第16話 少し変化があった
少し変化があった。身の回りの生活に関して。
まず服装!
わたしが持っている服はもともと着ていたやつだけで、着替えはガーネットに借りてしのいでいた。
実はガーネットは大きなスーツケースに服を山のように持ち込んでいたんだよね。ガーネット(兄)の男物の服だけでなく、女物の服もたくさん!
「考えてみたら、男物の服をずっと着ている必要ないよね?」
ガーネットはそう言って女物の服をいそいそと取り出し、わたしにも勧めた。
ガーネットはわたしよりも小柄だけど、わたしはやせている。ガーネットの服は十分着られるサイズだ。
レースのついたブラウスとかコットンのワンピースとか。どれもクラシックなデザインで、きちんと仕立てられていて、おしゃれなお出かけ着って感じ。すごくかわいい。
ある朝、わたしたちがそろってワンピースを着て登場すると、少年たちが目を丸くした。いつもブーブー文句ばかり言っているドールまでが、何だかモジモジしている。
ふふふ、ちょっと新鮮だ。
そこへドノバンが通りがかり、わたしをにらみつけて言った。
「なんだ、その
「別に浮ついていないし。普通の服だよ」
「ふん、この場所には不向きな服だな」
「とか何とか言って、見とれてるんじゃない?」
「はあ? バカを言うな!」
ドノバンが赤い顔で言い返した。
わたしは調子にのってたずねる。
「どう? 似合ってる?」
「……まるで本物の女みたいだな」
「本物の女だから!」
前にも言ったけど、わたしはショートカットで、遠目には少年に見えると思う。ガーネットみたいに愛らしくもない。
だけどさぁ。
なんかこう、もうちょっと、ほめ言葉はないものかな。
ドノバンは視線をそらすと言う。
「森に入るときは気をつけろよ。足をむき出しにしていたら虫に刺されるぞ」
わたしはワンピースからひざこぞうが出ているのが、急にはずかしくなる。
「むぅ。言われなくたって、わかってるし」
そう答えると、その場を急いで去った。
何ごとも「時と場合」は大切だ。
無人島生活ではズボンやシャツの方が便利だ。でもね、たまにスカートをはくと、気分が変わるんだ。少年たちには、わかってもらえないかもだけど。
ガーネットと一緒におしゃれをして、甲板から海に沈む夕陽を眺めていると、最高にすてきだよ。無人島じゃなくて、まるでリゾートにいるような気がして。
✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎
さて、もうひとつ。わたしはみんなに提案して、食べ物にかかわる会議をつくった。
保存食けんとう会議っていうんだ。
その名の通り、保存食についていろいろ考えて話し合うグループだよ。
料理担当になったわたしがまず手をつけたのは、保存食の問題だった。
この無人島には、とうぶん助けの船なんかやって来ない。みんなは知らないけど、わたしはそのことを知っている。
いまは夏だからいいけど、そのうち秋がきて冬になる。この島の緯度はニュージーランドよりも南極に寄っているから、冬は雪がつもってかなり寒くなるはずなんだ。
もう少ししたら、みんなは海岸に座礁しているスラウギ号を離れて、住むところを内陸に移すことになる。
だから食料の問題は早めに手をつけた方がいい。冬に備えて保存食をいろいろ準備したい。そこで会議を立ち上げることにした。
ガーネットにアイデアを伝えると、まず質問された。
「それは大切な問題だけど、メンバーは誰にするの?」
「ちゃんと考えているよ」
わたしは三人の名前を挙げた。
ウィルコックス。
バクスター。
モコ。
ガーネットは首をひねる。
「その三人、何だかあまりピンとこないなぁ」
うん、ガーネットの反応は理解できる。
「なぜこの三人を選んだのか、すぐに分かると思うよ。もちろんガーネットにも入ってもらうからね」
「うん! わたし、ヒカリのやることなら何でも手伝うよ」
さて、わたしたちはその日、さっそく三人に声をかけることにした。
まずはウィルコックスだ。
「……というわけでさ、ウィルコックスにも協力してもらえないかな?」
「ん、わかった」
事情を話すと、ウィルコックスは二つ返事でオーケーしてくれた。相変わらずクールで愛想がないけど、理解がはやくて助かる。
ネタバレを少し話すよ。
原作では、狩りが大好きなドノバン一味の四人組(ドノバン、クロッス、ウェッブ、ウィルコックス)の中で、ウィルコックスだけが弾を節約することを考えるんだよね。
ドノバンはバカにするんだけど、ウィルコックスは動物を生け採りにする方法を工夫する。それが後で大きな成果を挙げることになるんだ。
持続可能性。
前にも言ったけど、この難しい言葉が、とても大切だとわたしは考えているよ。
生活を続けていくための工夫について、わたしはウィルコックスなら分かってもらえるだろうと思っていたんだ。
さて、問題は残りの二人、バクスターとモコだった。
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