目玉焼きに何をかけるか論争

みょめも

目玉焼きに何をかけるか論争

台所に立つ男は苦悩していた。

腕を組み、フライパンの方をじっと見ている。

目線の先にはフツフツと焼ける目玉焼き。

その目玉焼きに何をかけるべきか悩んでいたのだ。


朝起きて、「今日は目玉焼きにしよう。」と決めていた。

仕事のある日には、白米と味噌汁と決めているのだが、その日は休日。

こんがり焼いたトーストと目玉焼きが良いのだ。

そんな事を考えながら台所に立ち、いざフライパンに卵を割り入れたときから、かれこれ数分は考えたままである。


考えても仕方ないので、男はとりあえずの調味料を調理台に置いた。


醤油。

ソース。

塩コショウ。

ケチャップ。


とりあえずこんなところだろう。


「さて、どうしようか。」


男の声を聞き、醤油が答えた。


「迷うのでしたら、私をかけるとよい。幼少期から目玉焼きは醤油で育ってきたではないか。」


「いやいや、それを言うならソースでしょう。この前、目玉焼きを食べた時にはソースをおかけになった。」


そうソースが反論した。


「ぬっ、おぬし!ソースなどと言う外国のものを使ったのか!?母君からあれほど醤油で育てられておきながら!それこそ今後は醤油のみで!」


醤油ボトルとソースの容器がにらみ合い、キャップとキャップをゴツゴツとぶつけ合っている。


確かに醤油もソースも捨てがたい。

他の調味料はどうか見てみる。


こういう時、塩コショウはあまり主張しない。

醤油とソースのにらみ合いを見るわけでも目玉焼きを見るわけでもなく、肩についた塩コショウをパッパッと手ではらっている。


ケチャップは「今回は私が出る幕ではないと思います。」と、やや控えめだ。

場違いですと言わんばかりに恥ずかしそうにしている。

顔も少し赤い。


こうなると、醤油かソースのどちらかになるが、男はまだ悩んでいた。

この2人の決着がつくまで見ていようかとさえ思っていたその時、妻が起きてきた。


「目玉焼きじゃない。美味しそう。」


妻は丁度良い焼き加減になった目玉焼きを皿に移し、冷蔵庫からボトルを取り出した。


そして躊躇なくそれをかける。


それは、焼肉のタレだった。

ニンニクとフルーツの香る焼肉のタレがドボドボと目玉焼きにかけられる。


目玉焼きは、嬉しそうだった。


そこで男は気付いた。

何をかけるかばかり考えていて、目玉焼きが何をかけられたいかなんて、ちっとも考えていなかった事に。


目玉焼きを頬張る妻。

その姿はとても美味しそうだった。


男は、自分の目玉焼きが食べられた事に気付いたが、別によかった。


台所では醤油とソースの醜い争いがまだ続いている。

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目玉焼きに何をかけるか論争 みょめも @SHITAGOD

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