第16話 風紀とは
「ルイスくん、待ちなさい!」
校門の前で、ルイスたちに立ち塞がる生徒がいた。
昨日、ドラゴンから助けたメガネの風紀委員である。
「あ、セシリーさん。なにか用?」
「風紀委員として、学校の風紀を乱すルイス・アルクスレイドを取り締まりに来たのよ!」
「え、ボクが風紀を乱した……?」
身に覚えがないので、首を傾げざるを得ない。
「君の姿が性的すぎて、勉学に身が入らないってクレームが来てるの!」
「意味が分からないよ……みんなと同じ制服だよ?」
「だからよ! いい、ルイスくん。この学校は今まで女子しかいなかったの。だから男子生徒ってだけで特別な目で見ちゃうの。それに加えて女装男子ですって? ふんっ、私たちの性癖を歪めてどうするつもりなの!? もうっ、改めて見ると腹が立つほど可愛いんだから!」
「ごめん……セシリーさんがなにを言ってるのかボクには分からない……」
「でしょうね! 分からなくてもいいわ。とにかく美少年は半ズボンを履くべきよ。さあ、持ってきたから着替えて! それでみんなの性癖が歪まずに済む!」
セシリーは制服の色に合わせた半ズボンを突き出してきた。
その勢いについていけずルイスはポカンとするしかない。
「待ちたまえ、風紀委員。それは正規の制服ではない。風紀を正すべき立場の君が、風紀を積極的に乱してどうする」
「いいえ、今のルイスくんを正すことこそ風紀を正すこと! 女子と見紛う美少年だからって女装させるのは浅はか! 美少年に最も似合うのは半ズボンよ! 私が持ってる薄い本にもそう描いてあるの!」
「ほう、君も薄い本の愛好家か……しかし宗派が違うようだ。私のコレクションはどれも女装した美少年だらけだぞ!」
「アリア様も薄い本を!? 王族のコレクション……きっともの凄い数……見たい……はっ!? 惑わされちゃ駄目よセシリー! 美少年にスカートなんて邪道。ただでさえ目の前に可愛い実物がいて惑わされてるのに、大量の薄い本を目の当たりにしたら覚悟が崩れちゃう! 美少年には半ズボン。風紀委員として譲れないのよ!」
ルイスは二人の言い争いの論点を完全には把握していないが、風紀委員は関係ないのではと思った。
「なあ、ルイスよ。風紀委員が口論に夢中になってる隙に、校門から出られるんじゃないのか?」
黒いモフモフの精霊が、もっともな指摘をしてくれた。
「二人とも、落ち着いてください!」
が、もう一人の精霊が口論に加わってしまったため、ルイスは帰るに帰れなくなる。
「二人とも、ルイス様を愛でる心は同じのはずでしょう!? なのにどうして喧嘩するのですか! 私には二人とも意地を張り、自分の気持ちを偽っているように思います。アリア様、ルイス様にスカートはよいものです。芸術とさえ言えます。が、半ズボンから伸びるルイス様の御御足も、それはそれで見てみたい。そういう気持ちが自分の中にないと言い切れますか?」
「う、それは……」
「セシリーさん。あなたが半ズボンを履いた美少年を愛しているのは疑いません。しかしスカート姿のルイス様にときめいたのも事実でしょう? 私はスカートのルイス様も、半ズボンのルイス様も、どちらも見たいです。そう認めてしまえば、心が楽になりますよ」
「た、確かに……私はルイスくんのスカートを見てキュンキュンしてる……けれど、だからこそ勉強に身が入らなくて……」
「半ズボンなら身が入るのですか?」
「入らない!」
「ならば同じことでしょう。スカートか半ズボンかではなく、ルイス様そのものが可愛すぎてしんどいのです。というわけで、ルイス様のその日の気分でどちらを着用するか決めてもらいましょう。それなら両方楽しめますし、今日のルイス様はどっちだろうと想像すれば、登校する楽しみが増えるというものです」
「な、なるほど! さすがは精霊だわ!」
「目から鱗だ。勉学に身が入らないという根本の問題は解決してないが、この際、ルイスを愛でられたらそれでいい気がする!」
そして三人は手を重ね合う。なにか深い絆で結ばれたようだ。
「いや、勉学は大事なのではないか……?」
マーナガルムの呟きは、ルイスしか聞いていない。
ルイスは自分が勉学を妨げるなどとは本気で考えていないので、なにも懸念していなかった。
アバターの着せ替え要素みたいで楽しそうだなぁくらいにしか思っていないのである。
一周目は剣士レベル100、二周目は魔法師レベル100、三周目は廃嫡王子レベル1 年中麦茶太郎 @mugityatarou
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