はじめての飛行機〜私が海外旅行を好きになった理由〜

@komu7komu7

第1話


もう20年近く前になる。



当時まだ10代だった私は、一人空港にいた。

人生で初めての海外旅行に行くためだ。


それも、初めてのひとり旅、初めての飛行機。

初めてづくしだ。


それにもかかわらず、私は行き先として、日本の裏側である中米ーメキシコとグアテマラを選んだ。


今思い返しても、無謀だったと思う。

中米までは飛行機で合計16時間もかかる。しかも、アメリカで乗り継ぎもある。


初めての一人旅としては、かなりハードルが高い。

しかし当時の私は若く、世間知らずだった。

そもそも日本以外の国の場所をよくわかっていなかったので、「遺跡が見たい!」という気持ちだけで選んでしまったのが中米だった。


英語もロクに話せない。

しかも、中南米の公用語が英語ではないことすら、現地に着くまで知らなかった。


そんな無知で無鉄砲な私は、辞書と観光ガイドを握りしめ、緊張半分、楽しみ半分で、飛行機に搭乗した。



初めて一人で乗る飛行機。

機内食のメニューを選べることすら知らなかった私は、CAさんの「チキンオアフィッシュ?」の質問にすら答えられない。それが質問だということすらわからなかった。


さすがに少し、「こんなことでこの先大丈夫なのか」と、不安になった。


私があたふたしていると、隣の席に座っていた外国人男性が声をかけてくれた。


「チキンとフィッシュ、どっちがいいか聞いてるんだよ」


そう教えてくれたのは、日本語がとても上手なアメリカ人男性だった。話してみると、日本で数年英語の先生として働き、母国に帰るところなのだという。


私は彼に、この旅が初めての海外旅行であること、遺跡が見たくて中米を選んだこと、今とても緊張していることなど、たくさんのことを話した。



「遺跡を見にそんな遠くまで?すごいね。まるで、インディージョーンズだね。インディアナガールだ」


そう言って、笑ってくれた。

彼と話したことで、私の緊張はかなり和らいだ。



彼は私に、乗り継ぎの方法や出入国カードの書き方など、色々と丁寧に教えてくれた。

あまりにも経験のない私を心配してか、乗り継ぎのロサンゼルスに着いてからも、次の搭乗場所までついてきてくれた。


彼とは記念に一枚だけ写真を撮り、お礼を言って別れた。



その後の中米旅行は波瀾万丈で、嫌なこともたくさんあったけれど、行きの飛行機で親切にしてもらったおかげで、私は前向きに旅をすることができた。


そして、私の中で「アメリカ人」の印象がとても良くなった。

もちろん、アメリカ人すべてが彼のようではないことは理解している。

それでも、私にとってはじめて会話をしたアメリカ人は彼であり、その印象はとても深く私の中に刻まれた。



それから10年近く経った、ある日のこと。 


あれから私は何度も飛行機を経験した。

それどころか、海外に住むようになった。外国語もだいぶ上達したし、もう、飛行機内でも空港でも戸惑うこともない。


そんなある日、SNSに一人のアメリカ人から友達申請が届いた。


アメリカ人の知り合いに心当たりがなかったので、最初は不審に思ったけれど、送り主の名前をよく見て気付いた。


10年前に飛行機で助けてくれた彼と、同じ名前だと。


まさか、あの時の彼なのだろうか?


私の名前やアドレスを覚えていて、見つけてくれたのだろうか?


もう10年も経っているのに?



「でも、よくある名前だし、偶然かも…」


そう思いながらも、思い切って英語でメッセージを送ってみた。


「あなたは、10年前に飛行機で私を助けてくれた方ですか?」



すると、すぐに返事がきた。



「ハイ、インディアナガール」



その一言だけでわかった。

ああ、あの時の彼本人だと。


思わず、涙が溢れた。

私は彼と繋がり、あの時の感謝をたくさん伝えた。今度は、彼の話す言語で。


そして、今は海外に住んでいること、あの時の旅行からは無事に帰れたこと、その後の人生のことなど、たくさん話をした。



あの時、私を助けてくれてありがとう。

あなたのおかげで、私は海外が大好きになりました。


そう、伝えた。



初めて訪れる国や旅行で助けられた経験は、とても大きい。

だから私は、日本にいる時、できるだけ困っている海外の方がいたら、助けになりたいと思っている。


私の一言や態度が、誰かにとっての「日本人」の印象になるかもしれないから。



少し前に、成田空港で、到着ロビーに着いたばかりの外国人の男性が戸惑っているのを見た。荷物をどう受け取っていいかわからず、困っているようだった。


声をかけようか迷っていると、空港の荷物受取口にいた職員のおじさんが、彼に声をかけた。


おじさんはどうやら英語はあまり話せない様子で、けれど、大きな声と身振り手振りで、「ディス、オーケー!?」などと説明していた。

そして、彼の荷物を運ぶのを手伝い、「ノープロブレム!」「イッツオーケー!」と言って笑っていた。


外国人の男性はずっと、覚えたてであろう言葉で、小さく「アリガト、アリガト」と呟いて手を合わせていた。


もしかしたら、日本に来るのは初めてかもしれない。

けれどきっと、あのおじさんのおかげで、日本の第一印象は良くなったのではないか。

そう思った。


あの日、私を助けてくれた彼のおかげで、アメリカ人の印象が良くなった私のように。


誰でも初めて海外に行く時は、不安でいっぱいだと思う。


私が彼の親切のおかげで海外を好きになったように、私のちょっとした行動が、誰かの海外の思い出に大きな影響を与えるのかもしれない。


だから、もし困ってる人がいたら、勇気を出して声をかけようと思う。



そう思えるようになったのは、あの日飛行機の中で、隣の席の彼がくれた優しさのおかげである。




以上

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