第1章 彩り区画【虹の結晶街】
【1】新発見のダンジョン
パーティー追放に合っていた小金井亜美を助けた俺は、それから彼女と一緒にダンジョンに潜った。
初めは肩慣らしとして【陽だまりの森】という駆け出し冒険者でもクリアできるダンジョンで彼女の能力を見ることにする。
確かに彼女は身体能力が低く、魔法もそんなに扱えないし、何よりいろいろ鈍い。
でも、彼女にはとびきりの才能があった。それは、様々なアイテムや装備品を生み出すことができる【クラフト能力】だ。
「はわわ、ポイズンスパイダーだ!」
「俺が相手する!」
戦闘面は当然ながら苦手。
そうじゃない時の支援能力もとびきりある訳でもないが、それでも小金井を追放した奴らはバカだと俺は思った。
なんせ、彼女の持つクラフト能力はこれまで出会ってきた冒険者の中でずば抜けて高かったからだ。
その証拠に――
「ぶしゅるるるぅー!」
〔ポイズンスパイダーは毒の牙で光介に噛みついた〕
「ぐ、こいつ!」
俺の腕をポイズンスパイダーは噛みついてきた。咄嗟に攻撃を防いだためか、もろに噛みつかれ毒を受けてしまう。
途端に身体から力が抜け、大きな倦怠感が襲ってきた。
ちょっとヤバいな。負けることはないと思うが、何が起きるのかわからないのがダンジョンだ。
このままやられたら何もかも剥がされて一文無しになってしまう。
そんなことを考えていると後ろから「光介さん!」と小金井が叫んだ。
「これを受け取ってください!」
何かを投げ渡された。受け取ると何やら妙に赤い液体が入ったビンだ。
俺は躊躇うことなくビンの蓋を取り、薬液を飲む。すると倦怠感がなくなり、身体が元気になる。
それどころか力が身体の底から湧き、とんでもない高揚感が身体を支配し始めた。
いわゆるハイテンションだ。
「俺の一撃を喰らえー!」
〔光介の攻撃〕
〔ポイズンスパイダーに強烈な一撃を与えた〕
〔ポイズンスパイダーは倒れた〕
「しゅるるるぅぅ!!!」
勝ったぜ! しかも一撃で倒した!
一つ星ダンジョンとはいえ、ポイズンスパイダーはなかなかにしぶといモンスターだ。それを一撃で倒せたのはおいしい!
おしっ、このままポイズンスパイダーを倒しまくって【毒の鋭牙】を集めまくるぞ!
「やりましたね、光介さん!」
「ああ、小金井のおかげだよ!」
「いえ、光介さんが強いからですよ。私はちょっとだけ手伝っただけですから」
「その手伝いがなかったらここまでやれないさ」
といった感じに小金井は大きな支援能力を持っている。
特にダンジョン攻略で必要な回復支援が十分なものがあるし、それにこれはまだ能力の一端しかない。
それがわかるのはもう少し後になるが、まあその話は後にしよう。
今は小金井が作ってくれた【解毒薬〈改〉】を使って大量発生しているポイズンスパイダーを俺は狩りまくる。
おかげでクエスト【毒の鋭牙がたくさん欲しい】を難なく達成できるほど集められた。
少し前まではポイズンスパイダーを相手するのが億劫だったが、小金井がパーティーに加入してくれたおかげでその憂いは消える。
それどころかポイズンスパイダーが絶好の金づるに見えて仕方なかった。
ということでクエストに指定された素材の数以上に俺は集めてしまう。
ちょっと調子に乗りすぎてしまったよ。
「狩りすぎた。ヤバいな、ポーチに入らない」
「あ、じゃあ私が持ちます。実は最近、いいものを作ったんですよ」
「いいもの? 何を作ったんだ?」
「じゃーん! 魔法アイテム【収納くん】です。通常よりも三倍もアイテム収納ができる魔法のポーチなんですよぉー!」
「三倍も!? すげぇーじゃないか!」
「えへへ。後で光介さんの分も作りますね」
といった感じで俺は小金井の凄さを目の当たりにしていく。
確かにデザインは女の子らしいかわいらしいものだけど、これはこれでいいと俺は思う。
そんなこんなで集めた【毒の鋭牙】をギルドへ持っていった。
クエストに必要な分を納品し、溢れた分はギルドの換金所で交換する。おかげで結構なお金が手に入り、すごいウハウハした状態になった。
これな今月は少しだけ裕福に過ごせそうだ、と思っていると隣接している酒場から妙な声が聞こえてきた。
振り返るとそこには、小金井を追放した奴らの姿がある。
「あー、つまりお前達は新発見したダンジョンに挑み失敗したってことか?」
「ぐっ、そうだよ! だから一文なしなんだよ!」
「ねぇマスター、有り金これしかないけど美味しいもの食べられない? お腹がペコペコなの」
「悪いがこれだけだと玉子焼きしか作れんな。それでもいいならやるが」
「それでいいわ。お願い」
なかなかにひもじい食事をしているな。まあ、外食するならここで食べたほうが安上がりか。
しかし、新しいダンジョンが発見されてたんだ。一体どんなダンジョンなんだろうか。
「光介ちゃん、光介ちゃんよ」
そんなことを思っていると誰かが声をかけてきた。顔を向けるとそこには飲み仲間の冒険者【鮫島さん】がテーブルに座っている。
俺は小金井と一緒にそのテーブルへ向かい、空いている椅子へ腰掛けた。
それを確認した鮫島さんは、酒をグビッと飲み込んでからこう切り出した。
「いやー、酒が美味い。あいつらがひもじい思いをしてるから余計に美味いよ」
「そういえばあいつら、新発見されたダンジョンに挑んだって聞いたな。どんなダンジョンに挑んだんだ?」
「彩り区画と呼ばれてる場所に出現したダンジョンだそうだ。そうだな、確か【虹の結晶街】と名付けたそうだ。なんでもそのダンジョンには様々な鉱石が眠っているとか」
「へぇー、じゃあいい採取場所だな」
「ただ厄介なモンスターが多いそうでね。しかも発見されたばかりだからギルドの支配下に置かれてない。だから危険度が高く、その証拠に四つ星から三つ星ほどのランク指定にされるそうだ」
「だから腕利きやら名を挙げたい奴らが挑んでるってか。その一端があいつらってことか」
「そういうことそういうこと。ま、結果は見ての通りってな」
ガハハッ、と鮫島さんは笑って酒をまた飲み始めた。
まあ、あいつらがひどい目にあったから鮫島さんとしてはいい肴なんだろう。
しかし、虹の結晶街か。まだ誰も踏破していないダンジョンね。
挑戦してみたいもんだが、さすがに今はそのタイミングじゃない。
「光介さん、行きましょう!」
そんなことを考えていると小金井が唐突に声を上げる。
あまりにも唐突だったので、俺は驚き彼女へ顔を向けた。
「行くって、まさか【虹の結晶街】にか?」
「はい! だっていろんな鉱石があるんですよね? なら、そこに行けばたくさん集まるってことですよね!? いかない理由はないですよ!!!」
「いやしかし、そのダンジョンはさっき行った【陽だまりの森】とは比べものにならな――」
「私、作りたいものがあるんです! だから行きましょう!!! それに光介さんが一緒なら攻略だってできますよ!!!」
なかなかに押しが強い。一体どんなものを作りたいんだ、小金井は。
そんなことを思っていると鮫島さんがガハハッとまた笑い出した。
「こりゃ行くしかないな、光介ちゃんよ」
「行くって、さすがに二人だけじゃあ無理ですよ」
「いやイケるイケる。だって光介ちゃんは強いからね」
「アンタねぇ……」
「本来だと五つ星でもおかしくないだろ。だからイケるって」
鮫島さんが嫌なところをついてくる。
まあ、その通りだから否定する気はないが、万が一があったら困るんだよ。
だが、鮫島さんに背中を押された小金井は違った。
「そうと決まれば準備してきます! 今できるとびきりの武器を用意しますね!」
「いや、まだ行くって決めた訳じゃあ……」
「頑張りましょう、光介さん! それじゃあ明日、ここで落ち合いましょうね!!!」
俺の話を聞かずに小金井は去ってしまった。
こりゃ、行くこと決定か?
そんなことを考えていると鮫島さんがブワッハッハッ、と目を手で覆い、天井を仰ぎながら豪快に吹き出していた。
「頑張るしかないな、光介ちゃん。俺も応援してるぜ!」
この飲んだくれが。他人のことだと思いやがって。
そんなこんなと心の中で恨み節を呟きつつ、頭を抱えながら俺は鮫島さんと食事を取ることにした。
もちろん、食事代は鮫島さん持ちでな。
こうして俺は新発見されたダンジョン【虹の結晶街】へ挑むことになったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます