栄華・胡蝶 ~夢~

AIDA・F

栄華・胡蝶 ~夢~

 2023年7月3日水曜日。この日、世界中の人が眠りから覚めなかった。これは一人の青年の物語であり、彼だけが覚えている夢である。


 学校中に鳴り響くチャイム。授業が終わり、皆が解放されたと言わんばかりの笑顔を見せ、急ぎ足で下校する中、俺は一人教室に残った。先生との面談は嫌いじゃない。ただ内容が嫌いだ。

 

「おい八川、もう進路は決めたのか?お前ももう高校二年になるんだし、この先真剣に考えていかないと……」


 最近はこういう話ばかりだ。嫌になる。将来の夢、進路、それしか言えないのかと思うぐらいにずっとこうだ。もう、聞き飽きたな。


「おい、聞いているのか?」

「すみません、よく考えておきます」


 家に帰り、ご飯を食べ、風呂に入り、寝る。こんな毎日がいいと思う、いやこんな毎日でもいいと思っている。将来の夢はやりたいことがある奴だけが口にする。


「俺がしたいことってなんだろ」


 考えてもわからないことを考えながら布団をかぶった。


 目が覚め、朝になったと思ったが、目を開けるとそこは俺の部屋ではなく、真っ白な世界で見知らぬ女性がいた。


「やあこんにちは。私はこの世界を護っているエレス。気軽にエレちゃんって呼んでね。」


 変な夢だ。かなりリアルな夢。おそらく明晰夢だろう。ま、頬でもつねれば…… 。


「言っておくけど、夢は覚めないよ。ここは君の世界でもあり、私の世界でもある」

「俺の世界ってどういうことですか?」

「ここは私がみんなのために作った夢をかなえる世界。ほんとならここも君の夢でちゃんとした世界があるはずなんだけど、君は無いの?」

「無い、と思います。したいことがわからない。あるのかないのかも」

「そっか。じゃあ私の手伝いをしてよ。この世界の均衡を保つための」


 仕方がなかったのでついていくことにした。彼女は変なワープゲートを出し、そこを通った。すると、そこにはいろんな世界が見える、いわば管理室のような場所に着いた。


「じゃあ手伝ってほしいことを伝えよう。ここから見てるとね、赤いランプがついた世界が見える。そこに行ってその世界の主に苦難を与えるのさ。」

「ここは夢を叶えてくれる世界なんですよね?なんでそんなことをするんですか?」

「ナイス質問!理由は2つ。1つ目、苦難を出すことで達成感を与える。そうすることで人はさらに幸福になる。2つ目、そうしないと世界の均衡が崩れる可能性があるのさ。」

「なるほど。じゃあ苦難を与えるには何をすればいいんですか?」

「やけにやる気だね。お姉さん嬉しいよ。やることはその世界に入るとプリントと道具が渡されてそこに記されてる。方法もね。それをしてくれると大丈夫だよ」

「ここから見てると外国人の方も見えるのですが、俺英語苦手なんですかけど」

「安心して。言語はこの世界の力で通じるから。お、ちょうどランプ付きがきた。初仕事はこの世界を頼むよ。あと私からも質問いいかな?なんでそんなにやる気なの?」

「やる気があるわけじゃないです。ただすることが無いので。あなたはなんでこの世界を作ったんですか?」

「気まぐれさ。あ、もう1つ言っておくよ。君の知り合いもいることだろうし、君はニクスと名乗りな、この仮面もつけて。その方がうまくいくこともあるだろうし」

「わかりました。では、行ってきます」


 世界に触れると一瞬で吸い込まれた。俺は見覚えのある公園に突っ立っていた。目の前には机があり、その上には紙とリュックがおかれていた。これが彼女の言っていたものだろうと思い、リュックを背負って紙を読んだ。そこには『○×会社の書類を盗み、燃やせ』と書かれていた。とにかくやろうと仮面をつけ、会社のある場所に向かった。歩いてる中で気づいたが、ここにいる人はゲームのNPCみたいなもので、話しかけてみたが反応はなかった。歩いて20分ほどで着いた。会社の前で棒立ちになり、どうしようかと迷っていると、


「会社の誰かに用ですか?」


 頭の上に赤い光がついている男性に声をかけられた。おそらくこの世界の持ち主だろう。目的がばれるのは避けたいので、何も言わずそそくさと路地裏に逃げた。路地裏に行くと急に鞄の中から変な生き物が出てきた。


「な、何の生き物だ」


 つい言葉に出てしまった。


「私はエレスからの助っ人(獣)、メラロコ」

「メラロコ?変な名前だな」

「メ・ラ!ロコは語尾ロコ」

「なるほどな。てか助っ人なら侵入する方法教えてくれよ」

「少しは考えたのロコ?昼は人が多いんだから夜入ればいいロコ」

「じゃあ夜まで待つか」

「でも早くしないとバケモノに食われるロコ」

「は?なにそれ」

「聞いてないロコ?そのバケモノを殺す銃がそのリュックに入ってるロコ」

「これか。銃なんて初めて触ったよ」

「その銃で撃てばバケモノも一撃ロコ」

「撃ってみるか」


 試しに目の前に転がっている空き缶を撃ってみた。音はなく、空き缶が砕け散った。


「お見事!これなら大丈夫そうロコ」

「シューティングゲームで鍛えられてるからね」


 自慢気に言い、銃をしまった。そんな感じでメラと話しているとあっという間に夜になった。


「じゃあそろそろ行くか。そういえばどうやって侵入するの?」

「必要なものはリュックに全部入ってるロコ」


 リュックの中を漁るとテープとハンマーがあった。人がいないのを確認してガラスにテープを張り、ハンマーで殴った。そして人生初、法律を破り侵入した。書類室に向かおうと階段を上って行くと……。


「うわ!誰だ!何をしているんだ!ってあれ?君は朝に会った……」


 やばい状況だ。まさかここで世界の主に鉢合わせるとは。


「こ、こんばんわ。え~と名前はニクスって言います。実はここで父が働いていて、書類を取ってきてほしいと頼まれて」

「そうなんだ。苗字教えてもらっていい?そしたら持ってきてあげるよ」

「い、いや。あまり見られたくないものらしいので」

「じゃあ書類室に案内するよ」

「い、いや一人で行けます」

「一応会社のことだから、ついていくよ」


 引き離し作戦失敗。どうするべきなのだろう。目の前で燃やすにはいかないし、やっぱり書類を持ってどこかで燃やすしかないか。


「あの~。夢ってありますか?」


 ふと聞いてみたくなった。彼は何を叶えたいのか。


「僕は社長になりたいんだ」

「社長、ですか」

「そう。子供のころに憧れてね。絶対になろうって決めてたんだ。周りの人たちには笑われたりすることもあったけど。君の夢は何?」

「実は俺、夢がないんです。でも大人たちはそれを許してくれなくて」

「夢がない?まあ、そういう子もいるんだね。でもそれはこれから探していけばいいと思うよ。自分がしたいことなんて、いつか見つかるさ」


 とても驚いた。こんなことを言ってくれる人がいるなんて。俺は、この言葉が嬉しかった。


「ちょっと、どうするロコ?」


 小声でメラが話しかけてきた。


「この状況はどうしようもないから、書類を一旦持ち出して……」

「違うロコ。そっちじゃないロコ。もうすぐここにバケモノが来るロコ」


 するととてつもない爆発音とともに魔界の生き物みたいなバケモノが現れた。会社の壁が崩れ、外が見える。


「な、なんだよこれ!早く逃げないと!」

 

 彼がそう言った瞬間、彼は足元の書類で足を滑らせ、頭を打ち気絶した。


 「だ、大丈夫ですか⁉あ~、かなり怖いけど、これならやりやすい!」


 そういい銃を鞄から銃を取り出し、バケモノに向けて撃った。腕に命中し、左腕が飛び散った。


「おっしゃ!」

「調子になるなロコ!まだ奴は死んでないロコ」


 その瞬間、バケモノが左腕を振りかざしてきた。間一髪で避けられたが、次来たら危ない。


「メラ!あいつをやるにはどうしたらいい?」

「頭の上についている青く光るコアを撃つロコ」

「わかった!」


 階段を急いで走り、ドアを蹴り開け屋上に出た。


「おい、バケモノ!俺はここだ!」


 バケモノが勢いよく向かってくる。頭の青い光。


「見えた」

「あれがコアロコ。落ち着いてよく狙うロコ」


 深呼吸し、狙いを定めて引き金を引いた。するとバケモノの動きが急に止まった。


「おい、メラ。これはやれたのか?」


 そう質問した瞬間、この世のものとは思えない断末魔を叫びながらバケモノが消えていった。


「やれたようロコね」

「あ~、怖かった。じゃあ書類を燃やすか」

「いや、その必要はないロコ。下を見るロコ」


 ビルの端から覗いてみると、ぼうぼうとすごい音を立てながら会社が燃えていた。


「これなら書類も確実に燃えるロコ」

「な、これどうすんだよ。これ降りられないぞ」

「降りる必要はないロコ。どこからでも世界から出られるロコ。その役目は僕ロコ」

「そうなのか。じゃあ頼むよ」

「任せろロコ」


 すると体が薄くなっていき、気が付くと管理室にいた。


「お疲れニクス。お腹すいただろ。奥の部屋にご飯を置いてるよ。もちろんメラの分も」

「なあ、会社燃えたけどあの人の夢叶うのか?」

「大丈夫。彼に叶える気があるなら」

「そう、じゃあ食事をいただくよ」

「僕も食べるロコ!」


 奥の部屋でメラと食事を取ると、疲れていたのか部屋に会ったソファで気づけば寝ていた。後日、彼は会社を設立したそうだ。


 あれから二日が過ぎた。今は仕事がなく、ゆっくりとした日を過ごしている。


「おはようニクス」

「おはよう」


 エレスが作った朝食を食べ、ミステリー小説を読む。ここにきてから健康的な生活をおくっている。もうこのままでいいと思いそうなぐらい。午後はゲームをしよう。


「ニクス、仕事だ」


 楽しみにしていた計画的な午後は崩れ去った。


「え~。しなくてもいいんじゃない?」

「それはだめだよ。君がここにいるのは僕との利害が一致しているからだよ。君がしないなら暇で何もできない時を永遠に過ごすことになるけど」

「全身全霊で務めさせていただきます」

「じゃ、メラを連れて行ってね~」


 とは言ったものの、やはりやる気は出ない。まあ行くしかないのだが。そんな思いの中、寝ているメラを掴み、世界に入った。


「ニクス、いつまで鷲掴みにしているロコ?」

「おはよう」


 切れ気味口調のメラに軽く返した。辺りを見回すと少し見覚えのある風景が広がっていた。多分、俺が引っ越す前に住んでいた町だ。懐かしいと思いながら、紙に書かれた内容を見ようと思った瞬間。


「あれ?もしかして○×君?」


 遠くから話しかけられた。駆け寄ってくる彼女も何処かで見たことがある。バレないようすぐに仮面をつけ、紙をしまった。


「あれ?○×君じゃないの?」

「人違いじゃないですかね?私の名前はニクスです」

「じゃあ人違いか。すみません、では……」


 悲しげな顔をし、トボトボと歩いて行った。少し変だ。彼女の頭の上には赤い光が無かった。前はこの世界の持ち主以外は、自分から話しかけには来なかった。どういうことだ?


「なあメラ、さっきの子がこの世界の持ち主じゃないのか?」

「そのはずロコ。多分、設定に不備があったのロコ」

「設定って?」

「世界にはそれぞれ持ち主に合う設定があるロコ。まあ、持ち主がわかったから特に問題はないロコ」


 大丈夫ならいいかと思い、紙を取り出し内容を見た。『▽◇商店街の出口で事故を起こせ』今回のお題は少しハードそうだ。今回の鞄は大きい。中には油が入っている。これを撒けばいいのだろう。爆弾も入っているが、油を撒けば十分だろう。肩に掛け、昔通っていた商店街への近道を通っていた。この裏道なら俺しか知らないだろうし、人と遭遇しないだろう。


「あれ?さっきの。この道知ってるとは、裏道熟練者ですね」


 今日は予定がすべて崩れる。不吉だ。


「こんにちは、ここの道俺しか知らないと思ってました」

「私は昔、友達に教えてもらったの。その友達は引っ越してどこかに行っちゃったけど」


 もしかしてその友達とは俺なのでは?そんなわけはないな。もし昔よく遊んでいたあの子なら、俺のことを覚えているはずがない。ここにいるわけがない。


「では私は急ぐので」

「あ、ごめんね。じゃあね~」


 何とか引き離せた。そそくさと歩き、商店街の出口に着いた。商店街は人が少なく過疎化しているのがよくわかる。道路に油を撒き、メラを呼んだ。


「終わったから帰ろうぜ。早くゲームしたい」

「ダメロコ。事故を見届けないといけないロコ」


 舌打ちをし、近くの空き家の裏に身を潜めた。5分後、あの彼女が歩いてきた。そして反対側から車が来た。このままいけば大丈夫。車が油でスリップし、彼女にぶつかる瞬間、俺は無意識に走り出し、彼女を助けていた。ただこの瞬間は助けなきゃと、そう思っていた。


「何してるロコ!助けたら意味ないロコ!」

「仕方ないだろ、気づいたら体が動きだしてたんだから」

「均衡が崩れたらバケモノが来るロコ!」

「ねえ、助けてくれたのはありがたいんだけど、均衡が何?バケモノがどうこうって……その喋っているのはネズミ?」

「ネズミ⁉誰がネズミロコ!僕はメラロコ。それよりもやばいロコ」


 メラがそう言った瞬間、空が暗くなり、前とは違う人型のバケモノが降りてきた。


「まずいロコ!ニクス、その子を連れて逃げるロコ!」


 何が何だか分からなく混乱している手を引いた。


「早く逃げよう!殺される」

「え⁉うん」


 全速力で走り、商店街の入り口まで来た。


「ここから先は一人で逃げて。バケモノは僕が抑える」

「いや無理でしょ!君も早く逃げた方が……」

「あいつをやれる銃がある。ここは大丈夫だから早く!」


 彼女は納得したのか、走り去っていった。少し安心し、商店街の方を向き銃を構えた。二体のバケモノが歩いてくる。コアは両方、腹にある。俺が持っているのが銃だと分かったのか、バケモノは二手に別れ、距離を詰めてきた。右から来たやつが地面を殴り、割った。


「うわ、これはやばい!力が強い。それに加えて速い。メラ、どうすんだ?」

「やばいって自分で蒔いた種ロコ!とにかく片方を倒すロコ」


 右に気を取られていると、左のやつがジャンプで目の前まで距離を詰めてきた。バケモノは右腕を振り上げた。


「ここロコ!」


 メラの掛け声と共に腹のコアを撃った。おぞましい声が響き、灰になって消えた。


「あと1体か。1体になった分、やりやすい」

「この調子ならいけるロコ」


 右にいた方は、片方がやられたのを怒っているのか、声を荒げながら走ってきた。だが、真っ直ぐ来ても狙えばいいだけ……。銃を構えた瞬間、バケモノは左腕をコアの前に置き、防ごうとしてきた。


「まさか、学習してるのか⁉」

「そんなはずないロコ。そこまでの知性は無いはずロコ」


 驚きつつも、急いで距離を置いた。するとバケモノが先ほどの灰の中からコアの欠片を取り出し、喰った。すると腕が四本に生え、狂気の笑みでまた近づいてきた。


「ハハッ、ここまでくると笑えてくるね」

「どうするロコ?本当にまずいロコ!」

「大丈夫、もう策は打ってる。余った油を撒いた。これがうまくいけば……」


 メラが不安そうにしてると、バケモノが走ってきて滑ってこけた。その隙を狙い、腹を撃った。今度こそ仕留めたと思ったが、左腕二本をうまく使い飛び上がって躱した。


「バケモノが!」


 切れ気味に叫んだ。俺はバケモノに一瞬で間合いを詰められ、ボディブローを入れられ、近くのタワーマンションまで吹き飛ばされた。周りが霞んで見え、メラの声も聞こえにくい。口の中が気持ち悪くなり吐き出した。


「ウェッ、吐血かよ。頭から血も出てるし、腹いてえ」


 バケモノはゆっくり近づいてくる。落ちついて考えろ。銃はさっきので吹き飛ばされた。鞄の中にはまだ爆弾が入ってる。これだ!


「メラ、悪いけどあいつを引き付けて。2、3分稼いでくれればいい。準備ができたら叫ぶから、そしたらまたここにきて」

「3分とか無理ロコ!もう諦めてこの世界から出るロコ!」

「頼む!してくれたら好物のシャトーブリアンをたくさん作ってくれるようにエレスにお願いするから!」


 メラはよく考え、天秤がシャトーブリアンに傾いたのかよだれを垂らし始めた。


「じゃあメラ、頼んだぞ!」

「任せるロコ!」


 俺が左に走り出したと同時に、メラはバケモノを変顔で挑発し奥に飛んで行った。バケモノも追いかけて行った。俺はホテルの柱に1つ1つ爆弾を付けていった。さすがタワマン、すぐに準備ができそうだ。一方メラは、階段を2階、3階と登りレストランフロアを入りまわっていた。


「ギャ~!やっぱり受けるんじゃなかったロコ!でもシャトーブリアン食べたいロコ~!死にたくないロコ~!」

「#▽◇$○~!」

「何言ってるかわかんないロコ~!」


 バケモノの攻撃を躱していた。バケモノはしびれを切らしたのか、一気に距離を詰めて拳を振り上げた。メラが泣き叫んだ瞬間。


「メラ~!できたぞ~!」


 バケモノが叫び声に気を取られているうちに、メラは待ってましたと言わんばかりに隙間を抜け、一階のフロアに飛んできた。その後ろにはバケモノ。


「急げメラ!」

「ぬ~!」


 メラが抜けた瞬間、爆弾のスイッチを押した。地下一階に仕掛けられた爆弾が一斉に爆発し、タワマンが崩れ始めた。バケモノは崩れた床に足を取られ、下敷きになった。


「離れていてよかったな。この勢いだと巻き込まれてた」

「こんな策、博打すぎるロコ!まあ、倒せたからいいもいいもの」

「じゃあもう帰ろうぜ。シャトーブリアン食おう」


 呆れたように笑うメラと笑いあい、グッと力を入れて立ち上がると、目の前にバケモノが立っていた。腕が2本しかなく、おそらく別の個体なのだろう。そして左腕には、彼女の首がぶら下がっていた。沸々と怒りがこみ上げ、気づくたときには走り出していた。


「殺してやる!殺す!死ね、死ね!」

「やめるロコ!もう遅いロコ。この世界は崩壊する、から早く帰るロコ!」

「知るか!俺はあいつを殺すんだ!」

「こうなったら緊急帰省ロコ!」


 その後の記憶は無く、目が覚めるとベットの上にいた。


「起きたかい、私も想定外のことだったよ。あまり気に病むことはない」

「彼女は、どうなりました」

「亡くなったよ。この世界でも死ぬと、現実でも死亡してしまうんだ。本当に気にすることはないよ。これは私の責任」


 俺は泣き叫んだ。エレスは俺を抱きしめ、慰めてくれたっぽいが、何も聞こえなかった。


 2016年6月30日、小さな事故が起きた。ここからは少し、小さな男の子と女の子の話になる。

 俺はいつものように学校が終わった後、ランドセルを部屋に投げ入れ、遊び場に向かった。

 

「○×く~ん、遅いよ~」

「ごめ~ん」

 

 この女の子はRちゃん。2人でよく遊んでいる。公園で追いかけっこをしたり、ブランコを漕いだり、商店街に遊びに行ったり。家が近く、両親も仲がいい。Rちゃんの両親は夜遅くまで働いていて、たまにお泊り会をしている。今日も鬼ごっこをし、いつものように家に帰った。

 次の日。


「お前いつもRちゃんと遊んでるよな~。もしかして付き合ってんの?」

「そんなんじゃないよ~。仲がいいから遊んでんの」

「お似合いなんだから付き合っちゃえよ。はい付~き合え、付~き合え」


 周りにいたやつらもコールし始めた。最初は笑って誤魔化そうとしたが、今までも似たようなことを言われ、流石にイラっと来た。


「やめろって、誰があいつと付き合うんだよ! 」


 その瞬間コールが止み、後ろにRちゃんが突っ立っていた。Rちゃんは少し微笑み、走り去っていった。俺はただ漠然とした。コールしてたやつらは焦って誤ってきたが、何も頭には入ってこなかった。


 あれから1か月、Rちゃんとも疎遠になり、遊ぶことは無くなった。今日も学校から帰って部屋にランドセルを投げ入れ、プレステを起動した。夕方、親に大事な話があると言われた。


「実はお父さん、転勤することになったんだ。来週には引っ越すことになる」

「え、みんなにはもう会えないの?」

「そうなる。だからみんなにはそれまでに挨拶しておきなさい」

「急なことでごめんね。お母さんも悩んだけど家族は一緒に居たいと思うし、ほら向こうでも友だちはできるわよ。でも、Rちゃんとは仲直りしておきなさい」


 その後はすぐに布団に入り込んだ。親は何でも知っているんだなと思った。みんなと居られるのもあと1週間、Rちゃんと仲直りできるのも。次の日から、僕は仲のいいクラスメイトとたくさん遊んだ。ドッジボールや鬼ごっこをした。引っ越すこと言わないことにした。俺に対するみんなの態度や目が変わるのは嫌だったから。このまま楽しく過ごしたい。Rちゃんとは遊ばなかった。

 引っ越しの前日、学校からの帰り道、歩道の向こう側にRちゃんが見えた。俺はもうここしかないと思い、叫んだ。


「Rちゃん、この前はごめん!俺、Rちゃんのこと好きだから!」


 Rちゃんは驚き、頬に少しの涙を浮かべ叫んだ。


「私も○×君のこと、大好き!だから、遊ぼう?」

「うん!」


 俺たちは泣きながら笑っていた。Rちゃんと、やっと仲直りできた。公園に行こうと指をさした。Rちゃんはガードレールを飛び越え、こっちに駆け寄ってきた。その時、Rちゃんはトラックに跳ねられ、何mも飛ばされた。


「Rは、うちの子は大丈夫なんですか?」

「落ち着いてください奥さん。命に別状はありません。しかし、脳の損傷が見られ、意識が戻らないかもしれません。」

「そんな、じゃあもうRとは話したり、出かけたりもできないんですか?」

「そういうわけではありません。その可能性もあると知っておいてください。今、国立医療大学の先生に何とかならないか相談しています。あの先生は脳治療のプロでして...」


 そんな話が行われている中、俺はベットに横たわったRちゃんを見ていた。


「覚えてる?遊んでて君が溝に落ちた時。君はもう出られないって泣いてたよね。その時に俺が君とした約束。『何があっても絶対助ける、守る』って。俺、守れなかったよ。ごめんね」


 俺はベットに泣き崩れ、いつの間にか眠ってしまった。目が覚めると家に居た。

 今日は学校に行き、みんなに挨拶をして引っ越した。Rちゃんの両親にも挨拶したが、何を言い、何を言われたか、覚えちゃいなかった。引っ越し先の家で荷解きをし、プレステの電源を付けた。無心に、ステージを周回した。ふと窓の外を見た。天気は晴れていたが、明日は雨が降るらしい。

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