第24話 また夢を見た
また夢を見た。
場所は、おじいちゃんの洋食レストランだ。
なぜかスラウギ号のみんながお客さまだった。小さな店だから、十五人が入るとカウンターとテーブル席は満席に近い。
おじいちゃんの姿が見えない。お店を切り盛りしているシェフは、わたしだった。
わたしは白い服と白い帽子を身につけ、みんなからの注文を次々とさばく。
ロールキャベツ、スコッチエッグ、オニオングラタンスープ、それに看板メニューのオムライス!
わたしの料理をみんなが喜んで食べてくれた。
コスターは次から次へとおかわりをした。ブリアンもバクスターもモコも笑っていた。
あの憎たらしいドノバンも、ちゃんとナプキンをかけて、わたしの料理を食べた。
「ヒカリシェフ! とってもおいしいよ」
ガーネットが立ち上がって拍手をしてくれた。
さすがはわたし!
さすがはわたしのレストラン!
いや違う、おじいちゃんのレストランだ。えっと、おじいちゃんの店の名前は何だっけ。店の名前がまたしても思い出せない――。
✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎
そこで目が覚めた。
ほおが涙で濡れていたけど、さみしい夢ではない。むしろ楽しい夢だった。
現代でシェフになって、わたしの店にスラウギ号のみんなが来てくれる。そんな未来があり得るなら、最高だ。いつか本当に、そんな風になればいいのに。
わたしが「十五少年漂流記」の世界に入って、スラウギ号が海岸に漂着して、あっという間に三週間が過ぎた。
暦は一八六〇年の四月になった。南半球は季節が逆だから、日本の感覚でいえば十月かな? 夏から秋へと移りつつある。
スラウギ号のみんなは、海岸から離れることを考えていた。
もともと助けの船が通りがかるのを期待して海岸にとどまっていたんだよね。砂浜に乗り上げたスラウギ号も仮住まいとして使えたから。
でも、だんだんスラウギ号が風雨にさらされ、いたみが激しくなってきたんだ。そのうち倒れたり崩れたりするかもしれない。危険だ。
それに冬になったら、寒風ふきすさぶ海岸は暮らしにくい。どこか住みやすそうな場所を探すために、上級生は内陸への探検を計画していた。
探検の目的はもうひとつある。
原作では、ここが「大陸」だと主張するドノバンと「島」だと主張するブリアンが競いあうんだよね。それで、ウィルコックスとサーヴィスを加えた四人が探検の旅に出るんだ。
まぁ、この世界のブリアンは原作ほど熱血じゃないから、緊張感は薄いけど。でも、そろそろ大陸か島かをはっきりさせたいという議論は高まっていた。
これはチャンスだ。
わたしはひそかに考えていた。
これまでも少年たちは近くの森などへ探検に出かけている。わたしも探検に参加したいと思って、機会をうかがっていた。
わたしの記憶が確かなら、今回の探検は重要だ。内陸で洞くつを発見して、そこを新しい住居に定めるはずなんだ。
わたしはガーネットにまず打ち明けた。
「次の探検、わたしも参加したいと思っているんだ」
「えっ、いいなぁ。わたしも行きたい」
「大変だと思うよ。たぶん三日くらいは野宿しないとだめだと思う」
「ヒカリと三日も離ればなれになるのは嫌だよ。わたしも絶対に行く」
原作ではガーネットが探検に参加したことは一度もないのだが、そういえば彼女の夢は冒険家になることだった。
「それなら二人で一緒に参加しようよ」
わたしもガーネットとは離れたくないから、一緒にきてくれたらうれしい。
それに今回のメンバーは、冷静で頼りになるウィルコックスと、ガーネットがよく知っているサーヴィスが参加しているから、ちょうどいい。
翌日、探検の相談をしている上級生のところに、わたしとガーネットも顔を出す。
「その探検、わたしたちも一緒に行きたい」
そう宣言すると、大騒ぎになった。
「えー!」
わたしたちが参加を希望するとは想像もしていなかったらしい。
猛反対したのはドノバンだ。
「お前はバカか! ふざけるな」
小学生ならともかく、この年齢になって人から「バカ」と言われることは少ない。わたしはさすがにムッとして、ドノバンをにらみつける。
「言い方! ひどい。そんなに驚くことじゃないでしょ!」
「ダメだ。危険すぎる。もしかしたら原住民とそうぐうして争いになるかもしれない」
「その危険性は海岸にいても変わらないよ。新しい住まいを探すならわたしたちの意見も重要だと思う」
そもそも、わたしは知っている。ここは無人島だ。大陸ではないし、原住民はいない。
ブリアンはいつもながらユルい。
「いいんじゃない? 二人が加わっても」
その言葉に、ドノバンの顔がますます険しくなる。
ゴードンがわたしたちを見回して言う。
「もともと危険な探検にみんなを行かせるつもりはない。ヒカリとガーネットが一緒なら、ドノバンたちも無理はしないだろう。加わってもいいんじゃないか」
まとめ役のゴードンの言葉には、ドノバンも従うしかない。
わたしはドノバンに声をかけた。
「ドノバン、心配しなくても大丈夫だよ」
「俺たちに付いてこられなかったら、置いていくからな。荷物も自分で持てよ」
「わかってる。もとからそのつもりだよ」
コスターら下級生たちはブーブー文句を言っている。
「ヒカリとガーネットがいなくなったら、つまらない」
ふっふっふ。君らは、おねえさんたちにすっかりなついているよね。
「大丈夫、すぐに戻ってくるから」
わたしはそう言ってほほ笑んだ。
ゴードンがわたしに言った。
「ファンも連れていくといい。何かと役にたつだろう」
やった!
わたしはしっぽをふって近寄ってきたファンの首を抱えてなでた。
「よしよし。ファンもよろしくね」
こうしてわたしとガーネットが探検に加わることになった。
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