第31話 魔人の封印されし祠

 ———次の日。


「よし、行くか」

「イルガ様? 一体どこに行こうとしていらっしゃるのですか?」


 キャンプの道具も片付け終わり、来た道とは反対の道を進もうとする俺をサーシャが止める。

 

「蛮族を倒すだけではなかったのですか?」

「別に蛮族を倒すだけ、とは一言も言っていないぞ」

「なっ……ひ、卑怯ですっ! 私は依頼だから仕方がないと思って……! イルガ様、どうかお考え直しください! イルガ様にもしものことがあれば私は———」

「行かせてやれ」


 そう言って涙ぐむサーシャの頭を、まるで孫を可愛がるかのように師匠が撫でる。

 突然頭を撫でられたサーシャは目を白黒させて驚いていた。


「アイツも何かしたいことがあるんだろ。だが、お前がイルガを馬鹿を心配な気持ちも分かる。だがな……」


 師匠がニカッと笑って言った。



「———儂がいる前で誰も死なせはせん」



 その言葉に、俺は素直に尊敬する。


 そんな傲慢な言葉を吐ける人はこの世に一体何人いるだろうか。

 少なくとも、俺にはまだ無理だ。

 そも、原作を知っている俺が見ても、あんな言葉を吐ける人など師匠を入れて数人しかいない。


 流石———【闘神】。

 生ける伝説の英雄、と言ったところか。


「だそうだ、サーシャ。師匠がいれば問題ないだろ?」

「……そうですね。その代わり、今度からちゃんと私に伝えておいて下さいねっ! 私はイルガ様がいないと生きていけませんっ」


 せめてもの抵抗とばかりにそんな条件を付け足すサーシャ。

 なんか最後に物凄く重い発言をされた気がするが……俺の聞き間違いかな?


「それじゃあ行くか———『魔人の封印された祠』に」

「「……え?」」

「ん、ごー」


 








「———うっ……き、気持ち悪いです……」

「ん、同意する。何か気持ち悪い」

「ふむ、魔族に近しい魔力だな」


 魔人の封印された祠の近くにやって来た途端、俺以外の3人が露骨に顔を歪めて口々に気持ち悪いと言い始めた。

 

 勿論、魔力自体は感知できる。

 だが、残念ながら魔力を持たない俺にはそんな魔力が気持ち悪いとかいう細かなことは分からない。

 あくまで魔力が感知出来ると言うだけだ。


「……そんなに気持ち悪いものなのか?」

「ん、今日の朝食べたご飯吐きそう」


 顔色を青くして口元を押さえるセニア。

 洒落に見えないセニアを見て、俺は顔を歪める。


「や、やめろ汚い」

「そ、そうですよっ! 淑女がそんなこと言っちゃいけません!」


 俺だけでなく、サーシャまでもがぷんぷん怒ってセニアに注意する。

 どうやらセニアにとって俺よりもサーシャの方が怖いらしく、サーシャの言うことは結構聞くので……あとはサーシャに任せる。


 俺はセニアとサーシャから視線を切り、腕を組んで不愉快そうな師匠に尋ねる。


「師匠、ここに封印された魔人についてなんか知ってますか?」

「……知らん。儂が生まれた時には既に封印されていたからな」


 へぇ……ゲームの時に大した設定も無かったから新参者の魔人かと思っていたが……どうやらそうでもないらしい。

 まぁ確かに『やっと外に……』的なことを言っていたから案外お爺ちゃんなのか。

 てっきりそう言うノリで自分を強く見せようとしている奴なのかと……めちゃくちゃ傲慢で承認欲求高めな奴だったし。


 俺がゲームの時の魔人について思い出していると……遂に祠の前に辿り着いた。

 辿り着いたのだが……。


「……お前ら何してるんだ?」

「ん、絶対に嫌だ。そこ行ったら死ぬ」

「儂も遠慮しておこう。魔族なんぞよりよっぽどここの魔力は気持ち悪いからな」

「わ、私はイルガ様が来いと言うなら……」


 何故か3人とも祠から十数メート離れた場所で俺の様子を見ていた。

 セニアと師匠は断固拒否、サーシャは行きたくないけど俺がどうしてもと言うなら……という感じだ。


 まぁ別に来なくても良いけどさ。

 どうせ強制的に近付けさせられるんだからな。

 

 俺は無骨な祠に近付き———そっと手を翳して唱える。


「———我、契約を望む者。いざその姿を顕さん———」


 まぁただ呼び出すだけの嘘だが。


 しかしそんな俺の内心など露知らず、突如として地面が揺れ始める。

 同時に辺りに漏れていた黒い魔力が一気に祠を包み込み———膨大な魔力を持った者が解き放たれた。

 見た目は人間と変わらないが、白目の部分が真っ黒に染まった燕尾服を着た細身の男が現れる。



『我と契約を望む者よ———名は?』

「お前に名乗る名はない。お前の討伐報酬を貰いに来た」



 俺は指輪から剣に変形されて突き付けた。


 

 

 

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紙装甲な悪役貴族の俺、膨大な魔力と引き換えにチートボディを手に入れる あおぞら @Aozora-31

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