「幽霊でも見た様な顔をしているけど、大丈夫かい?」
「な、何も見ていません! 断じて! 何も!!!」
私は必死に首を横に振った。キスシーンなんて見ていない! 断じて!!
動揺して目が泳ぐ私は彼の手を取り立ち上がる。同時にシトロネラも立ちあがった。
「先生、診療中にお騒がせして申し訳ございません。今後は十分に気を付けます。」
「いいや気にしないでくれ。それよりどうしたんだい? さぁ入って。」
彼に促されて私達は入室した。
ベッドに座るイリス姉さんは何も無かったかのようににこやかに座っている。
口元にも何もない。あれは見間違いかな? 幻覚?
でもベッドのサイドテーブルには赤い液体が入った小瓶が置いてあった。そして口元を拭ったのであろう赤く染みたハンカチが置いてあった。
やっぱり現実か……やはり彼女達は
困惑する私にシトロが「挨拶は?」と肘で小突いてくれた所で、ハッとして話し始めた。
「わ……私の後見人に、クロウ家のおじい様がなってくれたので、そのお礼とご挨拶に来ました。」
私達は部屋に入り改めて二人に挨拶する。
「あら、家がにぎやかになって嬉しいわ。それに妹がもう一人増えたみたいで楽しくなりそう。ミュウさん、よろしくね。」
そう言ってイリスは微笑む……ノックをせず入った事なんてどこ吹く風だ。
そんな彼女の笑顔をみて二人の甘い時間を覗き見てしまった罪悪感が募る。
「イリスお姉さん、美味しいもの見つけたら持って行きますね。」
「ええ。楽しみにしているわ。」
「じゃあ僕達はこれで、姉さんお大事に。先生、姉さんをよろしくお願いいたします。」
「ああ、最善を尽くすよ。」
二人で部屋を出ようとした時だった。
私はフランキンセンス先生と目が合ってしまった。
その目は狼が獲物を狙うような目で……私は恐怖を覚えた。
逢引の現場を見たこと怒っているのかもしれない。以後気を付けよう。
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