「メドツ」(八戸市で河童のこと」

@kaimon924

「メドツ」(八戸市で河童のこと)

「メドツ」

聞き慣れない、見慣れない単語である。青森県の八戸博物館のお土産のモチーフになっている立ち入り禁止の看板があるそうで、

「き け ん だ!

よるな近づくな

メ ド ツ が出るぞ」

という、地元民以外には、いったい何が出てくるから危険なのか、皆目見当もつかない文面と単語なのであった。


 新聞の記事で見かけて、気になって調べると、水にまつわる妖怪・怪異、河童のような妖怪であるようだ。

 広辞苑によると、能登・近江で河童のことを「みずし」というらしい。みずしの元は「蛟(みずち)」で、たいていは竜形または蛇形の水妖ではある。北前船・北国回船で八戸市まで伝わる過程でみずち→みずし→メドチ→メドツになっていったのであろうか、と思うと、なんとも不思議な気分になる。


メドツとは 俺のことかと 河童云ひ


 などといった小文を書いたところで、玄関の呼び出しチャイムが鳴る。


 ドアを開けると、異様な女性が、ひとり、立っている。

 

1980年代ふうの冬のファッション、ソバージュの髪型。普通の人間ならば、「目鼻立ち」の在るべきところが、まったくの「闇」になっている。髪型や服装にかんする限り、アンノン族(雑誌「an an」「nonno」を購読してた層)みたいな印象なのだけれども。


 その女性は、「どうも、メドツです」と挨拶すると、僕の身体をすり抜けて、家の中に、吸い込まれるように入っていった。

 

 (うーむ、これが世に聞く「異類婚」譚ですかね。)


と思ったんだが。ところがどっこい、そのメドツさんは、どうやら1980年代のファッション研究家であるらしく、細く長いオタクの、私室のコレクションの内で、1980年代に関連するものをざっと見て(ファッション関係はほぼ無いです)それなりに堪能したら、もう気が済んでしまったらしく、お茶を一服した後、帰って行きましたとさ。


アンノン族? 正体 不明(アンノウン)

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