第23話 みんなに呼びかけたよ
みんなに呼びかけたよ。
「これから第1回保存食けんとう会議を始めます!」
その日の夕方のことだ。少年たちは一日の活動を終えて、みんな船室に戻ってきていた。
わたしはあえて、みんながいる時間帯をねらって会議を開いたのだ。わたしたちが何をやろうとしているか、活動を見てもらいたかったから。
「何だか不思議なメンバーだよな」
わたしたちを見て、クロッスとウエッブがひそひそ話す声が聞こえた。うん、今回だけは、彼らの言葉に賛成してもいい。実際、不思議なメンバーだと思うから。
わたし、ガーネット、ウィルコックス、バクスター、モコ。それから、ゴードンにも加わってもらった。
ゴードンには事前にモコのことを相談している。
「モコへの態度を改めてほしいんだ」
そう頼むと、ゴードンも全面的に賛成してくれた。
「ぼくの祖国のアメリカでも差別をなくそうとしている。リンカーンの訴えが注目されているよ」
ゴードンは言った。
「あっ、リンカーンなら知っているよ! アメリカの大統領でしょ?」
「まだ大統領にはなっていない。でもリンカーンが大統領になったら、社会が変わるかもしれないな」
その言葉を聞いて、わたしはウィルコックスがゴードンを加えた意味がわかった。
さて、本来の目的である保存食について話を進めよう。わたしは机の上に、びんづめや缶づめを並べた。
「スラウギ号にも保存食は積んであるんだけどね。これだけじゃ冬を越すには足りないんだ」
ガーネットがたずねる。
「使い終わったびんや缶は、もう一回使えないのかな」
「びんは使えるよ。缶は無理だね。ふたを閉じるのが難しいから」
そこで本命は干物なんだけど。肉も魚も干し方が意外と難しいのだ。
「モコ、船では干物をつくることある?」
「ああ、航海中によくつくるよ」
「どんな風に?」
「魚はアタマと内臓をとる。骨もとった方が食べやすいね。いったん海水につけて干すんだ。半日もしたら干物になるよ」
「海の上はハエがこないから。清潔でいいよね」
モコには事前に、「会議では敬語を使わなくていい」と頼んでおいた。それに応えて、頑張って普通に話してくれたことがうれしい。
メンバーではないけど、横で聞いていたコスターが興味を持ったらしい。モコにたずねた。
「ねぇ、どんな魚を干すの?」
「どんな魚でも干せるよ。船に飛び込んできたトビウオを干したこともあるんだ」
「トビウオ! すごい!」
「イカもおいしい。背骨と内臓をぬくだけで、簡単に干せる」
「いいなぁ、ぼくも食べたいなぁ」
モコはもともと陽気な性格なのだろう。船乗りの経験を明るく話してくれるので、低学年の少年たちはすぐになじんでくれそうだ。
わたしも口をはさんだ。
「貝だって干物になるよ。干し貝ってあるから」
ガーネットがたずねる。
「ヒカリ、貝は生のまま干すの?」
「海水でゆでて煮干しにした方が安心かな。干し貝があれば、美味しいスープが簡単につくれるよ」
海のそばにいる今なら、小魚や貝はいくらでもとれる。低学年の少年たちにどんどんとらせて、干物にしたい。ちょっとした干物工場だよね。チェアマン干物工場!
わたしは言う。
「まあでも、問題は陸上でどうやって干すかなんだけど。バクスター、どうしたらいいと思う?」
バクスターがささやくように答えた。
「そ、外じゃなくても、干物は作れるよ」
「そんなことできるの?」
わたしは洗たくものの室内干しを想像した。なんだか部屋のなかが干物くさくなりそう。それにハエは船室にも入ってくるから、うまくいかない気がする。
でも、バクスターの考えはそうではなかった。
バクスターは何やら机の上に取り出す。準備してきたらしい。針金を曲げてつくった「ごとく」のようなものに、網とフライパンを二段重ねで置いた。
「こ、これを、そのまま火にかけるんだ。で、フライパンにはこれを入れる」
バクスターは木くずを下のフライパンに入れた。
「あ、わかった! なるほど!」
わたしもバクスターの意図に気付いた。
フライパンを熱して干物をつくるんだよね。干物というよりも、くんせいだ。
「へ、部屋の中でも、こ、これなら短い時間でつくれる。た、大量につくるなら、浜辺でも大丈夫だと思う」
「火のそばにはハエもよってこないよね」
ウィルコックスが木くずをつまみあげて言う。
「この木は何だ?」
「う、裏の森で、ひろってきた」
「いい香りがする木を探そう。ヒッコリーとか」
わたしも言う。
「いいね! リンゴの木とか!」
「ヒカリ、リンゴがあったら、そもそも実を食べるよ」
ガーネットの言葉に、わたしも笑う。
「あはは、そうだね」
そんな感じでわたしたちは話し合った。
だんだん他の少年たちも会話にまざってきて、ワイワイにぎやかに話が進んだ。
わたしは部屋の隅に目をとめる。ドノバンが腕を組んでこちらを眺めている。
わたしが笑いかけると、ドノバンはそっぽを向いた。
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