川の流れのように

くまいぬ

せせらぎ

「ぐわっぷ!」

「あはは!転んじゃった!」

俺は自分の足元だけで無く、着ていたシャツとズボンもびしょびしょにさせた。

「しょ、しょうがないだろ!石がつるつる滑るんだよ!」

尻もちを付いた状態で、痛みに悶えながらも何とか反論する。

「ドジだからでしょー」

サラサラと流れる川の水は、どこまでも透き通っていて、優しい。

全身で浴びてみる前までは、そう思っていた。

でも、そんな優しい川の水に、それまで外気に晒され熱を帯びていた身体が、一瞬にして体温を奪われる。

キンキンに冷やした麦茶を、一気に胃の中へと注ぎ込んだみたいな感覚を思い出した。

川の流れは、俺が思っているよりもずっと力強い。

なのに、俺の顔の熱だけは、冷却されないままでいた。


 ザッザッザッ

 

「ほら、怪我してない?」

そうやって差し出された小さな右手は、川の流れのようにどこまでも透き通っていて、優しい。

「…大丈夫」

強く握ったら、壊れてしまうんじゃないかと思って、尻込みしながら俺も右手を差し出した。

「よいしょ!」

そうすれば、それに応えるように自然と、左手も俺の右手に覆いかぶさる。

その小さい身体の、軽い体重に、俺の右手から全身が誘われる。

俺が思っているよりもずっと、その小さな優しさに込められた力は強かった。

まるで、優しく俺の肌を撫でた川の流れが教えてくれた、無邪気な自然の冷たさ。

さっき転んだおかげで直感できた。

目の前で笑う人は、そういう人なんだろうって。

だから、初めて触れる事が出来た。

冷たい川の水でも取り払う事の出来ない、心の熱。

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川の流れのように くまいぬ @IeinuLove

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