第17話 玄抻素様の神殿

 賢者たちが調査を開始して三十分、ワマトの賢者ハンベエがユースケたちの元にやって来た。


「ユースケ様、リンコ様、シンゴ様、姫の相手をしてくださって有難う。お陰で姫も退屈せずにすんだようじゃ」


 ハンベエの年齢は見た目では五十代に見えるが聞けば六十三歳だという。見た目からは年齢って分からないなぁとユースケは思いながらハンベエに質問した。


「いや、逆だよハンベエさん。俺たちがおひぃさんのお陰で退屈せずに済んだよ。それで、この魔力素がどうなってるのか分かった?」


 ユースケの問いかけにハンベエはウムと頷き説明をしてくれた。


「それなんじゃがどうやらあの魔力素は奥にある聖域を取り囲んでいるようなのじゃ。聖域の力が弱まっておる事も原因の一つではあろうが、よほど奥にある聖域を封印したい者がおるようでな…… しかし、あの魔力素を取り除くには奥にある聖域までも破壊しかねんからどの様にすれば良いかミセ殿とも話し合っておったところじゃが、結論が出なかったのでな。一旦は休憩しようという事になったのじゃよ。まあ、少し休んで頭を冷やせば良い案も出るかも知れぬのでな」


 そう言うハンベエにユースケはナルホドと言いながら魔力素に近づき六尺棒を突っ込んでみる。時間停止付与をしている六尺棒は不壊こわれずなのでそのまま魔力素の壁を貫いた。が、ユースケの手は拒まれてしまったようだ。


「熱っ!! やっぱ無理か…… リンコ、空間支配で何とかならないか?」


「先輩、逆です。支配空間です」


 とリンコはツッコミを入れるが、どうやら新たに取得したスキル【支配空間】を使用してみるようだ。


「ああ、何とかなりそうです。でも人が一人通れるぐらいしか開けられません。かなり強力ですよ、この魔力素の壁。だいぶ薄くはなってるのにこんなに強いなんて…… いったい誰がこんなのを作ったんでしょうね」


 とユースケに言いながらも実際に人が一人通れるぐらいの幅で魔力素の壁が開いている。ハンベエはそれを見て驚いていた。


「ヤレヤレ、こんな所に答えがあったとは…… びっくりじゃ。リンコ様、維持は出来るのかの?」


「あ、はい。ハンベエさん。この幅で良いなら維持は可能です」


 リンコの返事を聞いてハンベエはミセたちを呼んでくると言ってその場から離れた。


「よーし、それじゃ入ってみるか」

「いや、師匠、ハンベエさんたちを待ちましょうよ」


 シンゴが真面目にそう言うが、何とナデシコ姫までが、


「奥に何があるのでしょう? 気になりますね、入ってみましょう!!」


 などと乗り気で言い出す始末。


「姫、ダメですよ」


 さすがに専属護衛のオギンがダメ出しをする。


「いや、リンコ。お前が中に入っても維持は出来るんだろ?」


「はい、それは出来ますけど、やっぱりミセさんやハンベエさんが一緒の方が良いと私も思いますよ。中に入っても私たちじゃこの世界の聖域については何も分からないと思いますから」


 と正論をユースケに返したが、正直に言ってリンコは諦めていた。ユースケがこの程度で諦める筈が無いと。


「いやいや、それは入ってみないと分からないだろ? ひょっとしたら俺たちでも分かるかも知れないし、それにこの状態を維持出来るならミセさんたちも入ってこれるんだから先に入っててもいいじゃん。決めた、俺は入る!」


 そう言うとユースケは中に入っていった。


「師匠、危ないですよ!」


 と言いながらシンゴも結局は入り、リンコも


「もお、二人とも! どうなっても知らないからね」


 と言いながら中に入ってしまった。ローンはリンコからナデシコ姫を守るように言われているので、ちゃんとナデシコ姫の側にいる。


「オギン、私たちも入りましょうよ。稀人まれびと様だけを危険に晒すなんてダメよ。私たちの世界のことなんだから!」


 ナデシコ姫はそう言い、オギンがダメと言う前に駆け出して中に入ってしまった。ローンももちろん着いていく。


「姫!! ダメですよ!」


 と言いながら結局はオギンも入り、その場には誰もいなくなった……


 戻ってきたハンベエやミセはその場に誰も居ないのを見て


「ハンベエ様…… うちの稀人まれびと様たちが申し訳ありません……」


 とミセが言うと、ハンベエも


「いや、済まぬのう、ミセ殿、うちの姫が……」


 と謝罪をしあってから、


「どれ、我らも入って見るとしようか。中は聖域ゆえに危険は無いだろうが油断はせぬようにせねばな。済まぬがホーン殿はムネノリと共にこの場に残ってくださらんか? こちらにも人が居った方が良いかと思うのでな」


 とハンベエが言い、ハンターのロイとアルもその場に残ると言うのでハンベエ、イセ、ジュウベエ、サコン、ミセ、メイアは中へと警戒しながら入っていったのだった。


 先に入ったユースケたちはどうやら神殿らしいと思いながら中を探索していた。


「なあ、リンコ。ここが玄抻素の爺さんの神殿じゃないか?」


「先輩、実は私もそう思ってたんです」


 二人はそう言いながら奥へと進む。そして、祭壇らしき物を見つけたので、そこで立ち止まる。


「そういや、神殿に来いとかって言ってたよな、玄抻素の爺さん」


「言ってましたね。でも、先輩。仮にも神様なんですから爺さん呼びは不味いと思いますよ」


 リンコよ、君の【仮にも】という言い回しも失礼なんだよ。


 そんな二人の会話を聞きながらナデシコ姫が聞いてきた。


「お二人の言う玄抻素神様はどういった神様なのでしょうか?」


「あー、なんか時空神にして、創造と管理の神だって言ってたか? だったよな、リンコ?」 


「ええ、そう言ってましたね」


 ユースケの言葉にナデシコ姫とオギンは首を傾げた。


「私たちワマトの国ではこの世界を創造されたのはイザナイ神様で、管理されてるのはイザナイ神様の御子神のヒルメイ神様。時空を司るのはヨルメイ神様です」


 とナデシコ姫がワマトの神様について教えてくれたが、ユースケとリンコは思った。


『イザナギ、イザナミにヒルメにツクヨミだな』


 と。それは言葉には出さずにユースケは違う事を言う。


「そうなんだな、教えてくれて有難う、おひぃさん。いや、俺もあの爺さんがそんな大層な神様だとは思ってないんだよ」


 とユースケが言った途端に一筋の稲光がユースケを打ち、そして、


『この罰当たりもんがーっ!!』


 と玄抻素の声が祭壇のある部屋に響いたのだった。 


「グキャーッ!?」


 ついでにユースケの悲鳴も響いたが……


『全く、遅いぞ! お主らならばもっと早く来れたじゃろうに! 何をしておったのじゃ。ホレホレ、早くこの神殿を解放せよ! さすればアスノロクもワマトも真の国名を皆が思い出す! 早うせい!』


 発せられる言葉には威厳を感じられるが、言ってるのは他力本願である。


「くそ痛ぇなっ!! こら、玄抻素の爺さん! 人を雷で打ってといて解放しろもクソもないだろっ!! そもそも何でこんな魔力素に囲まれてんだよ、先ずは説明をしろよ!」


 雷に打たれてアフロヘアーになり、全体的に煤がついて黒くなったが元気なユースケはそう突っ込んだ。


『うむ、説明か…… えーとじゃな…… あれは遠い遠い昔じゃった…… 当時のワシは血気盛んな若神でな、とある女神に惚れたのじゃが、アプローチの仕方を間違えてしまってな…… それでその女神の怒りによって世界各地にあったワシの神殿の殆どが無くなり、人々の記憶からも抹消されて、何とかこの神殿だけは死守したのじゃが、周りをその女神の結界に囲まれてしまったんじゃ。で、長い年月が経つ内に女神も忘れてしまったんじゃろうな。結界に神気を込めずにおったから、それに目をつけた魔王が強力な魔物を産み出す為に利用しだしての。で、産み出したが失敗作はこの森の中に放置しおるから起こっておるのが、アスノロクやワマトでいう大暴走なんじゃ。成功した魔物は魔王領へと転移させておるからの。まあ、という訳じゃ、ユースケにリンコよ、これ以上魔王に強力な魔物を産みださせない為にも解放を頼むぞ』


 チーン…… 


「さ、帰るか、リンコ」(ユースケ)

「そうですね、先輩」(リンコ)

「僕もお二人に賛成します」(シンゴ)

「私も賛成ですわ」(ナデシコ)

「……」(オギン)


『いや、待て待て! 解放してくれればちゃんと神力で持ってこの森も浄化してやるから、魔獣は居なくなり普通の獣ばかりとなるし、そこにおるガイアウルフの子も神獣へと進化させてやるぞ、どうじゃ、リンコ? それにワマトにも恩恵があるぞ、この神殿の裏手には鉱脈があるのでな、幻と言われワマトの鍛冶師たちが探し求めておる勾玉鋼があるのじゃ。それの採掘も許そう。何より、ワマトもアスノロクも真の国名を思い出せば、国民たちの地力レベルが上がるんじゃぞ!!』


 慌てて好条件を述べだす玄抻素。そこにちょうどハンベエたちがやって来た。実は神殿領域に入った時点で玄抻素の声はハンベエたちにも聞こえていた。ハンベエは玄抻素に問いかける。


「玄抻素神様にお尋ね致す。ワマトもアスノロクも真の国名では無いと言われるが、その真の国名を先に我らに開示して頂けますかな? それを聞いて解放するかを判断いたしたいのですが、如何か?」


『ムウ、賢者が来おったか…… 良かろう、お主らに先に教えてやろう。ワマトの真の国名は【ワコク】、アスノロクの真の国名は【カイクロス】じゃ!』


 玄抻素がそう言った途端に稀人まれびとであるユースケたち以外の者が声を上げた。


「レベルが上がった!」(メイア)

「ムッ、拙者もだ!」(イセ)

「わ、私まで!」(ナデシコ)

「…… ……」(オギン)


「ああ! 解る、解ったわ!!」(ミセ)

「おお、このような事が!」(ハンベエ)

「師匠、我がレベルが!」(ジュウベエ)

「私の今までの考えが違っていた……」(サコン)


『どうじゃ、ワシの言った事は本当じゃったじゃろ? な、だから解放を頼むぞ!』


「って、俺たちには何の変化も無いんだが……」


 とユースケが不満そうに言ったがリンコは違った。


「キャーッ、ローン。真っ白もふもふ〜!! 可愛い〜」


 そう、ローンは進化して神獣へとなったので毛色は純白に、毛が少し伸びてもふもふとなったのだ。大きさは子犬のままだが。


「師匠、リンコさんがああなったからには諦めて解放しましょう」


 とシンゴが言うがユースケはシンゴと玄抻素に突っ込んだ。


「シンゴよ、解放しましょうじゃないんだよ。おい、玄抻素の爺さん、解放しろって言うけどどうすれば解放出来るんだ? 俺もリンコもそれにシンゴもあの魔力素の壁を消す方法なんて知らないぞ?」


『おお、そうじゃった、そうじゃった。忘れておったわい。ユースケよ、間流柔剛術に【百来掌はくらいしょう】があろう? それにリンコよ、境界流古武術に【時傾じけい】があろう? 二人が同時にこの祭壇室の床に向かって技を出してくれれば良い。それでワシの神気が増幅されて魔力素の壁も無くなり、森も浄化されるのでな』


「って、この世界で得た力じゃ無いのかよっ!?」

「ホントですね、先輩」

「僕はまだ教わってないのでできません」


『時魔法【遡及】でも可能じゃが、お前さんの今の魔力では足りんのう。何せ封印されてから五百年にはなるからのう……』


 玄抻素の言葉にその場にいた全員が突っ込んだ。


「長っ!?」


 で、結局はユースケもリンコもそれぞれの武術の秘奥義を床に向けて打ち、そして神殿の外に出てみたら、魔力素の壁が無くなり森も浄化されていて、外にいたホーン、ムネノリ、ロイとアルもレベルが上がったし、国の名前を思い出したとか言ってたので、神殿内であった事を説明してやった。


 で、そのままワマト改めワコクの調査団も一旦はアスノロク改めカイクロス王国に来る事になり、何故か浄化された森の中に新しく出来た道を使用してカイクロスへと戻る事になった一行であった。


 戻るとまた色々と説明しなきゃいけない事が多くあるが、そこは賢者たちにお任せまるなげしたユースケたちであった。  

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時魔士?何それ?って言われたよ しょうわな人 @Chou03

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