第13話 これから決闘を行います

「これから決闘を行います」

 宣言したのは、アイヴァースンだ。


 スラウギ号の船室に、わたしと十五人が集まっている。

  

 アイヴァースンは牧師の子だ。本人も牧師になるつもりなので、食前などのお祈りはいつもアイヴァースンが担当している。チェアマン寄宿学校では、決闘は神さまのもとで行う儀式なのだ。


 アイヴァースンは普段は物静かで前に出るタイプではない。こういう場面では堂々としてみえる。


 すごいなぁ。「牧師」のアイヴァースンと、「学者」のジェンキンズは、同じ年齢で仲がいい。まだ九歳なのに、二人とも優秀だなぁ。

  

 立会人のゴードン、ドノバン、ブリアンが前に出て、アイヴァースンの横に立った。直立不動のゴードン、胸をそらしたドノバン、リラックスしたブリアンと、立ちかたにも個性が表れていて面白い。


「決闘者も前に」

  

 みんなを観察していたら、自分が呼ばれた。わたしはあわてて前に出る。


 アイヴァースンが言う。

「決闘者、サーヴィスとヒカリ。神さまの前で正々堂々と闘うことを誓いますか」

  

「誓います」

 サーヴィスが答えた。

「は、はい! 誓います!」

 わたしも後から答えた。


 アイヴァースンが両手を広げて述べた。

「天の御心みこころは天びんに宿る。正しき者に勝利の祝福があらんことを」


 何だかよくわからないけど、これがチェアマン校のやり方らしい。みんなが歓声を上げ、決闘が始まった。


 といっても、調理は終わっている。あとは食べてもらうだけだ。


  ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎

  

「じゃあ、おれたちから出すぞ」

 クロッスとウェッブが皿を配りはじめた。わたしも席について皿を受け取った。さてどんな料理だろう。


 皿にのっていたのは、焼き鳥だ。


 骨付きの一口大の肉が数切れ、ホカホカと湯気をたてている。

  

「さぁ、どうぞ。食べてみて」

 サーヴィスの言葉に、みんなが肉にかぶりつく。


 わたしも食べてみた。

「わ、おいしい!」

 思わず声が出た。

  

 何の肉だろう?

 骨についた肉をしゃぶるようにして食べる。かみしめると独特のうまみがあって、いくらでも食べられそうだ。

  

「これはウズラの肉だよ」

 サーヴィスが説明した。

  

 ウズラだったんだ!

 タマゴは食べたことがあるけど、肉ははじめてかも。

  

 クロッスとウェッブが得意げに言った。

「おれたちが海岸の裏の森で狩ってきたんだ」

  

 くやしいけど、おいしい。

 焼き加減もちょうどいい。最近びんづめや缶づめばかりだったから、焼きたての肉のインパクトはすごい。

  

 犬のファンも骨をのぞいた肉をもらって、アグアグと食べている。

  

 前の席では、食いしんぼうのコスターがあっという間に食べ終わっていた。

「なくなっちゃった。もうないの?」

 その言葉にみんなが笑った。

  

 立会人らも食べている。

  

 ゴードンは何やらメモしている。ゴードンはいつも自分が見聞きしたことを記録しているのだ。

  

 ブリアンはゆっくりと味わっているようだ。

  

 ドノバンも子分の健闘を喜んでいるのかと思いきや、意外にも苦々しい表情をしていた。不思議に思って眺めていると、ドノバンと目が合う。視線に気付いたドノバンが、舌打ちしてあさっての方向を見た。

  

 みんなが食べ終わった。

 次はいよいよわたしの番だ。

  

 キッチンストーブのところにいって、ガーネットに手伝ってもらいながら配ぜんした。

  

 ガーネットがささやく。

「ヒカリ、きっと大丈夫だよ」

「うん、そうだといいな」

  

 メニューは最終的にガーネットと相談して決めたのだ。ガーネットは太鼓判を押してくれた。わたしらしいメニューになったと思っているけど、どうだろう。


 わたしは二皿つくった。

 まずは一皿目だ。

  

「えっ、パンケーキ?」

 皿を前にした少年たちがどよめいている。

  

 そう。一皿目はパンケーキだ。

 わたしはキツネ色をした焼きたてのパンケーキを配った。


「さぁ、どうぞ、召し上がれ」

 みんながパンケーキを食べはじめた。


「おいしい!」

「ふわふわだ」

  

 わたしも一緒に食べる。

 うん、うまく焼けている。これにメイプルシロップを添えたら最高だよね。バターはあるけど貴重だから、今回はあえて出さなかった。

  

 低学年の少年たちは競うようにパクパクと食べている。

  

 ゴードンが首をひねりながら言った。

「小麦粉はないんだろ。どうやってつくったんだ?」

  

 わたしはガーネットに目配せしてほほ笑む。予想された反応だ。

  

「これね、材料はビスケットなんだ」

「ビスケット? これが?」

「うん、低学年の子供たちがとってきた海鳥のタマゴも使っているよ」

  

 ビスケットを砕いて水に溶かし、タマゴを加えて練り上げて焼いたのだ。風味づけにほんの少しブランデーも加えた。


 小麦粉がないと聞いたときから、わたしはビスケットが代わりに使えるんじゃないかと思っていた。


 そのままだとパサパサして味が薄いビスケットも、こうすると温かくて朝食らしいメニューになる。

 

「へぇ、面白い。考えたね」

 ブリアンが感心したように言った。

  

 ファンにももちろんあげたよ。ワフワフと喜んで食べている。

  

 わたしはコスターにたずねた。

「どう、コスター。お味は気に入った?」

「なかなかいいね。ママのパンケーキにはかなわないけど!」

 その口ぶりが偉そうでかわいらいく、みんながまた笑った。

  

 ここまでは好評のようだ。

 次は二皿目。ドールが「まずそう」と言った、問題の料理だ。

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