【2】寝たら最後のまどろみハンマー

 爽やかな小鳥の囀りが朝を知らせる。いつも通りの朝はなかなかに綺麗な青空が広がっており、まさにダンジョン攻略日和と言えた。

 俺はあくびを何回か零しながらアパートで朝の仕度を終え、出発する。


 どうしてか新発見されたダンジョンへ挑むことになってしまった俺は、アイテムや装備が入ったリュックを背負いギルドへ向かった。

 まあ、小金井がとんでもなくやる気を出していたからな。どうしてあそこまでやる気を出したのかわからないところがあるけど、まあそこまで深い考えはないだろう。


 しかし、小金井のあのやる気の出しようはすごかったな。確か持っている素材を使って現状作れる最高の武器を作るって言ってたが、どんなものを作ってくるんだろうか。


 そんなことを考えつつ、俺は少しだけウキウキしながらギルドへ辿り着く。そのまま冒険者のたまり場になっているロビーへ入ると、待っていた小金井が手を振りながら俺を呼んだ。


「光介さーん! こっちでーす!」


 やれやれ、朝から元気だな。


 手を小さく振り返しながら小金井の元へ向かい、俺は声をかけた。


「やる気満々だな、小金井」

「はい! もう楽しみすぎて寝ていませんよ!」

「おいおい。途中で倒れても知らないぞ」

「大丈夫です! 眠気覚ましを飲みましたから! あ、スタミナが減らないタフネスマンも飲んでおきました!」


「身体をぶっ壊しても知らないぞ、本当に」


 なぜそこまでやる気を出すのか。それは小金井しか知りようがない。

 まあ、いろいろ心配なことがあるからヤバくなったらすぐに引き返そうか。


「あ、そうだ。光介さんに渡したいものがあるんですよ」

「もしかして昨日言っていた武器か?」

「はい! 今、用意しますね」


 小金井を見た感じ大きな武器ではなさそうだ。というか、大きな武器なんて町中で持ち歩くなんてできないしな。

 銃刀法に引っかかるし、大きなものほどその扱いに困るようにできている。

 とすると、ナイフとかそういった武器を作ってきたのかな?


 そんなことを考えていると小金井はリュックから一つのカプセルを取り出した。

 それは手のひらに収まるサイズ。小金井はそれを躊躇うことなく地面に思いっきり叩きつけると、なぜか煙が上がる。


「じゃーん! 特製ハンマーでぇーす!」


 煙が晴れ、その特製ハンマーとやらが姿を見せる。

 それは俺の身丈よりも大きなもので、形はハンマーというよりも棍棒に近い。試しに持ってみるがとんでもない重量のため両手を使わないといけなかった。


 一体どうやってこんなものを運んできたのだろうか。いや、それよりもこのハンマーを小金井はどこから出したんだ。

 ちょっとした疑問を浮かべながら俺は小金井に顔を向ける。

 すると彼女は自慢げな笑顔を浮かべていた。


「頑張って作りました! それ、名前は【まどろみハンマー】って言います。叩かれた相手は眠気に誘われ、そのまま寝ちゃう追加効果を持っています。これで厄介なモンスターも簡単に攻略できちゃいますよ!!!」


「追加効果が発動する前に、違う意味で昇天しちゃう気がするな」

「威力はとんでもないです。大岩ぐらいなら簡単に粉砕できますから!」

「殺す気満々だな、この武器! 追加効果の必要性はあるか!?」


 なんだか武器の威力と追加効果の相性が悪い気がする。まあ、何が起きるかわからないのがダンジョンだ。もしかしたら一撃で倒せないモンスターがいるかもしれない。

 いや、例えいたとしてもこのハンマーを俺は扱えるのか? なかなかの重さだし、そう簡単に振り回すことはできないぞ。


「これで怖いものなしです! さあ、ダンジョンに行きましょう!」

「待て。さすがにこのままこのハンマーを持ち運ぶなんて俺にはできないぞ。というかお前、これどうやって持ってきたんだよ?」

「? カプセルに入れてきましたよ?」

「いや、当たり前じゃんって感じに言わないでくれ。その、カプセルってなんだ?」


「えっと、最近発売された魔法カプセルです。これを使えば重たいものも簡単に持ち運べるんですよ」


 小金井はそう説明し、俺に魔法カプセルを見せてくれた。

 見た限りガチャガチャのカプセルだ。それをハンマーにコツって当てると不思議なことにあの巨大なハンマーが中へ吸い込まれていく。


 完全に収納されたところでカプセルを持ち上げてみると、不思議なことに軽い。中には小さくなったハンマーがあり、まるでオモチャみたいな形になっていた。


「はぁー、こりゃ便利だ」

「それ、ものを持ち運ぶ以外にも長期保存とかできるんですよ。だからすぐに品質が変化しちゃう素材にも使えます」

「へぇー」


 世の中、便利になったもんだ。

 俺がそう感心していると小金井が手を引いた。


 突然どうした、と驚いていると彼女はこう訴えかけてくる。


「早く行きましょうよ、光介さん。私、いろんな素材を手に入れたいです!」


 あー、これはダンジョン攻略そっちぬけで素材集めする気だ。

 まあ、元から今回はダンジョン攻略する気ないし、別にいいか。


「へいへい、わかった。手続きするから少し待ってくれ」


 俺は受付にいる職員に声をかけた。そして彩り区画に入る許可をもらう。

 これで準備は整った。あとはダンジョンに入って、小金井の気が済むまで素材集めするだけだ。


「さあ、行きましょう! 未知なるダンジョンへ!」

「張り切りすぎるなよ。あと俺からはぐれるな」


 一通りの注意をし、俺は新ダンジョンがある【彩り区画】へ向かう。そこで何が待ち受けているのかわからないまま。

 まさかとんでもないトラブルが待っているなんて、この時の俺達はまだ知る由もなかったのだった。

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