彼を振り向かせるためのフランチェスカの10のレシピ(=戦略)

薔花

レシピ0 一目惚れしました

体に電撃が走ったかのような衝撃、とでもいうのだろうか。とにかく彼と目が合った瞬間、そのくらいの衝撃が体を駆け巡ったのだ。


あれは私、アルバーナ侯爵家長女のフランチェスカ・アルバーナが17歳の時。ちょうど輝かしいデビュタントを迎えた日のことだ。


舞踏会でどぎまぎしながらも何人かの男性とダンスを踊り終え、一人で初めての葡萄酒を飲みながら休んでいた時のこと。


--ここは、待ちに待った社交界。確かに煌びやかで大人への階段をひとつ上がったような気分だけど、それと同時に疲れる場所ね。さっきも何人かの男性と踊ったけど、みんながみんな話が合うという訳ではなくて、無理に笑ったりお世辞を言ったり…。短い間にどっと疲れたわ。


--だけど、もしかしたらここに将来の旦那様がいるかもしれない。皆目見当もつかないけど、とりあえず男性の顔ぶれを見て将来を想像してみるのをいいかも。


何せ17歳、恋に恋するお年頃なのでこのように突拍子もない考えが生まれてくるのも頷けはする。


そして視線を巡らせた次の瞬間、一際多くの女性たちが集まっている場所を見つけた私は、その中心にいる男性を見て、心臓が止まるかと思ったのだった。


とにかく顔が良かった。かっこいいというか、美しいというか。深い青色の瞳、女性から見ても羨ましくなるくらい艶やかな黒い髪は肩まで伸びていて、その上半分を団子状にくくっていた。所作にも余裕が感じられて、その場にいた貴婦人の手の甲に口付けをする、葡萄酒を飲む、それらの一連の動作が様になっていて、目を離せない。


あまりの美しさに惚けていたところ、突然、本当に本当に一瞬でしたが彼と目が合った、気がした。その一瞬で私は見事に恋に落ちてしまったのだ。


それからはあっという間で、別の場所で女性と談笑していた5歳上の兄、リヒト・アルバーナの元へ突撃して、体裁など気にせずに彼のことを問いただした。


そうしたら驚いたことに、


「あぁ、シリルのことね。シリル・ラフィット、公爵家の嫡男で一応友人ではあるけど。それがどうかした?」


「え、お兄様の友人? 年齢は、好きな食べ物、女性の好みは?」


なんと彼はお兄様の友人だった。


その事実に驚きつつもグイグイと詰め寄る私に、及び腰になるお兄様。もちろん私が悪いのだが、要領を得ない兄の様子に私はとうとう爆発してしまった。優雅な舞踏会の真っ只中だったから抑えめにしたつもりではあったけれど。


「あー、もう! ですから私はついさっきシリル様とやらに一目惚れしてしまったのです! 結婚するなら彼以外に考えられません。なのでお兄様が彼について知っていることを洗いざらい全て話しなさいと言ってるんです!」


とまあ、こんな感じ。我ながら興奮しすぎだったとは思う。多分この時が人生で一番と言っても過言ではないほど興奮していた。きっと兄も面食らっていただろう。いえ、実際にはもっと驚いていたに違いない。


まあ、そんなこんなで得られた情報をまとめると、


⚪︎兄と同い年の22歳

⚪︎剣の腕が立って、兄とはライバル的存在ではあるが、兄は最近負け続きであること

⚪︎昼には王宮のバラ園によくいる

⚪︎女性の好みは知らないけど、完全な女たらしだから恋人らしき人はしょっちゅう変わっている

⚪︎口が上手くて世渡り上手

⚪︎女性に迫られたら拒みはしないが、基本的に初心な女性とは恋愛関係になろうとしない

⚪︎今は伯爵家の娘ローザ・マクシミリアン(19歳)と特に仲が良い

⚪︎というかそもそも本当の意味で恋愛をしたことがあるのかわからない

⚪︎好きな食べ物はごめん、本当に知らない。強いていうなら女性、とか?(上手いこと言ったつもり)

⚪︎兄として忠告するが、やめておいた方が賢明だ。絶対泣かされるから。魔性だぞ、あれは


最後の方は忠告のようになっているものの、以上が彼についての情報。とはいってもこの私が忠告されたところで諦める訳がない。まだ行動を起こしてすらいないのだから。


兄の情報から感じたことをまとめると、


⚪︎彼を振り向かせるには一筋縄ではいかないだろう

⚪︎私は恋愛経験がない、つまり初心なので普通に迫ったところで他の人に埋もれてしまうだろう

⚪︎彼の目に特別な存在として映るためには多少なりとも手荒な方法を取る必要がある

⚪︎最初は様子を見て、自分なりに彼のことを分析してからそれとなく、自然な感じで、彼と親しくなれるような機会を生み出していけばいい

⚪︎そうすれば、彼が私に振り向いてくれる…はず


と、いう訳なので早速行動を開始することにした。


きっと彼を振り向かせることは私にとって天変地異を起こすくらい難しいと思うが、彼を振り向かせられる、もしくは完全にそれが不可能であるとわかるまで私は止まるつもりはない。私はそう心に決めたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

彼を振り向かせるためのフランチェスカの10のレシピ(=戦略) 薔花 @syokuka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ