第27話 野宿は初めての経験だ

 野宿は初めての経験だ。

  

 地面が固くて寝られないんじゃないかと心配したけど、思ったより寝心地は悪くなかった。ガーネットと身を寄せ合って毛布をかぶり、うとうとしているうちに、気がついたら夜があけていた。

  

 目覚めると、そばに毛玉みたいなものがある。何だろうと思ったら、ファンがわたしのそばで寝ていた。

  

 わたしはそっとテントから抜け出す。

 顔を洗いたかったけど、ひとりで川に行ってうっかり流されたら困る。そのうちにガーネットが起きてきたから、一緒に朝陽を眺めた。

  

 ガーネットが言う。

「わたし、こんなところで寝られないんじゃないかと心配だったけど、グッスリ寝ちゃった」

「あはは、わたしもだよ。たぶん、歩き疲れていたんだと思う」

  

 少年たちも起きてきた。

「おはよう」

  

 さぁ、探検二日目の始まりだ。

  

 わたしは川の水を鍋でわかして、みんなにお白湯を配った。それからビスケットで簡単な朝食をとると、荷物をまとめ、上流に向けて出発した。

  

 ところどころ木や岩にさえぎられながらも、うまい具合に川沿いに歩き続けることができた。

  

 そして昼前。

 わたしたちの先を歩いていたファンの姿が見えなくなったと思ったら、突然に視界が開けた。森を抜けたのだ。

  

 そこに広がる景色を見たときの感動は、ちょっと言葉では言い表せない。


 目の前に水平線が広がり、水面がキラキラと陽光に輝いていた。

  

「すごい」

 思わずそんな言葉が出た。

  

 ファンも興奮したのか、水辺で走り回っている。

  

 サーヴィスが言った。

「まるで海のようだな」

 ブリアンが答える。

「そうだね。海みたいに大きいけど、違う。これは海ではなくて、湖だ」

  

 ここが川の水源だった。

  

 湖はかなり大きい。だって対岸が見えないんだよ。


 わたしは原作を読みながら、気になって大きさを確認したことがある。長さが書かれていたから。もし日本にあったら、琵琶湖ほどじゃないけど、面積でベスト5に入るくらいの大きさだった。


  ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎

  

 わたしたちは湖のほとりに座り込み、コンビーフを食べながら、この後の動きを相談した。

  

 ブリアンが言った。

「先に進むよりも、このあたりを調査しよう。住むところが見つかるかもしれない」

「賛成だね。引っ越し先として、ここより良い場所はなかなかないと思うよ」

 サーヴィスも言った。

  

 湖のほとりは広場のようになっていて、運動だってできそうだ。

 何よりも豊富な水を利用できるのがいいよね。水鳥もいる。森が近くにあるから、食料も調達できそうだ。

  

 ここが島なのか大陸なのか、まだ結論は出ていないけど、引っ越し先を決めることを優先した方がいい。みんなはそう結論づけた。

  

 さあ、いよいよだ。

 わたしはこのあとの衝撃的な展開を想像して、内心ドキドキする。

  

 ネタバレなんだけど。原作の展開を打ち明けるよ。

  

 この無人島には、実はスラウギ号よりも五十年くらい前に、別の漂流者がいたんだ。


 みんながこのあと発見する洞くつは、実はその漂流者が暮らしていた隠れ家の跡なんだよね。


 そして——。

  

「おい、みんな、あれを見ろよ!」

 湖のほとりを調査していたとき。

 ドノバンが突然、声をあげた。


 彼が指さした先には、なんと船の残がいがあった。

  

 草原に船の残がいが転がっている。それほど大きなものじゃない。人間の背たけくらいだけど、異様な光景だ。

  

 ガーネットが悲鳴を上げる。

 わたしはガーネットの手をギュッとにぎった。

  

 ドノバンとウィルコックスが近づいて残がいを調べる。

 ブリアンとサーヴィスは猟銃を手に周囲を警戒した。

  

 ウィルコックスが言う。

「かなり古いな。何十年も前のものだ」

 ブリアンが質問する。

「どんな船か、わかるかい?」

「塗料が残っている。イカダじゃない。ちゃんとした帆船だ」

  

 サーヴィスが言った。

「何でこんな内陸にあるんだ。湖に浮かべたのか?」

 今度はドノバンが答えた。

「いや、船の材木をばらして使った残りだろう」

「ってことは、俺たちみたいな漂流者か?」

「たぶんそうだ」

  

 みんなはショックを受けている。

  

 漂着してからずっと、人間のこんせきを見たことはなかった。文明とは関係のない、手つかずの自然だけだった。

  

 それが突然、船の残がいを目にしたんだもの。びっくりするよね。わたしもびっくりした。展開をわかっていたはずなのに。

  

 ガーネットがたまらず泣き出したので、わたしはだきしめた。

「大丈夫だよ。何も怖くないからね」

  

 ブリアンがみんなに声をかける。

「残っているのは、船の残がいだけじゃないかも。探してみよう」


 ドノバンも言う。

「みんな、まとまって動くんだ。ヒカリ、勝手にどこかに行くなよ」

「言われなくてもわかってるから!」

 何でわたしに言うのかな。ファンじゃないんだから、そんなフラフラしないし。

  

 そういえば、さっきからファンの姿が見えない。


「ファン、どこ?」

 声を上げて呼ぶと、向こうの方でファンが吠える声がした。

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