第14話 さて二皿目は何でしょう?
さて二皿目は何でしょう?
正解はスープだよ。わたしはお玉ですくってスープボウルに注ぎ、ガーネットに配ってもらった。
みんながざわつく。
「なんだこれ?」
「変な葉っぱが入ってる!」
「葉っぱじゃなくて色紙?」
いやいや、色紙なわけないでしょ!
わたしは説明した。
「これは海藻だよ。岩場で採ったんだ」
たぶん、アオサノリだと思う。
そう、お味噌汁に入っているやつ。
正直いって、わたしは海藻の種類がよく分からない。間違って変なのを食べたら、毒があったり中毒になったりするのかな?
でもアオサノリなら大丈夫だと思う。ゆでてみると、きれいな緑色の見慣れた姿になったので、使ったのだ。
ガーネットに聞くと、海藻は食べたことがないらしい。考えたら洋食に海藻って使わないよね。みんなが驚くのも、仕方ないかも。
ドールが口をとがらせて言う。
「食べられるの? この色紙」
「だから色紙じゃないって。食べてみてよ」
こわごわ口をつけたドールが目を見開いた。
「あれっ、おいしい」
みんなも食べはじめた。
「食べたことがない味だね。でもおいしい」
コスターがそう言ってスープをすする。
うん、評判は悪くないみたい。わたしはホッとする。といってもアオサノリは最後に浮かべただけで、スープの味にはほとんど関係ない。
ゴードンが言った。
「深い味わいだ。どうやって味をつけたんだ?」
「ふふん。貝と小魚だよ。白ワインで煮て味のベースにしたんだ。貝と小魚も入っているから、一緒に食べてね」
クロッスが声をあげる。
「白ワインだって? 料理に使うなんてもったいない!」
「もったいなくないよ。子供はどうせ飲まないんだから」
わたしはそう言い返した。
そうだ。ちゃんと説明しておきたい。
わたしはクロッスにたずねる。
「ねぇ、料理のねらいを説明していいって約束してたよね。いまここで話してもいいかな?」
「ああ、好きにしたらいい」
クロッスが不満げに答えた。
わたしはみんなを見回すと、言った。
「じゃあ説明するね。わたしは今回の決闘では、おいしさを最優先したわけじゃないんだ。もちろんできるかぎり、おいしくつくったけどね」
「そりゃそうだろう。おれたちの肉の方がうまいよな」
ウエッブが繰り返しうなずく。
わたしは一呼吸おいて、言葉を続ける。
「わたしが力を入れたことは二つあって。ひとつは身体にいいものをつくりたかったんだ」
ブリアンが言う。
「へぇ、この海藻は身体にいい食べ物ってこと?」
「うん。海藻は海の野菜だから。栄養もあるよ。肉が悪いわけじゃなくて。肉も魚も野菜も、いろいろ食べたほうが身体にいいってこと」
「ふうん。きみは面白いことを言うね」
ブリアンがほほ笑んだ。
わたしは言葉を続ける。
「もうひとつは、特別なものじゃなくて、身近な材料で、食べ続けられるものをつくりたいなって思ったんだよ」
ゴードンが聞き返す。
「ヒカリ、食べ続けられるものって、どういう意味だ?」
「ほら、ビスケットは豊富にあるでしょ。工夫したらもっとおいしく食べられるよね。お酒もそう。煮たらアルコールが飛ぶから、料理にいろいろ使えるよ」
えっとね、持続可能性。
難しい言葉でいったら、そんな感じ。
ちゃんと伝わっているかなぁ。
やっぱり毎日食べるものだからさ。たくさんあるものや身近な食材をうまく活用することが大切だと思うんだ。
✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎
みんなが一通り食べ終わった。
アイヴァースンが言う。
「では、立会人からそれぞれ審査結果を発表してもらいます」
わたしとサーヴィスは並んで前に立ち、試合が終わったボクサーみたいなしんみょうな顔つきで、審査を待つ。
ふぅ。
ドキドキ。
わたしはぎゅっとこぶしを握りしめる。
まずゴードンが言った。
「ヒカリだ」
続いてブリアンが言った。
「ヒカリだね」
やった!
二人が選んでくれた!
この時点でわたしの勝ちが決まった。
「えー!」
「何でサーヴィスじゃないんだよ!」
クロッスとウエッブがさわいでいる。
「ヒカリ、やったね! おめでとう!」
ガーネットが抱きついてきて、わたしのほっぺたに繰り返しキスをした。
「あははは、ありがとう。くすぐったいって!」
ふと、立会人の方を見る。
まだドノバンが残っている。
アイヴァースンがうながした。
「ドノバンの審査結果は?」
みんながドノバンに注目する。
ドノバンはため息をついた後、言った。
「……女の方だ」
クロッスとウエッブがつめよった。
「ドノバン、いま何て言った? サーヴィスだよな?」
「その女の方、ヒカリだ」
「何でだよ、ドノバン! 何であんなやつを選ぶんだよ!」
わたしも意外だった。ドノバンはきっとサーヴィスを選ぶと思っていたからだ。
ドノバンがクロッスたちに言う。
「あのウズラ、五羽くらいあったろう。羽をむしって焼き上げるまでにどれくらい時間がかかった?」
「二時間くらいかな」
「まったく。お前らは毎朝二時間もかけて朝食をつくるのか?」
「あっ……」
ドノバンの言葉にクロッスとウエッブが言葉を失う。
なるほど。ドノバンがウズラを食べながら苦々しい顔をしていたのは、そういうことか。ドノバンが思ったよりもまじめに審査していたことに、ちょっと感心した。
サーヴィスが首をふってつぶやく。
「これが朝食の勝負だってこと、うっかり見落としていたわ。おれの負けだ」
わたしはサーヴィスに言う。
「あのお肉、おいしかったよ。ねぇ、サーヴィス、鳥の羽のむしりかた。今度わたしにも教えてほしい」
わたしの言葉に、サーヴィスがパッと顔を輝かせた。
「おう! このサバイバルの達人が教えてやるよ!」
ガーネットがわたしにささやく
「あーあ、そんなこと言ったら、サーヴィスがまた調子にのっちゃうよ」
こうしてわたしは料理担当の座を勝ち取ったのだった。
決闘がお開きになり、みんなが立ち上がる。
わたしはドノバンに話しかけた。
「ドノバンって、ちゃんとした判断をする人だったんだね」
ドノバンはわたしをにらみつける。
「ふん、おれは神さまの前で、紳士たらんと思っただけだ」
「ふふふ。ドノバンのこと、見直したよ」
「いい気になるな。お前のことを認めたわけじゃない。朝食を認めただけだ」
ドノバンはそう言ってぷいと顔をそむけた。
ドノバンはプライドが高くて偉そうだけど、根っから悪いやつではないのかもしれない。
わたしはそう思い始めていた。
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