第25話 島には湖がある

 島には湖がある。ちょうど真ん中くらいに。その湖のほとりで、住むのに適した洞くつを見つけるんだよね。

  

 だから今回の探検は湖がゴールなんだけど、すんなりとはいかないのだ。

  

 原作ではドノバンたちは、がけにのぼって、密林に入って、さまよった末に、湖にたどりつくんだ。できれば崖や密林は遠慮したいなぁ……。

  

 わたしは、いつも顔を洗ったり洗たくしたりしている川が、実は湖から流れていることを知っている。そこで、探検のルートを決めるとき、川沿いに上流に進む案を強く訴えた。


「この川は水量が豊富だから、上流に水源があるんじゃないかな。確かめたいと思わない?」とか。「引っ越す先には水があることが前提だよね。だから川沿いに進めばいいと思うよ」とか。繰り返し言った。


 ドノバンはもちろん反対した。

「あれこれ言いやがって。だからお前を参加させるのは嫌だったんだ」


 でも、ブリアンもサーヴィスもウィルコックスも、わたしに賛成した。「川沿いなら道に迷う心配もないよ」と言うと、ドノバンもしぶしぶ納得した。

  

 そんな感じでルートも決まった。わたしたち六人と一匹は、早朝に出発した。


 スラウギ号のみんなが総出で見送ってくれた。小さな牧師のアイヴァースンが泣きそうな顔で、「みんなの無事を毎日祈っているからね」と言ったので、わたしも感激して涙が出そうになる。


 ドノバンたち四人は肩から猟銃をさげている。わたしとガーネットも勧められたんだけど、断った。撃てる気がしないし、間違って誰かを撃ったら大変だ。

  

 服装はスカートじゃなくて、ちゃんと長そでと長ズボンを着て、手にはつえを持った。

  

 そうそう。食料も準備したよ。くんせい肉とコンビーフ缶とビスケットをパックにして、みんなに配ったんだ。途中で狩りをするつもりだけど、これで二日くらいはしのげると思う。

  

 わたしたちは川沿いに、東へ東へと進んだ。先頭がドノバンで、しんがりがブリアンだ。

  

 森にはこれまでも山菜や木の実を探しに入ったことがあった。でも、これほどの本格的な遠出は初めてだ。ガーネットも興味深そうにあたりを見回している。


「ヒカリ、すごいね。こんな深い森、見るのも歩くのも初めてだよ」

「ガーネット、わたしもだよ。ドキドキするよね」


 ファンもちゃんとついてきている。かしこい犬だから、リードがなくても平気だ。ファンはときどき川に入ったり、川の水をがぶがぶ飲んだりした。


 わたしは歩きながら、近くにいたウィルコックスにそっとたずねた。

「ねぇ、ウィルコックスはここが大陸だと思う?」

「無人島だ」

 ウィルコックスは即答した。

  

「どうしてそう思うの?」

「海岸の海鳥が人間を怖がらなかった。大陸ならあり得ない」


 なるほど。さすがウィルコックスはよく観察している。わたしは思わず言った。

「それならドノバンにも、そう教えてあげたらいいのに」

「ドノバンが大陸だと信じているのは、希望を持ちたいからだ」


「希望って、どういうこと?」

「大陸なら街がある。ニュージーランドに帰る船を探せる」

「まあ、そうだよね」

「ドノバンはみんなを連れて帰ることが自分の役割だと思っている。だから大陸説を信じたいのさ」

「ふうん」


  ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎


「このあたりでちょっと休もう」

 昼前にブリアンがみんなに声をかけた。


 早朝から歩き続けて、わたしもさすがにちょっと疲れた。

「朝からどれくらい歩いた?」

「三、四マイルくらいは歩いたよ」


 川沿いのルートを選んでなければ、木々にさえぎられて、これほど進めなかったと思う。原作ではほとんど遭難に近い状態で夜を迎えていたから。

  

 うれしいことに、川べりにキイチゴがなっていた。わたしたちは黒っぽい実をつんで口に入れた。久しぶりの果物だ。


「うーん、甘酸っぱくておいしい」

「生き返る」


 みんなで昼食がわりに食べて、それからリュックにも入れた。


 わたしはキイチゴで何かつくれないかと考える。

 一番いいのはジャムだけど、残念ながら砂糖があまりない。代わりに赤ワインで煮詰めたら、ジャムっぽく仕上がるかな。それをビスケットの生地にのせて焼いたら、タルトになるかもしれない。

  

 みんな甘い物にうえている。とくに低学年の子らは、甘い物が食べたくてしかたがない。今回はそんなに持ってかえれないから無理だけど、いつかつくってあげたいな。

  

 一休みしたところで、再び先を目指すことになった。


 わたしは吹き出る汗をぬぐう。川沿いは木がないから日差しがきつい。わたしはバッチリ準備をしたつもりだったけど、帽子を持ってくるのを忘れていた。


 居残りの少年の誰かに借りようと思っていたのに、うっかりしていた。


 まぁ、仕方ない。


 あきらめて歩こうとしたら、ドノバンが自分の帽子をわたしに投げてよこした。幅広のつばに、鳥の尾羽の飾りがついた上等な感じのやつだ。


「これをかぶっていろ」

「え、別にいいよ」

「日差しだけじゃない。木の上からサソリが落ちてきたら困るだろ」

 ドノバンが真顔で言う。


 そう言われると不安になり、わたしは素直にドノバンから借りることにした。

「ありがと」

  

 ドノバンの帽子をま深にかぶる。日差しが少し和らいで、歩く元気が出た。

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