【3】彩り区画のイレギュラー
小金井が徹夜して作り上げたモンスターを睡眠へ誘う恐ろしき鈍器【まどろみハンマー】を受け取った俺は彩り区画に向かった。
新発見されたダンジョン【虹の結晶街】で小金井が満足するまで探索する俺だが、いろいろと心配が尽きない。
新ダンジョンということはどんなモンスターが出現し、どんなギミックやトラップがあり、どれだけの危険度なのかわからないからだ。
「楽しみですね、光介さん」
「俺は心配が大きいよ」
普通なら最低でも難易度は三つ星ほど。本来だと小金井が受けられるクエストランクではないが、まあ俺と一緒ということで動向が許されたためである。
とはいえ、危険なことに変わりない。ということで細心の注意をして探索をしよう。
そう心の中で決め、俺は小金井と一緒に彩り区画と呼ばれる危険度一つ星の場所に来た。
ここは様々な場所にダンジョンが存在する区画である。そのために管理しきれないダンジョンが存在し、そのダンジョンからモンスターが出てきて闊歩するため危険度が設定されているのだ。
ということで、モンスターがいないかどうかと気をつけながら区画を進んでいく。
しかし、さすが【彩り区画】と呼ばれているだけあって色鮮やかだ。
傾いている電柱には赤や黄色、紫といった色がこびりついており、そんな色で染まった巨大なクモの巣がある。
ボロボロの古びた道路は青に緑、オレンジという色が広がっており、葉が茂る木々は冬でもないのに太陽の光を受け銀色に輝いていた。
至るところが色鮮やかであり、そのために人々はここを【彩り区画】と呼ぶようになったとかどうとか。
まあ、聞いた話だとここは元々人が暮らしていた街だったけどダンジョンの出現によりこうなってしまったそうだ。
それも今や五十年前の出来事。真実を知る人間はいるかどうかわからないが、人が暮らしていた名残はあるからたぶんそうだったんだろうと俺は思っている。
そうこうしているうちに俺達は彩り区画の出入り口付近に設置されている簡易テントに辿り着いた。
「そんじゃあ、ここで一旦荷物確認しようか」
「え? さっきしたばかりじゃないですか? 必要ないんじゃないですか?」
「念のためさ。あとはそうだな、万が一があってもすぐに戻ってこられるようにポイントを置いておこうと思っているんだよ」
「ポイント? あ、聞いたことがあります。確か【渡り鳥の羽根】というアイテムを使えば登録している場所に戻ってこられるって」
「そういうこと。何かあってから後悔しても遅い。だから保険をある程度かけておくのさ。ま、中には必要としない輩もいるだろうけどな」
「へぇー。あ、そういえばどうやってポイント登録するんですか?」
「簡単だよ。この地球儀みたいな置き物があるだろ? これに羽根をかざすだけ」
「簡単ですね。私でもできちゃいます」
「ただアイテムの特性上、一回使ったら消えるものだから一つ一つやらないといけない」
「すごく面倒臭いですね……」
「でもやらないと困ることが起きるからやっておく。だから荷物確認のついでに俺はやっているんだ」
とはいえ、この作業を毎回やるのは面倒臭い。作業自体は簡単だが、渡り鳥の羽根の数だけ時間が取られるからたまにサボろうかと思うこともある。
できれば一気にポイント登録できればいいんだが、そんな便利なアイテムはないだろう。
「あ、そっか。こうすればいいかも」
そんなことを考えていると小金井が何かを思いついたように声を上げた。おもむろに俺が持っていた渡り鳥の羽根を手にし、何か作業をし始める。
えっと、アイテムを束ねて、根本部分を布で被せて、そこから妙な紙を使って包み込んで――
「できたぁー。【渡り鳥の翼】のかんせぇーい」
何やら羽根を集め、翼に見立てた何かが出来上がった。
確かに翼に見えなくはないデザインをしているけど、もしやこれで一気にポイント登録ができるようになったのか?
「小金井、もしかしてそれ――」
「はい! 一気にポイント登録ができます。しかも使い切る前にアイテムを補充すれば半永久的に使える優れものです」
「マジか。すごく便利じゃないか」
えへへっ、と小金井が照れたように笑う。
こりゃいいものを作ってくれたもんだ。さっそく俺は【渡り鳥の翼】を受け取り、地球儀にかざしてみた。
小金井が言った通りにそれに装着された【渡り鳥の羽根】は一気にポイント登録し、完了の証としてほのかな青い光を帯びる。
こいつは便利だ。今までの作業時間が嘘のように短縮されたぞ。
「すごいな。作ってくれてありがとよ、小金井」
「どういたしまして。お役に立ててよかったです」
小金井のおかげでちょっとした時間が減り、自由時間が増えた。これはとんでもなく嬉しいことだ。
さて、時間が増えた分だけ何をしようか。
「キャーッ!」
増えた自由時間で何をしようかと考えているとテントの外から空気を切り裂く乙女の悲鳴が聞こえてきた。
俺は思わずテントの外へ出て悲鳴が聞こえてきた方向に顔を向けると、そこにはオークキングに追われている一人の少女の姿がある。
「ヒィ、ヒィ! なんでいつもこんな目にぃぃぃぃぃ!!!」
長い黒髪にモノクルらしきものを右目にかけており、左耳には赤いインカムをつけオレンジを基調としたコートに身を包んだ少女が何かを叫んでオークキングから逃げている。その後ろを追いかけるドローンがあり、銃口らしきものを出して追いかけている。
しかし、オークキングと少女が重なるのか撃てないでいた。
「た、助けてぇぇぇぇぇ!!!!!」
俺は走り出す。
逃げ回る少女と追いかけるオークキングの間に割って入り、槍の刺突に合わせカプセルを出す。
そのままカプセルが砕かれ、中からまどろみハンマーが現れるとオークキングの刺突を防いだ。
「大丈夫か?」
「へ? は、はい!」
俺は縦にしたまどろみハンマー越しにオークキングを睨みつける。
だが、オークキングは臆することなく睨み返した。それどころか大きな雄叫びを上げ、威嚇してきた。
目は血よりも赤く染まっており、鼻息を荒々しく鼻息を吐き興奮している。
槍の柄を強く握り、距離を取るとまた大きな雄叫びを上げた。
するとどこからともなく一回り小さなオークが現れる。それが俺達を取り囲むと、それぞれが威嚇し始めた。
その数は全部で十体。どうやらこのオークキングの兵隊のようだ。
「ちと骨が折れそうだな。おい、アンタ」
「は、はい!」
「時間を稼ぐ。どうにか逃げろ」
俺がそう告げると、後ろにいた少女は静かに頷いた。彼女はそのままゆっくりと、オーク達を警戒しながらその場から下がっていく。
俺はそれを確認した後、腰に添えていたナイフを手に取る。そしてオークキングとその兵隊を改めて確認した。
「ブモォォォォッッッ!!!」
オークキングは咆哮を上げるとバラバラに威嚇していたオーク達は叫びを止める。
一瞬だけ静まり返った後、全員が背を正し持っていた槍の柄の甲をドンと一斉に地面を叩いた。
そして、オークキングが大きな雄叫びを上げると同時にオーク達は叫んだ。
それは号令であり、オークキング達による戦いの合図である。
俺は笑う。久々のヒリヒリとした戦いができそうだ、って。
「いいぜ、やろう。全員、かかってこい!」
オークキングを含めて全部で十一体。
普通なら多人数でパーティーを組んで戦うような数だ。そう、普通なら。
でも今、俺一人だ。だから一人でどうにかするしかない。
やるしかない。やるしかないからこそ、俺は覚悟を決める。
このモンスターを全て倒す、と――
夢見る冒険者と追放クラフトマスターの現代ダンジョン攻略 小日向ななつ @sasanoha7730
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