軌跡の再振り

@56404

第1話

僕は夢を見ていた。

内容は、主人公がタイムスリップをして、事故に遭うヒロインを助け出すものだ。

多分、昨日見たアニメの影響だろう。

僕は三人称視点で、主人公とヒロインを見ながら、ため息をつく。

目が覚めると、いつも通りの一日が始まる。

学校に行き、帰って来たら、アニメを見て寝るという生活。

別に特別アニメが好きというわけではない。

それしかやることがないから

見ているだけだ。

学校の帰り道に、今朝見た夢を思い出す。

現実はあんなに上手くいかないんだよなぁ、と本日二度目のため息をつく。

早く帰ろうと思い

歩調を早めようとした瞬間、

「そこの君、ちょっと待ってくれないかい?」

と後ろから、声を掛けられる。

......多分知らない人だよね。

僕は、その声を無視して、歩を進める

「ちょっと待てぇぇぇぇー」

いつの間にか回り込んだそいつは、壁のように僕の前に立ちふさがる。

面倒くさいな……

「僕は、宗教勧誘とかには興味ないので、

あの、さよなら」

駆け足で、そいつの横を取り過ぎようとしたら、肩を掴まれる。

「怪しい物じゃないから、ちょっと待ってくれないか」

「いや、そんな怪しいマスクつけてる人に言われても」

心の声が漏れてしまった。

「うーん、確かに不審者に見えるかもなぁ、でも正体を明かすわけにはいかないし」

そいつは、ぼそぼそと独り言を言っている。

今のうちに逃げられるのでは?

僕は忍び足で、その場を離れようとする。

「神崎 新田。18歳の高校生。臆病で人見知り、部活動は入ってなくて、最近はアニメをよく見ているのかな?タイムスリップ能力を使えるけど、使った事はない。あとは……」

背筋が凍りつく。

この人は、いったい何者なの?

ただの不審者じゃないよね?

タイムスリップ能力に至っては、家族しか知らないはずだし。

「何が目的なんですか?お金ですか?誘拐ですか?」

多分違うと思いつつ、相手の回答を待つ。

「そんなことはしないよ。ただ、頼みたいことがあるんだ。話を聞いてくれるか?」

反応的に噓は言ってないのだろう。

でも、わざわざ姿を隠して接触してきてるし、僕の個人情報も持ってる。

話だけでも聞くべきかな。

僕は、無言で頷く。

そいつは、待ってました!と言わんばかりの口調で語りだす。

「神崎くん、世界を救って欲しいんだ!」

は?もう帰ろうかな。

もしかして、本当にただの不審者?

そんな臭いセリフ、アニメとか漫画でしか聞いたことないよ。

不安とか警戒心を通り越して、あきれてきたよ。


あれ?なんで、こんなあきれられた顔されているんだ?

中高生は皆、こういうセリフと展開好きなんじゃないの?

少なくとも、僕はすきだぞ?

あ、ちょっと待って帰らないで、お願いします。

僕は彼の腕を掴む。

「ちゃんと説明するから、話だけでも聞いてほしい」

出来るだけ真面目な表情で引き留める。

彼は渋々聞いてくれるようだ。


これでどうでもいい話なら、通報してやる。

そいつは今までの会話が噓だったのかと思わせるような、真面目な表情で語り始めた。

「君はニュース見てる?今、日本は毎日他国と戦争してるってことぐらいは知ってるよね」

そいつは、少し小馬鹿にしたような顔で聞いてきた。

「それぐらいは誰でも知ってるよ。資源不足だから、仕方なくやってるんだよね」

「もし、そうだったらまだいいんだけどね。」

目の前の仮面男は悲しそうなで空を見上げた。

「僕はこの戦争にはもっと別の理由があると考えているんだ」

「別の理由?」

「そうさ。歴史の授業で習ったと思うけど、日本は元々、資源が全然取れない国だ。昔から外国の輸入品に頼っている。だから、資源不足と言う表現はおかしいと思うんだ。」

確かに、今までそんなこと考えたこともなかったが、不可解なことが多い。

外国からの輸入を止められたとか、何かしらの緊急事態とか、色々理由が有りそうなのに、

政府は資源不足の一点張りだ。

「単刀直入にいう。そう遠くない未来で日本は戦争に負ける。そして戦争に負けた日本は、植民地に近い扱いを受け、滅びる。君には過去の日本にタイムスリップしてもらって、戦争が起こるのを未然に防いでほしい。始まってしまった戦争を止めるほど、僕たちは力を持っていないからね。あわよくば、戦争をすることになった理由を調べてほしいんだ。」

仮面男はそう言うと、頭を下げて深いお辞儀をしてきた。

一度に沢山の情報が脳に入ってきたので、情報を処理しきれない。

僕が戦争を未然に防ぐだって?無理に決まってる。

物凄いプレッシャーが僕に襲い掛かる。

僕にできるわけない、失敗したらどうしよう、過去改変をしたら僕はどうなるんだ?

心配事があると、悪い方向にしか考えられなくなる。

僕の悪いところだ。

ただ、それ以上に誰かに頼られるのが

嬉しかった

気がつけば僕はうなずいていた。

仮面男は安堵のため息をして

「次に繋げることが出来たよ」

と言って消えていった。

家に帰り、今日起こった不思議な出来事を思い出す。

なんで引き受けちゃったんだろう。

後悔しかない。

いや、そんなことを考えても仕方ないか。

むしろ、皆が一度は憧れるであろう、タイムスリップを使う理由ができたんだ。

もし、あの仮面男が来てくれなかったら一度も、この能力を使わないで人生終わってたかもしれない。

こういう状況で初めていい方向に物事を考えられたかもしれない。

そういえば、どうやって過去に戻るんだ?

一番大事なことを聞き忘れた。

親に聞けば教えてくれるかも知れないけど、戦争を未然に防ぐために使うとかいったら……

想像するだけで、頭が痛くなる。

ふと、肩に何か付いていることにきずく。

メモ帳の切れ端かな。

切れ端を見ると、最後の行に【謎の仮面男】より、と書いてあった。

最初に肩を掴んできた時に貼ってたのか。

全く気付かなかったな。

もし僕が断っていたらどうするつもりだったのかな。

感心する気持ちと、呆れる気持ちが

混在している。

メモの本文に目を通す。

文章長いなぁ、大事な部分だけ、別のメモ帳にまとめる。

その一

・戻るまでの年の合間合間で止まりその年の事件を解決しないと、次の年に進めない。

その二

・戻れる時間は、自分の親が18歳以上の時までで、20歳を過ぎると、タイムスリップを使えなくなる。

その三

・過去に戻るにはいくつか条件がある。

 ①自分の姿を誰にも見られてないとき

 ②精神が落ち着いている時

戻り方

頭の中で戻りたい年数を思い浮かべて、その年に関係する者や人、風景を想像する。


なるほどねぇ。

自分は18歳で両親は48才だから、最高で30年は戻れるのか。

戦争を未然に防ぐのが目的だから、とりあえず30年戻ったほうが良いよね。

よし!じゃあ早速行くか!

......やっぱり心配だから情報収集から始めよう





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

軌跡の再振り @56404

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る