危機ミミック
「ミュウ、僕達のパーティーに入らないか?」
……と、三人に聞かれて私は二つ返事で承諾した。
クロウ家が私の後見人になった事により、私はギルド加入資格を得た。つまり彼らのパーティーに入ることも出来るのだ!
これでダンジョン深層に残してきた食べ物を回収に行ける!
幼馴染ズのパーティーに入るに当たり、パーティー内での私の役割を三人と話し合った。
結果、私は癖があるものの一応魔法が使えるのでパーティーの『第二魔法使い』という位置に落ち着くことになった。
モーニングスターもあるので、「いざという時はそれも振り回して行こう!」という方針だ。
そして、ダンジョンに詳しいので道案内なども期待されている。
意外と即戦力になれそう?
三人も人数が増える事で受注できるクエストの幅が広がると喜んでくれた。お役に立てて、良きかな良きかな!
「じゃあ、ギルドへ登録に行かなきゃね。」
「そうだな。シトロが適任かな? ミュウの登録頼んだよ!」
……と言う事で、私はシトロに連れられてギルドへと向かっている。
「シトロ、連れて来てくれてありがとう。面倒かけてごめんね?」
「僕の家が後見人だから、僕も一緒に居た方が話が早いからね。ミュウは気にしなくていいけど……あの二人、ギルドに提出する書類全部僕に持たせてきた……。」
そう言って彼は深いため息を吐いた。
あの二人は『ギルドに行くならこれも届けてよ!』と、提出書類等々をシトロに沢山持たせた。それを見て彼は顔を引きつらせている。
普段クールな彼がスケベワード以外でここまで顔を崩すのは珍しい。
「ああ……これサイン貰わなくちゃいけない奴だ。ユズめ……面倒な物押し付けて来たな。ミュウの手続きが終ったらこれを片付けないといけないからミュウを待たせることになっちゃうけど、ごめんよ。」
「私の事は気にしないで。待合室で待ってるから大丈夫だよ。待つのはミミックの
餌は掛かるまで待て。
私は取りに行く事が多いけどね。
「心配なのは……ギルドは顧問錬金術師の執務室もあるから彼に正体がバレないように気を付けてね。」
はっ……!! そうだ。オリバー氏は錬金術師だ。時々モンスターを捕まえては実験しているという怪しい噂の持ち主だ。何がきっかけでミミックだとバレるとも分からない。派手な行動は控えよう。
ギルドに到着すると私たちは早速、冒険者登録に取り掛かった。
……と言っても窓口で書類を書いて身分を証明するだけなので、そこまでやる事は多くはないが、身元が怪しい私にとっては一苦労。やはりシトロが居たおかげで手続きを進める事が出来た。
提出した書類を見て受付のお姉さんと確認しながら、私は面接を受ける。
「ミュウ=ミミックさん……。変わったお名前ですね?」
「はい! ……ミミックが好きでして。ははははははは……!!」
ユズから、『困ったことが有ったら、笑って誤魔化すといいよ!』と教えられたので早速実践してみた。
お姉さん、この笑顔に誤魔化されてください!
「ベンジャミン=クロウさんが後見人ですね。シトロネラさんのおじい様なら安心ですね! いい方が後見人についてくださって良かったですね。……分かりました! 提出して頂いた書類でギルドの登録は完了です。ジョブは決まっていますか? 登録しておくと講習会の案内など送りますけど……」
おじいさん効果すごい……!!
ジョブはリンデンから『魔法使いで登録しておいた方がいいよ!』って言われたなぁ。
「ジョブは魔法使いでお願いします! ……加入パーティーも希望が有って……」
「こちらが彼女のパーティー加入希望書です。そしてパーティー側からの希望承諾書類も持ってきました。」
隣りで座っていたシトロがさっと書類を2通出した。
私が『特定のパーティーに入りたいよ!』って云う書類と『パーティー側も歓迎するよ!』って云う書類だ。
受付のお姉さんもこの二枚が一気に揃っているのを見て嬉しそうだった。……きっと、揃いにくいんだろうな、この書類。
「さすが!! シトロネラさんたちのパーティーは仕事が早いですね。いつも助かります! それではミュウさんの所属パーティーも同時に登録しますね。今日はお手続きありがとうございました! これからよろしくお願いしますね!」
お姉さんににっこりと微笑まれて私はほっとした。
良かった~。無事に登録と加入が出来た。
私達は待合室に戻り、へなへな~とソファーに腰掛けた。ちゅかれた。
「登録お疲れ様。それじゃ僕は書類を届けに行ってくるからミュウはここで待っててね。」
「うん、わかったー! シトロありがとう。」
私は彼にひらひら~と手を振り見送った。そうして彼も忙しそうに、去って行った。
これで幼馴染ズの仲間になれたのか……なんか嬉しいな。
どんなクエストするのかな? 美味しいクエストだと嬉しいなぁ~!!
希望に胸膨らませながら、にやにやしていたら急に声を掛けられた。
「おや、ミュウ君じゃないか?」
―――この声は!!! ……私は現実に引き戻されて声の主を見る。
オリバー=フランキンセンス顧問錬金術師
……しまったぁぁぁ。もっと奥まった所に座ればよかったぁぁぁ!!!
私はぎこちなくオリバー氏に挨拶をする。先日、彼とイリス姉さんとのキスシーンを目撃してしまったため非常に気まずい。
「オリバー先生、こんにちは……。」
「どうしたんだい? こんな所に一人で。」
「いや、ギルドの冒険者登録に……でも無事終わって……。」
「そうなんだ。僕の執務室が近くにあるから、お茶でも飲んでいくかい? おいで。」
彼はにっこりとほほ笑み私に手を差し出した。
恐れていたことが起った。どうしよう……。
断って大丈夫だろうか? ……いや、変に断って怪しまれる?
お茶位なら大丈夫かな? 目立った行動はしない方がいいし……。
私は彼の手を取り、執務室へと連れられてしまった。
「はい、どうぞ。」
彼はそう言ってお茶を差し出す。
私は大人しくそれを頂いた。
「ミュウ君もギルドに加入したんだね? ようこそ、ギルド・ローレヌへ。顧問としても仲間が増えてうれしいよ。」
「はぁ、ありがとうございます……。」
彼はニコニコしながら話しかけてくる。ただ時々目に鋭い光が宿るのが怖い。
この人、何を考えているか分からない!!
「そうだ。今、僕の研究の助手を探しているのだけど……そちらにも興味はないかい?」
研究の助手だと!?
ゲホッ、ゲホッ……
……いや! 私はもれなくあなたの研究対象だから!! ……絶対にやだなぁ。
まさか今、ミミック疑惑かけられていないだろうね?
落ち着いた私はハンカチをしまい、ティーカップを机に置いて答えた。
「私、シトロネラ達のパーティーに加入することになって。パーティー登録も先ほど済ませましたので……お誘い頂いたのにすみません。」
「そうだったんだね、でもミュウ君ならいつでも歓迎だよ。遊びに来てくれたっていい。」
そう言って彼は席を立つと私の隣へと座った。
―――は ?なんでそんなに近くに座るの?
彼の急な行動に驚いていたら……
「ミュウ君は綺麗な髪をしているね? いい色だ……。以前に会った時より赤くなった?」
彼はそう言って私の髪を一束手に取って見つめている。そして、それに口づけした。
ひぇ!?!?!? …………女たらし?
髪が赤くなったって、そんなことある筈……言われてみれば赤くなってきた。白かった毛先は、すっかり濃いピンクになっている。
いや! それよりもこの状況だ!! どこか彼の視線は熱い。彼は私を口説きにかかっているのか??
待て待て待てぃ!! お前にはイリス姉さんが居るだろう!
目を見開き驚いているうちに、彼はまた大胆な行動に出る。私の顎に手を添えクイッと軽く上げた。そして、私の目を真っ直ぐに見つめてくる。
ひぃぃぃぃ!! ……これどうなっちゃうの?
近づいてくる彼を見て、私は硬直する。そして緊張で瞳孔が小さくなるのを感じた……。
瞳孔!? しまった!
私は目をギュッと閉じた。にゃぁぁぁぁ!
彼は口説いてるんじゃない、モンスターか目を見て見極めてる。私の瞳孔は人間のそれとは形が違う、ダイヤ型の瞳孔。それを見ていたとしたら……
「ミュウ君って、もしや人間じゃない?」
にぃっっ!! 気付かれた。……このままでは三人の元に帰れなくなってしまう。
私は逃げようとしたが、右肩を彼にがっしりと掴まれ逃げられない……
目を瞑る中、彼の声が予想より近くで聞こえた
「そうなんだね?」
耳元でそう囁かれ背筋がゾクリとする。思わず瞼を開ける……彼は薄っすらと笑みを浮かべるがその瞳はギラギラと輝いている。どうする?
「ははは! まさか……そんな事がある訳ないじゃないですか? ……ねぇ?」
視線を合わせないように、力なく笑って誤魔化す事しかできなかった。
―――コンコンコン!
音と共に彼の動きが止まった……やった! 助かった!
彼はノックの主に向かい
「悪い、後にしてくれ。」
なぁぁぁ!!! 後にするなし!!
また彼はじわじわと迫ってくる。
しかし、扉の向こうから声が聞こえた。
「申し訳ございません。取り急ぎ見て頂きたい資料がございまして。」
シトロの声だ!
彼は小さなため息を吐き私から離れると、シトロが入室するのを承諾した。
「失礼します。お忙しい所すみません。こちらご確認と署名をお願いします。……あれ? ミュウ!? 待合室で待ってって言ったのに……。」
シトロはオリバー氏に書類を手渡すと、オリバーは書類に目を通し署名をした。
そして書類をシトロに戻す。
シトロは私を見てなぜこんな所にといった困惑の顔をしている。
お願い!! 一緒に帰ろうって言って!! 私は彼に視線を送った。お願い届け!!
「お話し中すみませんでした。……先生、この後僕達用事が有って。ミュウもここで失礼させていただきます。」
届いた! 私も彼を逃すまいとソファから慌てて立ち上がる
「オリバー先生、お忙しいところありがとうございました! ではごきげんよう!」
私は素早く立ち上がりお辞儀をするとシトロの後ろに隠れるようにして部屋を出た。
助かった!
「シトロ、ありがとう……!」
「びっくりしたよ。気を付けなって言ったのに。」
「ごめんよ……
「……ミュウは僕達の仲間で家族だ。そう簡単に渡さない。だから今後は十分に気を付けるんだよ?」
彼がとても頼もしく感じた。
オリバー氏が強硬的な手段取らない事を祈るしかない。私達は家路を急いだ。
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