第16話 いざ、調査へ!

 いよいよ魔獣の森の調査に入る日となった。ユースケ、リンコ、シンゴ、ミセ、ホーン、メイア、それからハンターギルドから派遣されたロイとアルの八人は東に向かって、先ずは森の中の街道を進んでいく。


「ところでさあ、ワマトの人たちとは何処で合流するんだ?」


 ユースケが気になっていた事を聞いた。


「はい、それはちょうどワマト側からとうちの方からとの魔獣の通り道の始点になると思います。あ、ちょうどここが魔獣たちが通ってきたみたいですね。ここから森の奥に向かいますよ。進めば始点に出ると思いますから、そこにワマトの調査団も来る筈です」


 とメイアが答えてくれた。


「そうなんだな、分かった。メイアさん教えてくれて有難う」


 そうしてユースケは魔獣の通った後がある森の中へと入っていく。因みに今は加速は使用せずに、全員が歩いて辺りを注意深く確認しながら進んでいた。だが、ユースケは念の為に全員の装備に時間停止付与をかけていた。効果は一日である。


 そしてリンコは結界を張っている。安全策を取って移動する一行は慎重に、それでもできる限りの早さで前へと進んでいく。


 ある程度進み少し休憩をしている時にシンゴが気がついた。


「師匠、犬の鳴き声が聞こえます」


「うん? 俺には何も聞こえないぞ」


 しかしシンゴは確信があるかのように一本の倒木の方に向かい、その倒木の下に手を突っ込んだ。

 その手が出てきた時には子犬が一頭乗っていた。


「キュ~ン」


 その弱々しい鳴き声にリンコが反応する。


「わっ、ちょっとシンゴくん、貸して! 私が面倒見るから!」


 しかしその言葉にミセから待ったがかかる。


「待ってください、リンコ様。それは魔獣です。ガイアウルフの子です。リンコ様は魔獣をどうされるおつもりですか?」


 険しいと言っていい声でミセに問われ、さらにはハンターであるロイとアルからも厳しい目で見られているリンコ。思わず返答に詰まる。


 しかしそんな緊迫した空気を気にせずに喋り出す男が一人…… 言わずと知れたユースケである。


「おお!! めんこいなぁ、ちっちぇぞ、お前。ちゃんと食ってないのか? ハハーン、アレだな、大暴走の時に弱いからって親に捨てられたパターンだな。よーし、俺に任せとけ!! 【遡及】」


 ユースケは子犬が弱る前まで時間を戻してやる。それは突然過ぎて、ミセもハンターの二人も口を挟む暇もなかったほどだ。


 そして、元気になった子犬もとい、ガイアウルフの子はユースケとシンゴの顔を見てガルルッと唸る。


「オイオイ、お前、命の恩人を威嚇すんなよ!」


 と言いながらユースケが鼻先をデコピンすると、


「キャンッ」と鳴いてリンコに向かって走り、その影に隠れた。


「お前もリンコかよ! 全く、地球でもそうだったけど……」


 とユースケが不満を顕にすると、ユースケに向かってまた威嚇の声を上げる。そのガイアウルフの子をリンコはそっと抱き上げた。

 すると、その顔を見上げた後に自分を掴むリンコの手をペロペロと舐めだした。


「こいつ、オスだな」

「オスですね、間違いなく」


 ユースケとシンゴのその言葉にハッと正気を取り戻したミセ。


「リンコ様、その子を下ろして下さい。殺します」

 

 と厳しい顔になって言うミセ。けれどもリンコは下ろす事なく困ったような顔でミセとロイとアルを見ている。

 そこにまた能天気なユースケの声が響いた。


「あー、ミセさん。大丈夫だよ。リンコがちゃんと責任を持つって。もしも人を襲うような事があったらリンコがちゃんと処分するさ。まあ、絶対にそうはならないだろうけどな」


 と確信を持っていうユースケにミセは態度を崩さずに言う。


「誰かを襲ってからでは遅いのです、ユースケ様。そうなる前に処分しなければ!」


「そうだな。俺たちも同じ意見だ、ユースケさん。あんたやリンコさんには大暴走の時にとても世話になったけど、それとこれとはまた別問題だ」


 三人が緊迫した表情でそう言えばユースケは逆にノホホンとリンコに言う。


「論より証拠だ、リンコ、見せてやれよ。地球でのお前の特技を」


「特技って、別に私も意識してやってる訳じゃないですからね、先輩」


 緊迫した三人の空気に緊張していたリンコだったが変わらぬユースケの態度に落ち着きを取り戻したようだ。


「まあ、取り敢えず攻撃はせずに見ててくれないか、ミセさん」


 とユースケがミセに言うと、ミセは構えは崩さないものの、了承の為に頷いた。


 それを確認したリンコはガイアウルフの子を下ろしてから、語りかける。


「良い? あなたの名前はローンよ。いい名前でしょ? これからは私のいう事を絶対に守るのよ。あなたが人とは本来なら相容れない魔獣だというのは分かるけど、それじゃ私と一緒に居られないの。だから、私と親しい人をあの人以外は攻撃しちゃダメよ。さ、匂いを覚えてきなさい」


 と、ユースケを指差してそう言うリンコ。


「何でだよっ!!」


 とユースケがツッコミを入れるがそれを無視してリンコは名付けたローンから手を離した。


 ローンは先ずはシンゴの元に行き、フンフンと匂いをかぎ、差し出された手をペロペロする。

 次にホーンとメイアの元に行き、同じようにしてから、警戒しているミセ、アル、ロイの元にユックリと近づく。尻尾は上の方で横に振られている。


「三人とも武器を下ろして手をローンに出してやってくれませんか? 絶対に噛み付いたりしません。私を信じて下さい」


 リンコがそう願うと渋々とだが三人が武器を下ろしてローンに手を差し出した。

 その匂いを嗅いでからペロペロと同じように舐めたローンはリンコの元に戻り、


「ワンッ!!」


 と分かったという風に一声鳴いた。その様子にハンターのアルとロイは驚いている。


「なっ、何故……」

「魔獣が俺たちを攻撃しないなんて!」


 ミセもまた驚いていた。


「幼くても魔獣は本能で人を攻撃する筈なのに、どういう事なのでしょうか? ユースケ様は理由をご存知なのですか?」


 問われたユースケはローンに手を出してガブッとされていた。


「痛ぇっ! この野郎! おい、リンコ、俺にだけ噛み付くぞ!」


「先輩はしょうがないでしょ? デコピンしたんですから!」


「クソッ、いつか俺がお前を処分してやる! で、ミセさん。理由を聞かれても俺にも分からないんだけど、前の世界でもリンコは【オス】ならば危険とされる猛獣も従える事が出来たんだ。多分だけどリンコの家に何らかの秘密があるんだろうけど、古すぎてそんな文書も残ってないらしくてな。逆に俺の方の家に残ってる文書に、境界流古武術の家には獣を従えし技ありって書かれてるぐらいだ。だが、技というよりは本人の資質だと俺は考えてる。だから、興奮状態じゃない落ち着いてる状態の魔獣のオスならばリンコに従うと分かったんだ。ま、人のオスには通用しないのがリンコにとっては不幸で、世の男性にとっては救いだな」


 と、滔々と語るユースケに向かってリンコは静かに構えて、


「境界流古武術爆裂技ばくれつぎ破山高低抄はざんこうていしょう】!!」


「グボラァベッ!!」


 吹っ飛んでいくユースケに冷静に突っ込むシンゴ。


「師匠、今のは師匠が悪いです」


 ボロボロになったユースケが死にそうな声で魔法を唱える。


「そ、そ、そ、遡及〜…… …… 」


 復活したユースケがリンコに文句を言う。


「クソッ、危うく死ぬとこだったぞ、リンコ! 手加減しろよ!」


 そのユースケにリンコは冷静にいう。


「何度も言いますがちゃんと手加減してます。ちゃんと魔法を唱える力は残ってるでしょ、先輩」 


 とツーンと返事をするリンコだった。呆気に取られたミセとハンター二人はもう良いやという感じでリンコに言った。


「取り敢えず、この場では信じます。けど、ワマトの調査団に会った時の事を考えてこのローンの周りを結界で囲んでおいて下さいね、リンコ様」


 それでまたローンを連れて前進する事となった。

 

 ローンは結界に囲まれてはいるが、ローンが動くと結界もそれについて動くので、リンコの足元を嬉しそうに尻尾を振りながらついてきていた。


 時々、ユースケに向かって威嚇しながらだが……


「シンゴ、俺はいつかあの狼を負かす!」


「はいはい、師匠。頑張って下さい」


 シンゴは思った。リンコさんと一緒だとどうしてこうも残念師匠になるのかと…… 地球で師事してくれていた時の師匠はとても格好良かったのに……


 その後は魔獣に出くわす事もなく、どうやら始点と思われる場所にたどり着いた一行。

 何故そこが始点だと思ったのかと言うと、円形に魔力素がまだ溜まっているからだ。

 かなり薄くなってはいるが、どうやらこの魔力素の奥に何かがあるらしい様子。


「ここで暫くワマトの調査団が来るのを待ちましょう。ワマトの賢者様の判断もお聞きしたいので」


 とミセが言うので一行は待つ事にしたのだった。


 十五分後、ワマト側から気配が来るのが分かった。ホーンがコチラから先に声をかける。


「そちらはワマトの調査団で間違いないでしょうか? 我々はアスノロクの調査団です。恐らくはここが始点と思われ、皆さんが到着するのを待っておりました」


 ホーンの言葉に刀神イセが進み出てきた。


「おう! ユースケ殿ではござらんか。その節は世話になった。ユースケ殿が来られているならば安心だ。姫、コチラが先の大暴走の時に多大なる手助けをしてくださった稀人まれびとのユースケ殿にございます」


 と刀神イセが後ろにいた女性にそう言う。


 アスノロクの調査団は驚いた。


「姫ーっ!!」とホーン。

「おひぃさんをこんな危険かも知れない場所に連れてきて大丈夫かよ、イセさん」とユースケ。

「ローン、この人を守るのよ」とリンコ。

「ナデシコ殿下、てっきり調査団とは別に直接アスノロクへ向かうと思っていたのですが」とメイア。


 ミセとハンターたちは何も言わずに首を横に振っていた。


「ハッハッハッ、いや拙者もそう思ったのだが、姫がどうしても仰ってな。愛するセバス陛下に朗報を自分でお届けしたいらしいのだ」


「イッ、イセッ! それは黙ってなさいと約束したでしょうっ!!」


 刀神イセの言葉に顔を真っ赤にして俯きながらも抗議するナデシコ姫。


「まあ、来てるんだから今更しょうがないか。それじゃ、そっちの調査団の人たちにも時間停止付与をかけるな」


 と切り替えが早いユースケがさっそく必要な事をした。

 それにより、ワマトの調査団の人たちが自己紹介を始める。


「ユースケ様にリンコ様、それにイルマイ殿から連絡があったシンゴ様ですな。私はワマトの賢者でハンベエと申します。よろしくお願い致します」


「皆様、今回はよろしくお願い致します。私は刀神イセの弟子でジュウベエと申します」

「同じく私も弟子のムネノリと申します」


「私は賢者ハンベエの弟子でサコンと申します」

「私は姫の専属護衛をしておりますオギンと申します」


 ワマトの調査団の自己紹介の後にユースケたちも名乗り、取り敢えずこの魔力素がどうなっているのかを賢者たちが調べる事となった。

 ユースケたちはその間に親睦を深める為にナデシコ姫や武士の二人、オギンさんと談笑を始めたのだった。 


 

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