お父さん臭い

ばたっちゅ

お父さん臭い

「お父さん臭い! もうお父さんの服と私の服を一緒に洗濯しないで!」


 それまで大事に大事に育ててきた娘から、突如として布告される死刑宣告。

 俺はそんなに臭いのか!? 汗? 加齢臭? なんで? 色々と悩んだ方もいらっしゃるかもしれません。

 欲しい物も買えず、趣味を諦め、朝早くから出勤し、上司に頭を下げ、取引先にも頭を下げ、部下に気を使い、女房の機嫌を取り、夜遅くまで黙々と働いてきたのは何のためだったのか。

 そこまでして頑張ってきたのに、いきなり受けるこの仕打ち。一体何が原因なのか!



 もう理由に関しては今更ですが、それはご自身が出しているフェロモンによるものです。

 まあそこまでは様々なメディアでも紹介されていますが、どうも限られた時間の中での説明になるのか、色々と中途半端に感じます。

 そこで今回、その辺りをちょっと解説してみようと思います。


 あ、因みに科学の世界は日進月歩。医学もやはり同様です。

 私は子供の頃は、体の制御は全て脳がやっていると思われていたものです。

 独立した器官は心臓と何処でしたっけ? まあそんな教育を受けて来ました。

 でも今は違いますね。臓器を始めとした各器官は、それぞれ独立して活動しているというのが現在の通説です。

 そんな訳で、これから変わったり、もう変わっているところもあるかもしれませんが、そこはご愛嬌という事で。





 さて、女の子が二次性徴を始めると、妊娠可能になった事を知らせるフェロモンを出し始めます。

 そのフェロモンを父親である貴方が受け取ると、近親相関を避けるために自分を嫌うためのフェロモンを大放出します。

 これが父親を臭いと感じ、また嫌う原因になっているわけですね。

 いやそんなのいらない。娘ともっと仲良しでいたい。そう考える気持ちもわかりますが、これは大事なシステムなのです。


 妊娠可能になったとはいえ、まだまだ精神的に未熟な頃。自分を大切に守ってくれる大人の異性に恋をしてもおかしくはありません。

 でもそれはダメ、絶対にダメ。なんとしてでも防がないといけない訳ですよ。


 基本的に、人間は近親交配が出来ないようになっています。

 より正しく言うのであれば、出来ることは出来るのですが危険リスクが大きすぎるのです。

 少なくとも、生まれてくる子供はほぼ確実にアウト。出産の負担を考えると母体の方も危ないですね。

 そんな危険リスクを避けるためにはどうすればいいのでしょうか?

 はい、嫌われてしまうのが手っ取り早いという訳ですね。



 少し余談ですが、この嫌われる為のフェロモンは、娘ほどではないにしろ息子にも作用します。

 巣立ちを促す意味が含まれているからですね。

 人間に限りませんが、生殖可能になった時点で巣立ちするのは生物としては当たり前です。近親種ばかりでコロニーを作っても何の意味もありませんからね。

 単刀直入に言えば、さっさと巣から出て独立するか他の巣に入れという訳ですよ。


 とはいえ、現在の法ではまだ児童。追い出すことは出来ません。

 ちょっと横道に入りますが、ある程度の年代の方は赤とんぼの歌はご存知と思います。

 昔は教科書の定番でしたからね、大概の人がまだ歌えるのではないでしょうか。


 ですが今は、この歌は教科書から追い出されています。もう完全にご禁制。

 著作権の関係で歌詞は書けませんが、要はお姉さんが15歳で嫁に行ったよという部分が現在の教育にそぐわないからです。

 そりゃそうでしょう。18歳以下に手を出すのはロリコンで変態。そう教育している横で、お姉ちゃんは15歳でキャッキャウフフとは歌えません。


 たまに本気ガチで教育を信じ込み、ロリコンは人間だけの病気、自然界では見られないとか言っちゃう痛い人もいますが、そんなわけないでしょう。

 生殖可能になったら独立して雄雌つがいになって子孫を残す。人が人間である前から数十億年続けられてきた生き物としての当たり前。それが常識だった頃から、まだ百年も経っていません。

 人間社会の常識など、100年ほどの教育で簡単に書き換わるという良い例ですね。


 いや実際に手を出したらそれはヤバい人ですよ。

 ただそれは、生物としてヤバいのではなく、法を守れない所がヤバいのです。



 さて横道から戻りますが、そんな訳で子供――特に娘は、この父親からの『自分を嫌え』フェロモンにより物凄いストレスを感じているわけです。

 しかも巣から逃げる事は許されません。かなりきついですね。娘の繊細なライフはもうゼロと言えるでしょう。

 いきなり心無い言葉を浴びたとしても、そこはそれ、自然の摂理によるものです。しっかりと受け止めるのが父親の器量というものではないでしょうか。



 と、ここまでの時点で、いや、うちは娘とそんな事にはなってないよ。単に良い親子関係を築けていなかっただけじゃないの? と言う方もいらっしゃいます。

 更には、娘が異性として自分の事が好きかもしれないムフフみたいに言い出す怖い人がいたりもします。


 まあ結論から先に言えば、それ托卵です。


『たくらん』と読みます。必要になるかは分かりませんが、覚えておきましょう。


 貴方と奥様の間には血縁関係はありません。

 そしてその娘の種元となった男と貴方との間にも血縁関係はありません。

 当然、生まれてきた娘は赤の他人。匂いの元はあくまで近親相関を避けるために出しているフェロモンですので、赤の他人には関係ないわけです。

 思春期になった娘と仲良しこよし。自分は良い父親だなあと思う事でしょう。


 でももう一度言いますが、それ托卵です。


 近親相関を防ぐフェロモンって、すごい強力なんですよ。弱かったら大変ですね。


 実はこれ、娘も同様に出しています。

 妊娠可能のお知らせを? それはもう聞いた……ではありません。

 娘は貴方や兄弟に対し、性欲を抑えるフェロモンを出しています。


 自分の娘に欲情するとかありえないでしょ?

 大抵の人はそう言いますね。


 歳の差があるからですか?

 いいえ、それは違います。年の差婚とか結構ありますしね。


 娘に欲情しないのは、この『娘が出す近親相関を避けるフェロモン』による効果です。

 親子ほど年の離れたアイドルには欲情するのに、実の娘には欲情しない。

 娘が可愛くないからですか?

 いえいえそれは違いますね。可愛さが影響するのであれば、そのアイドルの父親は大変ですよ。


 そう教育されているから? 

 いやいや、そんなの教育どころか知性も無い獣の頃からそうですね。

 それ程に強力な、意思すら捻じ曲げるフェロモン。

 その効き目を実感したお父さんは、改めて前途の『自分が嫌われる為のフェロモン』の強さも考えてみてくださいね。



 ちなみにですが、この『娘が出す近親相関を避けるフェロモン』は当然の様に兄弟にも効果大です。

 何といっても、親子ほどに年の離れた……というか親子だから当たり前ですが、そんな年齢差もなくこちらは青春真っ盛り。やりたい同士の雄と雌。何の制約も無く放っておいたら即交尾ですからね。


 また一方で、当然の様に男の子も姉妹の性欲を抑制するフェロモンを出しています。

 わざわざ巣立ちを促す理由もないのでそちら方面は弱いですが、性欲抑制はやっぱり強力です。理由は同じですね。


「あんな素敵な姉(妹)と一緒に暮らしていてよく平気だな」なんて台詞は創作の中だけでなく現実でも聞いたりしますが、当の本人は本当に平気なのです。


 ただ当たり前ですが、異性の兄妹(姉弟)と一緒に暮らしていると、その間ずっと性欲を抑制されっぱなしになります。

 発散できず精神的にも変調をきたす例もありますので、少々留意した方が良いかもしれません。


 ただ、当然片方が托卵の場合。いや両方でも一緒ですが、この場合は互いのフェロモンは機能しません。ただの男女でありますので、当然一線を越えることも考えられますね。



 どうでもいい話ですが、一度籍に入れた場合、親子の場合は血縁関係が無かったとしても絶対に結婚できません。

 ただし兄妹(姉弟)の場合は、血縁関係が無いことを証明できれば肉親関係の解消が可能です。まあ、この時点で法改正されていなければですが。

 もし幼女を引き取って自分の嫁にしようと計画しているのであれば、戸籍は娘ではなく兄妹にしましょうね。



 さて脱線から戻りましょう。

 前途のように、父親は近親相関を避け、巣立ちを促すために全力で嫌われようとフェロモンを出しまくっているわけです。

 そして女の子は父と兄弟の性欲を押さえつけ、また男の子は母親と姉妹の性欲を抑制しています。

 三者三様に互いの本能を抑え込もうと頑張っているわけですので、当然家庭内はストレスMAX状態です。精神的にも、色々と来るものがあると思います。

 でも追い出すことは禁止です。子供が教育を受ける権利を守る為に、そう決めたのですから。

 一番良いのは中学生辺りから全寮制にでもするのが一番ですが、まあ難しそうですね。主に福祉予算の関係で。





 ここまででアレ? と思った方もいるかもしれません。

 母親はどうした? ですよね。


 はい実は何も出しません。

 父親と息子、娘が互いに牽制し合う中、母親だけがのほほんと我が道を進んでいます。

 これは万が一の時のセーフティと考えられています。

 もうそこまでしないと子孫を残せない状態になった時、出産という実績がある人物に、最後の命運が託されるわけです。

 そこで人類が亡びるかどうかというね。


 ちなみに、あらあらうふふ、若いツバメを食べ放題なのねと考えたマダムの方、一応残念なお知らせです。

 こちらはフェロモンではなく本能のレベルで、ある程度の年齢差があると雄は欲情しないようになっています。

 そう、子供が母親に欲情しないのは、もう生物としてそうなっているからなのです。


 年齢差は大体一世代分ですが、今の教育による一世代ではなく、本能レベルの一世代ですよ。

 つまり14~15歳区分けですね。

 もし今の貴方が35歳だとすると、20以下のオスは貴方をメスとは見ていません。同世代同士でつがいになるように、本能が制約を掛けているわけですね。

 最後の最後、追い詰められて無理やりやろうと思えば可能ですが、普段はもう女性としては見られていない事を自覚すべ……いや、止めておきましょう。


 まあ今は、昔に比べて栄養豊かで重労働も少ない良い環境です。

 その為、30超えても若々しい方も沢山いますからね。この年齢差は実際にはもっと広がっていると思いますよ。


 因みにこれはメスだけ。オスは繁殖能力に加え、今では経済力やもろもろあれば年齢差に特に制限はないようです。

 頑張ってくださいね。





 さてぐるぐると寄り道して予定より長くなってしまいましたが、もし思春期になった娘に嫌われても――いや、嫌われたからこそ安心しましょう。誇りましょう。

 それは間違いなく、貴方と貴方が愛した方との間に出来た娘なのですから。

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