【0―2】夢見る冒険者はパーティー追放の場面に鉢合わせる

「あ、あのっ」

「ん? ああ、悪い。驚かせちゃったな。大丈夫かい?」

「え? は、はい。その、ありがとうございました」

「いいよ。俺、強いから」


「そう感じました。その、綺麗な魔力でしたよ」

「……ハハッ、そう言われたのは久々だな。たいていは俺の魔力のデカさにビビるんだけど」

「確かに大きな魔力でした。でも、それ以上に綺麗でしたよ!」


 これは珍しいや。

 まさか、魔力の色がわかる子がいるだなんてね。この子、確かにあいつらよりは弱いかもしれないけど、素質はあんな奴らよりずば抜けてるよ。


「それはどうも。それより、この装備はどうしようか? さすがにこれを持ち帰るには一人だと大変だろうし」

「あ、あの! もし、もしよろしければ、あなたがもらってくれませんか?」

「はい?」

「その、デザインはかわいらしいし、ペンダント役に立たないかもしれませんけど……でも、ご迷惑じゃければもらってほしいです!」


 うーん、ありがたい申し出だけど、ちょっと困ったな。確かにいい盾だし、ペンダントもいい魔力が籠もっているんだが俺には使えそうにない。

 でもまあ、ここで遠慮したら彼女のためにはならないだろうし、正直に話そうか。


「悪いけど、もらえないよ。これ、あの二人のために作ったんだろ? ならカスタマイズもあの二人に合わせてるだろう? 俺とは魔力の波動が違って使えそうにないよ」

「大丈夫です! すぐにカスタマイズし直しますから!」

「え? し直すって、俺の話を聞いて――」

「ちょっと失礼します!」


 彼女は俺の意見を聞くことなく、唐突に身体に抱きついてきた。あまりにも唐突すぎて俺が驚き固まっていると、見ていた野次馬がピューピューと口笛を鳴らして茶化し始める。

 くそ、見世物じゃないぞ。


「なるほど、だいたいわかりました」

「え? わかったの?」

「はい。ちょっとクセがありますけど、このくらいなら調整できます。ではカスタマイズしますね」


 彼女はそう言って盾とペンダントを手に取る。その手から流れ始める魔力は、小さいながらも力強い。俺とは違って穏やかであり、だからこそカスタマイズする彼女の姿が綺麗だと思ってしまった。


 言うなれば、彼女は金色。何者にも穢せない美しい黄金だ。


「できました。これ、どうぞ」


 それは見事な出来栄えだった。

 完璧な調整がされ、まるで長年愛用でもしていたかのような手触り感がある。

 握り手もとてもしっくりきて、さっきまで彼らが使っていたのかと思ってしまうほどの完成度だ。


「すごいな、これ。ありがたく使わせてもらうよ」

「喜んでいただけて嬉しいです! 頑張ったかいがあります!」


 彼女は子供が褒められた時のように喜んでいた。まるで元気な妹ができた気分だ。

 そんなことを思っていると、彼女は唐突に「あのっ」と声をかけてきた。今度は何だろうか、と思い返事をするとこんなことを訊ねられる。


「もし、よろしければ名前を教えていただきませんか? その、私、もっとお礼をしたくて」


 どうやら彼女はこの程度で満足しないようだ。これ以上はもらったら気が引けるんだけど、まあこの空気は名乗れって言ってるよね。

 野次馬もニヤニヤしながら見ているし。


 できれば野次馬のいないところで教えたいもんだけど、まあ仕方ないか。彼女は待っているし。


「義川光介。ランクはさっきも言った通り、三つ星だ」

「ありがとうございます。私は小金井亜美です。ランクは、恥ずかしいことに一つ星です」

「そっか。でも君ならすぐに三つ星になれるよ。俺が保証する」

「あ、ありがとうございます! その、頑張ります!」


 彼女は笑っていた。それはなかなかにかわいらしい笑顔だ。

 俺はそんな小岩井を見て笑い返す。それが礼だと思うから、そうした。


「あ、でもこのもらった盾とペンダント。使えなくなったらどうすればいい?」

「私が直します! あ、なら連絡先を交換しましょうか?」

「おいおい女の子。そこは警戒しろ。俺が野獣だったらどうする?」

「光介さんはそんなことしません。絶対にそうです!」


 信頼してくれてて嬉しいよ俺は。でも、もっと警戒心を持ってくれないかな?

 しかし、連絡先を交換するのはいいとして盾がやばくなったら連絡するってのは面倒だ。できれば毎日見てもらいたいもんだけど。


 あ、そっか。その手間を省くためのいいシステムがあるじゃないか。


「小金井、パーティーを組まないか?」

「え?」

「パーティーを組めばいちいち連絡しなくてもいいだろ? まあ、毎日のように顔を突き合わせることになっちゃうんだけど、もしよかったら――」

「ぜひ! ぜひぜひぜひ! お願いします!」


 俺がパーティーを組む提案をすると小金井は食い気味に乗ってきてくれた。

 まあ、ついさっきパーティー追放にあったばかりだからな。そりゃ嬉しいだろう。


 こうして俺は小金井亜美を仲間にし、パーティーを結成した。まさかこれが、とんでもない結果を残すことになるなんて思いもせずに――


 この時の俺は、ただ喜んでいる小金井の姿を見て微笑ましく思っているだけだった。

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