第236話 エピローグ

 

 ──翌朝。私が目を覚ますと、全てが終わっていた。

 セバスとの戦いは、私の……というか、ブロ丸の勝利で幕を閉じているよ。

 私は途中から寝てしまったので、【過去視】で戦闘シーンを確かめてみる。

 すると、ブロ丸が作った人形たちの総攻撃によって、セバスは奮闘も虚しく殺されていた。


 巨大竜巻を発生させる白虎が大暴れするも、ブロ丸の【魔力吸収】でじわじわと規模が縮小して、最後には霞のように消えたんだ。

 結果的に、今回の一件で失ったものは、青色の上級ポーションだけかな。

 切り札を一つ失ったのは痛手だけど、セバスとの因縁が終わったので、結果としては悪くない。


 セバスはマジックアイテムを装備していたはずなので、戦利品を得られるかと思いきや、全て壊れていた。

 ブロ丸の人形たちの総攻撃が、余りにも苛烈だったからね。 

 残念だけど、こればっかりは仕方ない。


 ちなみに、ブロ丸はゴールデンボールに戻っている。

 いつか、アヴァロンまで普通に進化させたいけど……進化条件が分からないし、私のレベルも足りていないので、果てしない道程だと思う。


 セバスに敗北したトールたちは、命に別状こそないものの、精神的には結構参っていた。

 みんなの戦いも、【過去視】で確認してみたところ、やっぱり手も足も出せていなかったよ。

 【風神纏衣】とかいうチートスキルと、三つのスキルの複合技。それらを使われて、逃げ惑うので精一杯だったんだ。



 村人たちとルーザー子爵の勝負は、村人たちが勝利していた。

 平均レベルこそ、子爵の兵団の方が高かったけど、人数差と私の支援で、容易く覆る程度だったね。

 取り逃がした人は皆無で、ルーザー子爵もきちんと討伐済みだよ。


 槍で胸を貫かれている子爵の表情は、最期まで命乞いをしていたと一目で分かるような、恐怖と絶望に塗れたものだった。

 これで、一件落着。とは言え、十三人の村人が戦死してしまったので、素直に喜べない。


 全体の数字と比べると、被害は軽微だけどね……。

 それでも、一人一人の亡骸を前にしたら、十三人の戦死という事実は、余りにも重たかった。


 生存している村人たちも、大半がそう感じたみたいで、厭戦ムードが漂っている。

 伯爵、あるいは侯爵との話し合いで、平和が訪れることを願うしかない。



 ルーザー子爵領の街は、子爵がいなくなった途端、数百人規模の革命軍に占領されていた。

 恐らく、事前にセバスと示し合わせていたんだ。

 革命軍に良い印象はなかったけど、荒れ果てた村の復興に力を貸したり、盗賊や魔物の退治を行ったり、色々と頑張っている。


『貴族がいなくても、我々は生きていける!! 革命軍はいつでも、同志を募集しているぞ!!』


 彼らはあちこちで、そう声高に叫び、仲間を集め始めた。

 スラ丸に探って貰ったところ、革命軍はセバスの死に関心を持っていないらしい。

 そもそも、死んだことに気付いていないかも……。


 それと、新しい盆地の村の存在にも、気付かれていない。

 つい先ほど、革命軍の人たちが旧盆地の村を見にきて、『生き残りはいない』と判断し、立ち去ったんだ。



 ──こんな感じで、私は今回の一件を纏めながら、戦死した村人たちのお葬式に立ち会った。

 遺体は魔物化してゾンビにならないように、フィオナちゃんに燃やして貰って、遺灰の状態で土に埋める。


「聖女様……!! 死んじまっだ連中のために、なんが一言だけでも、お願いしますだ……!!」


 野花と黙祷を捧げるだけの、簡素なお葬式──かと思いきや、ビーンさんが私に対して、難しいお願いをしてきた。

 他の村人たちも、乞うような眼差しを向けてくる。

 これは、流石に断れないね……。


「──では、勇敢な者たちの御霊が、道に迷わないように」


 私は手のひらから、女神球を出して、青空の彼方へと緩やかに飛ばした。

 ただのパフォーマンスだけど、村人たちは感涙しながら祈りを捧げている。

 これでまた、余計な信仰心を育んでしまったかもしれない。


 こうして、お葬式が終わった後、ニュートが黎明の牙のメンバーを集めた。


「皆に、大事な話がある。少しいいか?」


「なによ、改まって……。ちょっと緊張するわね」


 フィオナちゃんが身構えながら、私たちの気持ちを代弁したよ。

 一体、何を言い出すんだろうかと、みんながニュートを見つめていると、


「ワタシは、セバスとの戦いで、力不足を痛感した。故に、剣士に転職しようと考えている」


「あァ? テメェはノワールと戦う必要があンだろ? 今からレベル1の剣士になって、いいのかよ」


 トールの問い掛けに、ニュートは深々と頷いて答える。


「決戦の日が近付けば、そのときに最もレベルが高い職業を選ぶ。アーシャのおかげで、転職は容易だからな」


「ぼ、ボクはいいと思う……!! レベル上げ、最近は停滞しているから……」


 シュヴァインくんは真っ先に、ニュートの考えを支持した。

 剣士になって手札を増やすのは、私としても悪くない考えだと思う。

 本当なら、ノワールとの決戦の日までに、魔剣士になれるのが一番良い。

 けど、そこまでいくのは難しいかな。


 革命軍の勢力は、日に日に増大しているので、年内に一波乱ありそうなんだ。

 そのときに、ノワールだって表舞台に出てくるはず……。

 そこで取り逃したら、次はいつ姿を現すのか分からない。


 決戦は年内に訪れると考えれば、ニュートが魔剣士に転職するのは、間に合わない気がする。

 ちなみに、私が覗き見した過去のことは、仲間内に伝えておいた。

 ノワールが絡んだら、ニュートとスイミィちゃんにとっては、他人事じゃないからね。


「ナハハハハハッ!! 我はニュートを応援してやるのだ! 必殺の剣技、サンダーライトニングスラッシュを伝授してやるのだぞ!」


「……兄さま、がんばる。……でも、一軍で、へいき?」


 リヒトくんが明るく笑いながら激励する横で、スイミィちゃんは尤もな心配をした。

 剣士に転職すると魔力がなくなるので、一軍だと足手纏いになる。

 そのことは、ニュートも理解しているらしく、申し訳なさそうに一同を見回したよ。


「いや、平気ではないな……。そこで、話し合いが必要だと思った次第だ」


「にゃあっ!? ま、まさかっ、ニュートが二軍に!? みゃーはオスが増えるの、嫌にゃんだよ!?」


 真っ先にミケが反応したけど、今は真面目な話し合いだから黙ってね。

 私がスラ丸にアイコンタクトを送ると、この子はミケの顔に張り付いて、口を塞いでくれた。

 ここで、フィオナちゃんが不安そうな表情を浮かべる。


「一軍に残るのが、あたしとシュヴァインと、トールだけになるってこと……? テツ丸とスラ丸もいるし、大丈夫だとは思うけど……」


「……スイ、一軍にいく。……シュヴァインと、一緒がいい」


「んんーーーっ!? んーーーっ!! んーーーっ!!」


 一軍入りを希望したスイミィちゃんの腰に、ミケが大慌てでしがみ付いたよ。

 口を塞いでいるので、何を言っているのか分からない。

 ……まぁ、どうせ碌でもないことだろうね。


「す、スイミィちゃん……!! ぼ、ボクも、キミと一緒が──」


 シュヴァインくんは大歓迎、と思った矢先に、フィオナちゃんが割って入る。


「ダメダメっ!! スイミィは二軍にいなさいよ!! シュヴァインに近付かれるのも嫌だけどっ、あんたとあたしの魔法は相性最悪でしょ!?」


 それを言うなら、ニュートの魔法とも相性が悪かった。

 火と氷でも上手くやれてたし、火と水でも大丈夫じゃない?

 私が内心で、そう考えていると、スイミィちゃんが手をフリフリする。


「……フィオナ、ばいばい」


「あんたの『ばいばい』って言葉、ほんと癪に障るわね……ッ!! しかもっ、喋るのが遅いし!! 口数は少ないし!! いっつも無表情でジト目だし!! もっとハキハキ喋って、キリッとしなさいよ!! このっ、馬鹿スイミィ!!」


「……フィオナ、ばか」


 フィオナちゃんとスイミィちゃんが、取っ組み合いの喧嘩を始めてしまった。

 魔法の属性も噛み合わないし、性格も噛み合わないし、シュヴァインくんが絡むとキャットファイトが勃発してしまう。

 ここまで悪い要素が重なると、同じパーティーに入れるのは難しい。


「ニュート以外に、転職を希望する人はいないの? 最近は盗賊も減ったし、ルーザー子爵も倒したし、1からレベル上げするなら、丁度いい期間だよ?」


 私の問い掛けに、二軍のメンバーは全員が首を横に振った。

 ミケ、スイミィちゃん、リヒトくんの三人は、まだ伸びしろがあるからね。

 トールとシュヴァインくんは、結構悩んでいる。


「アーシャ、意見を聞かせろや。俺様は、どうするのが正解だと思ってンだ?」


「うーん……。レベルがリセットされてもいいなら、転職した方がいいかな」


 トールに意見を求められたので、私は素直に答えた。

 適正レベルが30以上の狩場って、近くで見つかっていないからね。

 それが見つかるまでは、一軍全員で転職して、スキルを一つでも多く増やすべきだよ。

 幸運の髪飾りを装備すれば、強力なスキルを取得出来るかもしれないし。


「──なら、俺様もニュートに付き合って、転職するぜ。シュヴァイン、テメェはどうすンだ?」


「ぼ、ボクは……っ、ボクも、もっと強くなりたい……!! だから、転職するよ……っ!!」


 こうして、トール、シュヴァインくん、ニュートの三人が、転職することに決まった。

 すると、フィオナちゃんが困惑しながら、彼らを見遣る。

 

「三人がレベル1からやり直すなら、パーティーはどうするのよ? あたしだけ、レベルが高いままよね……?」


「フィオナちゃんも、転職したら?」


「えぇー……。あたし、火属性の魔法以外に興味ないわよ? あ、魔剣士はパスね。剣を振り回す自信、ないから」


 ずっと固定砲台に徹していたフィオナちゃんに、今から前衛職を勧めるのは酷な話だ。

 私みたいな特異性がないと、他の属性の魔法も使い難い。


「普通の魔法使いに転職して、新しい火属性の魔法を狙うとか……?」


 火、水、土、風、光、闇、氷、雷、それから無属性の魔法というのもあるし、普通の魔法使いが取得出来るスキルは、闇鍋感が物凄い。

 ピンポイントで欲しい属性を引き当てるのは、運頼みになるけど……幸運の髪飾りがあるので、期待値は高くなるはず……。


 あるいは、非戦闘職のレベル上げでも、全然悪くない。

 庭師のスキル【箱庭】みたいに、便利なスキルが色々とあるだろうからね。


「んー……。ちょっとだけ、考える時間が欲しいわ」


 フィオナちゃんはそう言って、みんなに猶予を求めた。

 誰からも異論が出ないので、数日はゆっくりと羽を伸ばしながら、考えて貰おう。

 こうして、私たちは束の間の平穏を満喫することになった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

他力本願のアラサーテイマー 雑木林 @zoukibayasi01

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ